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今月の音遊人:東儀秀樹さん 「“音で遊ぶ人”といえば僕のことでしょう。どのような楽器の演奏でも、楽しむことだけは忘れません」
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ジェフ・ベック:ジョニー・デップとの共演作を発表した孤高のギタリストが見せるヒューマンな側面
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2022.8.22
ジェフ・ベックがジョニー・デップと合体したコラボレーション・アルバム『18』が発表された。
ヤードバーズ、ジェフ・ベック・グループ、ベック・ボガート&アピス、そしてソロ・アーティストとして、ジェフは60年近く音楽シーンの最前線で活躍してきた。2022年に78歳を迎えた彼だが、そのギターは鋭さを増すばかり。ジョン・レノンの『孤独』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『毛皮のヴィーナス』、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』などのカヴァー曲でも冴えわたるプレイで魅せてくれる。ジェフが楽しげに必殺フレーズを次々と繰り出し、デップも気負いすぎることない歌声を披露するのがこのアルバムだ。
ギターにすべての情熱を注ぎ込む“孤高のギタリスト”というイメージのあるジェフゆえに、“変わり者”あるいは“人嫌い”というレッテルを貼られがちだが、それは決して正しくはない。実際には、彼はお茶目なジョークを交えながらけっこう雄弁に話す人物だったりする。
筆者(山崎)はジェフとはあくまでインタビューで接したことがあるだけだが、彼と話した回数は1999年、2005年(2回)、2006年、2010年、2017年の6回と、現役日本人ジャーナリストとしては多い部類だと思われる(もちろん通訳は無し)。そんな経験から知った彼の人間像について記してみたい。
決して無駄口を叩くタイプではなく、ポイントを突きながら話すジェフだが、言い回しに独特なものがある。数年のブランクのあいだ何をやっていたのか?と訊かれて「いろいろやることがあるんだよ。“生きる=live”とか」と答えるのもそうだし、ギターのフレーズを“ジムナスティクス”、プログラミングなどのテクノロジーを“テク”という語句で表現するなど、その言葉の選び方には彼のギター・プレイに通じるヒネリがあったりする。
ジェフは会話の中でちょっとした軽口やジョークを挟むことが多い。インタビュー中でコンサート・チケット価格の高騰について「ザ・ローリング・ストーンズのチケットなんて5万円を超す席もありますし……」と話題を振ったところ、こんな返事が返ってきた。
「信じられないね。2時間の昼寝をするために、よくそんなに払う人がいるものだ!」
もちろんこれは彼がストーンズのメンバー達と親しい友人だから言えるジョークで、彼も笑いながら話していた。
一方、ギャグなのか“天然”なのか判らない発言もあるのもジェフの個性だったりする。ライヴ・アルバムのプロモーションに際してのインタビューだというのに「基本的にライヴ・アルバムは嫌いなんだ。ちょっとしたミスを世界中のリスナーにしみじみと聴かれてしまうからね。しかもご丁寧にリマスターまでされてしまうんだから!」とぶっちゃけてしまう。
また、自分のギターをペイントの剥げ具合や傷まで再現した“レリック・モデル”が発売されたときも、そこいらのミュージシャンだったら「すごくソックリで最高だよ!」とベタ褒めするところだが、ジェフはこんな風に語っている。「僕が弾きこんでボロボロにしたギターをわざわざ再現するなんて、不思議だよね。しかもピカピカの新品よりも高い値段だというから、さらに首を傾げてしまう。まあ、わざとジーンズをはき古したようにするのと同じなのかも知れないけどさ」
ただ、そんな商売ッ気を感じさせないあたりがむしろジェフの魅力でもあり、このモデルは即完売したそうだ。
興味深いのは、ジェフの口からやたらと“家に帰る”というフレーズが飛び出すことだ。
(1975年にザ・ローリング・ストーンズに誘われたとき)「アルバムで1、2曲ギターを弾いてくれないか?と頼まれてロッテルダムに行ったけど、メンバーが一人もいなかった。3日目になってピアニストのイアン・スチュワートがホテルのバーにいたんで『僕はゲスト参加のために来たのであって、オーディションを受ける気はない』って言った。ストーンズの音楽性にはあまり魅力を感じなかったし、辞退して家に帰った」
「ロッド・スチュワートの『カムフラージュ』ツアー(1984年)ではゲストとしてプレイすることになっていたけど、連日ツアーで移動して毎晩たった3曲、しかも観客は僕の音楽に興味も持たない連中ばかりだったから10日間で家に帰ることにした」
「ミック・ジャガーとの日本公演(1988年)が実現しなかったのは、当初ストーンズの曲は演らない、セカンド・ギタリストは入れないという約束だったのに、どちらも守られなかったからなんだ。話が違うから家に帰った」
「映画『ブルース・ムービー・プロジェクト』では自分がブルースの語り部みたいに扱われて、伝統派のブルースを弾けと言われた。それで家に帰ろうとしたけど、その場にいたトム・ジョーンズに説得されて最後までやった」
そうして家に帰った彼が何をしているかというと「ヴィンテージ・カーが何台もあるんだ。車いじりで一日が過ぎていくよ」とのこと。
ヤードバーズ時代の同僚ジム・マッカーティの自伝『Nobody Told Me!』によると、1960年代のジェフがやる『セイント 天国野郎』のロジャー・ムーアの物真似がそっくりだったという。ジョークが好きで、自宅が好きなジェフ・ベック。そんな彼のヒューマンな側面を知ると、そのギターがまた異なって聞こえるかも知れない。2022年5月から6月にイギリス・ツアーを行い、9月に北米での一連のライヴも予定されるなど、まだまだ元気だ。2017年以来となる日本公演も、ぜひ実現させて欲しいところである。
発売元:ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2022年7月15日
価格(税込):2,860円
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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