Web音遊人(みゅーじん)

ジェフ・ベック:ジョニー・デップとの共演作を発表した孤高のギタリストが見せるヒューマンな側面

ジェフ・ベックがジョニー・デップと合体したコラボレーション・アルバム『18』が発表された。

ヤードバーズ、ジェフ・ベック・グループ、ベック・ボガート&アピス、そしてソロ・アーティストとして、ジェフは60年近く音楽シーンの最前線で活躍してきた。2022年に78歳を迎えた彼だが、そのギターは鋭さを増すばかり。ジョン・レノンの『孤独』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『毛皮のヴィーナス』、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』などのカヴァー曲でも冴えわたるプレイで魅せてくれる。ジェフが楽しげに必殺フレーズを次々と繰り出し、デップも気負いすぎることない歌声を披露するのがこのアルバムだ。

ギターにすべての情熱を注ぎ込む“孤高のギタリスト”というイメージのあるジェフゆえに、“変わり者”あるいは“人嫌い”というレッテルを貼られがちだが、それは決して正しくはない。実際には、彼はお茶目なジョークを交えながらけっこう雄弁に話す人物だったりする。

筆者(山崎)はジェフとはあくまでインタビューで接したことがあるだけだが、彼と話した回数は1999年、2005年(2回)、2006年、2010年、2017年の6回と、現役日本人ジャーナリストとしては多い部類だと思われる(もちろん通訳は無し)。そんな経験から知った彼の人間像について記してみたい。

決して無駄口を叩くタイプではなく、ポイントを突きながら話すジェフだが、言い回しに独特なものがある。数年のブランクのあいだ何をやっていたのか?と訊かれて「いろいろやることがあるんだよ。“生きる=live”とか」と答えるのもそうだし、ギターのフレーズを“ジムナスティクス”、プログラミングなどのテクノロジーを“テク”という語句で表現するなど、その言葉の選び方には彼のギター・プレイに通じるヒネリがあったりする。

ジェフは会話の中でちょっとした軽口やジョークを挟むことが多い。インタビュー中でコンサート・チケット価格の高騰について「ザ・ローリング・ストーンズのチケットなんて5万円を超す席もありますし……」と話題を振ったところ、こんな返事が返ってきた。
「信じられないね。2時間の昼寝をするために、よくそんなに払う人がいるものだ!」
もちろんこれは彼がストーンズのメンバー達と親しい友人だから言えるジョークで、彼も笑いながら話していた。

一方、ギャグなのか“天然”なのか判らない発言もあるのもジェフの個性だったりする。ライヴ・アルバムのプロモーションに際してのインタビューだというのに「基本的にライヴ・アルバムは嫌いなんだ。ちょっとしたミスを世界中のリスナーにしみじみと聴かれてしまうからね。しかもご丁寧にリマスターまでされてしまうんだから!」とぶっちゃけてしまう。

また、自分のギターをペイントの剥げ具合や傷まで再現した“レリック・モデル”が発売されたときも、そこいらのミュージシャンだったら「すごくソックリで最高だよ!」とベタ褒めするところだが、ジェフはこんな風に語っている。「僕が弾きこんでボロボロにしたギターをわざわざ再現するなんて、不思議だよね。しかもピカピカの新品よりも高い値段だというから、さらに首を傾げてしまう。まあ、わざとジーンズをはき古したようにするのと同じなのかも知れないけどさ」

ただ、そんな商売ッ気を感じさせないあたりがむしろジェフの魅力でもあり、このモデルは即完売したそうだ。
興味深いのは、ジェフの口からやたらと“家に帰る”というフレーズが飛び出すことだ。

(1975年にザ・ローリング・ストーンズに誘われたとき)「アルバムで1、2曲ギターを弾いてくれないか?と頼まれてロッテルダムに行ったけど、メンバーが一人もいなかった。3日目になってピアニストのイアン・スチュワートがホテルのバーにいたんで『僕はゲスト参加のために来たのであって、オーディションを受ける気はない』って言った。ストーンズの音楽性にはあまり魅力を感じなかったし、辞退して家に帰った」
「ロッド・スチュワートの『カムフラージュ』ツアー(1984年)ではゲストとしてプレイすることになっていたけど、連日ツアーで移動して毎晩たった3曲、しかも観客は僕の音楽に興味も持たない連中ばかりだったから10日間で家に帰ることにした」
「ミック・ジャガーとの日本公演(1988年)が実現しなかったのは、当初ストーンズの曲は演らない、セカンド・ギタリストは入れないという約束だったのに、どちらも守られなかったからなんだ。話が違うから家に帰った」
「映画『ブルース・ムービー・プロジェクト』では自分がブルースの語り部みたいに扱われて、伝統派のブルースを弾けと言われた。それで家に帰ろうとしたけど、その場にいたトム・ジョーンズに説得されて最後までやった」

そうして家に帰った彼が何をしているかというと「ヴィンテージ・カーが何台もあるんだ。車いじりで一日が過ぎていくよ」とのこと。

ヤードバーズ時代の同僚ジム・マッカーティの自伝『Nobody Told Me!』によると、1960年代のジェフがやる『セイント 天国野郎』のロジャー・ムーアの物真似がそっくりだったという。ジョークが好きで、自宅が好きなジェフ・ベック。そんな彼のヒューマンな側面を知ると、そのギターがまた異なって聞こえるかも知れない。2022年5月から6月にイギリス・ツアーを行い、9月に北米での一連のライヴも予定されるなど、まだまだ元気だ。2017年以来となる日本公演も、ぜひ実現させて欲しいところである。

■アルバム『18』


発売元:ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2022年7月15日
価格(税込):2,860円
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

Web音遊人 - 牛田智大さん

今月の音遊人

今月の音遊人:牛田智大さん「ピアノの練習をしなさい、と言われたことは一度もないんです」

66751views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase28)ヒンデミット「無限なるもの」、忘れられた大作、「危機」の時代にイエスとともに聴く

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase28)ヒンデミット「無限なるもの」、忘れられた大作、「危機」の時代にイエスとともに聴く

1215views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

17719views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

3498views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

12023views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

4345views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

9134views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3425views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10577views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2526views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8729views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31539views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

13178views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8785views

ココ・モントーヤ

音楽ライターの眼

ブルースを次世代に受け継ぐギタリスト、ココ・モントーヤの濃厚過ぎるサウンド

1503views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

3093views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7158views

P-515

楽器探訪 Anothertake

ポータブルタイプの電子ピアノ「Pシリーズ」に、リアルなタッチ感が得られる木製鍵盤を搭載したモデルが登場!

34172views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

14284views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6212views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1508views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3425views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10601views