今月の音遊人
今月の音遊人:押尾コータローさん「人は誰もが“音で遊ぶ人”、すなわち“音遊人”なんです」
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ブルースを次世代に受け継ぐギタリスト、ココ・モントーヤの濃厚過ぎるサウンド
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2023.9.5
tagged: 音楽ライターの眼, ココ・モントーヤ, ライティング・オン・ザ・ウォール, Writing On The Wall
エレクトリック・ブルース・ギターの名手ココ・モントーヤが2023年、ニュー・アルバム『ライティング・オン・ザ・ウォール』を発表する。
エリック・クラプトン、ピーター・グリーン、ミック・テイラーという花形ギタリストたちを擁したジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズは1960年代後半のイギリスにブルース・ブームを巻き起こした。リーダーのジョン・メイオールはバンドを解散させてアメリカに移住、ソロ・アーティストとして活動してきたが、1980年代中盤にブルースブレイカーズの金看板を復活。そのときギタリストとして起用されたのがウォルター・トラウト、そしてココ・モントーヤだった。
ココ(本名ヘンリー・モントーヤ)は1951年、ロサンゼルス生まれ。ビッグ・バンド・ジャズのファンだった両親の影響もあり音楽好きに育った彼はザ・ビートルズをきっかけにポップ/ロックに傾倒、1969年にクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのライヴを観に行く。そしてヘッドライナー以上に彼の目と耳を捉えたのがオープニング・アクトのアルバート・キングだった。彼はプロ・ミュージシャンを志し、ローカル・バンドで演奏を始める。
1970年代にはアルバート・コリンズのバンドでプレイするなど(当初はドラマーで、途中からギターに転向)、熱心なブルース・ファンにはその名を知られたココだったが、ブルースブレイカーズへの加入によってより幅広いリスナー層に知られるようになった。彼はメイオールの1980年代から1990年代の作品に参加、同じ“シルヴァートーン・レコーズ”からアルバム『Gotta Mind To Travel』(1995)でソロ・デビューも果たしている。
1995年にブルースブレイカーズを“卒業”、ソロ・アーティストとしてのキャリアを開始したココは欧米を精力的にサーキット、アルバムもコンスタントに発表してきた。近年はブルースの名門レーベル“アリゲイター・レコーズ”から作品をリリース、『ライティング・オン・ザ・ウォール』は『Coming In Hot』(2019)以来となる同レーベルからの最新作となる。
ブルースを軸に据えながら、随所でロックのアタックを加味したエレクトリック・ギターとソウルフルなヴォーカル。アルバムの音楽性は、純度200%のココ節ブルースだ。それを“いつもの”ココと言ってしまうのは楽だが、それはいつもの最高レベルのクオリティが保たれているということだ。ココ自身とキーボード奏者のジェフ・パリス、リズム・ギタリストのデイヴ・スティーンらによる曲を中心に1曲目「アイ・ウォズ・ロング」から濃厚なギター・プレイで斬り込んでいく。暑苦しいギターのやりすぎ感に一度ハマったら、他のギタリストが薄味に感じてしまう。
オリジナルはもちろん、カヴァー曲も充実だ。ボビー“ブルー”ブランドで知られる「ユー・ガット・ミー(ホェア・ユー・ウォント・ミー)」で小気味良いビートに乗せたブルース・プレイ、ロニー・マックの「ストップ」での泣きむせぶリード、元フリーのアンディ・フレイザーのソロ作『イン・ユア・アイズ』(1975)からの「ビー・グッド・トゥ・ユアセルフ」のファンキーなノリに至るまで、原曲をフルに生かしながら自分の個性に塗り替えており、どこをどう切ってもココ汁が滴り落ちる仕上がりになっている。この作品に始まったことではないものの、彼の“ブルースの体幹”は揺らぐことのない強固なものだ。
アルバムのゲストとしてロニー・ベイカー・ブルックス(ロニー・ブルックスの息子)とスライド・ギタリストのリー・ロイ・パーネルが参加。プロデューサーのトニー・ブローネイゲルも自らドラマーとして参加、プレイヤーとしてもココを全面バックアップしている。
2020年こそコロナ禍で自宅待機を余儀なくされたココだが、2021年早々にライヴ復帰を果たし、ほぼノンストップでツアー活動を行ってきた。一体いつアルバムを作る時間があったのか?と首を傾げてしまうものの、間隙を縫ってレコーディングしたのであろう、ステージの熱気を封じ込んだサウンドは、CDを手に取るだけで火傷しそうになる。
2023年も彼のウェブサイトにツアー日程がズラッと列記されている。かつての親分ジョン・メイオールは2022年3月、88歳でツアー撤退を宣言したところ。ブルースを次世代に受け継いでいく伝道者として、ココにバトンが手渡されたといえるだろう。
そんなココも71歳と、決して若い歳ではない。だが、その鮮烈なインパクトを持つギター・サウンドは、さらに若いミュージシャン達をブルースの遙かな道へと導いていくだろう。『ライティング・オン・ザ・ウォール』は21世紀においてもブルースが健在であることを高らかに宣言するアルバムなのだ。
発売元:BSMF RECORDS
発売日:2023年9月29日
価格:2,750円(税込)
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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