Web音遊人(みゅーじん)

ヤマハ銀座サマージャズライブ

メンバーの個性が重なり、ひとつの音楽を作りあげていく。ジャズの真髄を凝縮したスペシャルな公演「ヤマハ銀座サマージャズライブ」

去る2023年8月19日、「Seiko Summer Jazz Camp 2023」を終えたばかりの講師陣によるスペシャルライブ「ヤマハ銀座サマージャズライブ」が行われた。スタンダード・ナンバーを中心に、ジャズの楽しさを存分に味わえた公演の模様をレポートする。

3管編成のアンサンブルからボーカル・トリオまで、多彩な編成で観客を魅了

クインシー・デイヴィス(ドラム)によるイントロから軽やかなハイハット・レガートに導かれて、ディエゴ・リベラ(テナーサクソフォン)とベニー・べナック(トランペット)、そしてマイケル・ディーズ(トロンボーン)の3管によるテーマが、颯爽と会場内を駆け抜ける。アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズのメンバーとしても活躍した名ピアニスト、シダー・ウォルトンのペンによる『Ceder’s Blues』だ。

ディーズ、ベナック、リベラ、そしてヨタム・シルバースタイン(ギター)、大林武司(ピアノ)、ロドニー・ウィテカー(ベース)、そしてデイヴィス(ドラム)と、バンドメンバーたちが挨拶代わりのソロを順番に披露していく。それぞれの音色やフレーズはまるで喋っているようだったり歌っているようだったり、はたまた笑っているようだったり。音で自らの気持ちを表現し、時に反応し合いながら、それぞれの個性をつないでひとつの音楽を作りあげる。それは、幸せな音楽の時間が始まったことを告げると同時に、「ジャズとはこういうものなんですよ」とレクチャーしているようでもあった。

マイケル・ディーズ

Seiko Summer Jazz Camp 2023(ヤマハミュージックジャパン協賛)の講師リーダーを務めたマイケル・ディーズ。使用楽器は海外でも人気のベルカットモデルYSL-891ZD。

歩行者天国の銀座通りに強い夏の日差しが照りつける中、ヤマハ銀座スタジオにぎっしりと集まったジャズ・ファンたちを、一瞬にしてスウィングの渦に巻き込んだバンドのメンバーは、「Seiko Summer Jazz Camp 2023」に参加した講師たち。演奏者としても第一線で活躍する彼らは、キャンプを終えた翌日から全国ツアーを開始した。この日はその初日だったのである。

続いて、もうひとりのメンバー、シェネル・ジョンズ(ボーカル)が登場。ミュート・トランペットとテナー・サクソフォンによるムーディーなリフに乗り、『Save Your Love For Me』を熱く歌い上げた後は、シルバースタインと大林とのトリオでアントニオ・カルロス・ジョビンの『Triste』へ。囁くような小さな声でもって観客の注目をぐいぐい惹きつけるジョンズ、そして浮遊感のあるインタープレイでピンと張り詰めた音世界を作りあげるシルバースタインと大林。ホットでファンキーなだけがジャズの魅力ではないことを、この1曲でまざまざと見せつけた。

ヤマハ銀座サマージャズライブ

左上からディエゴ・リベラ(Ts)、ベニー・べナック(Tr)、マイケル・ディーズ(Tb)、ヨタム・シルバースタイン(G)、ロドニー・ウィテカー(B)、シェネル・ジョンズ(Vo)、大林武司(P)、クインシー・デイヴィス(Dr)

メンバーの中でもひときわ長いキャリアを誇り、アメリカ・ジャズ界の重鎮ともいえるのがウィテカーだ。『Just Squeeze Me』では滋味深いイントロとテーマをソロで奏で、観客を魅了した。また、この曲では金管楽器陣のリズムで遊ぶようなソロ(「Seiko Summer Jazz Camp 2023」のテーマは、まさに“リズム”だった)と、デイヴィスの軽快なソロも大きな見どころだった。
前半のラストを飾ったのは、『Do Nothin’ Till You Hear From Me』。ここではべナックがトランペットを置いてボーカルを担当。情感溢れる歌のみならず、小気味良いスキャットも披露するなど、八面六臂の活躍を見せた。

ヤマハ銀座サマージャズライブ

卒業生によるオリジナルや、メンバーの自作曲も披露してジャズの楽しさを体現

後半は、ジョンズのボーカルをフィーチャーした『I Didn’t Know What Time It Was』でスタート。ここで圧巻だったのは彼女の変幻自在なボーカルで、感情表現とテクニックがスリリングに交錯するような、絶妙のバランス感覚でバンドの演奏を引っ張っていった。

ヤマハ銀座サマージャズライブ

さて、ここではスタンダード・ナンバーが続いていたが、続けて披露されたのは「Seiko Summer Jazz Camp」の卒業生、鈴木真明地まあちさんによるオリジナル曲『Financiier』。ソウルフルで浮遊感のある曲想は、スタンダードとはひと味異なる趣を感じさせ、ジャズは常に新しい音楽の流れを取り込んで発展してきたという歴史を改めて実感させてくれた。
続けて、ギターとベースに導かれてジョンズがしっとりと歌い上げる『Never Let Me Go』へ。この曲で印象に残ったのは、音のない瞬間、静けさの中にも確としたリズムが感じられたこと。ここにも2023年の「Seiko Summer Jazz Camp」のテーマが見え隠れしていたのではないだろうか。

本編の最後はチャーリー・パーカーの『Yardbird Suite』。メンバー全員が参加し、おおいに盛り上がって終了したが、間を置かずにアンコールへ。リーダーのディーズが「Seiko Summer Jazz Camp」に参加するにあたって作ったというオリジナル『Seiko Time』を披露した。ここでは「Seiko Summer Jazz Camp」の特別顧問を務める守屋純子(ピアノ)も登場し、ブルージーでキャッチーな曲に彩りを添えた。

ヤマハ銀座サマージャズライブ

「Seiko Summer Jazz Camp」の特別顧問を務める守屋純子(P)もアンコールで登場した。

コンサート全編で感じたのは、バンドがまるでひとつの大きな家族やチームのように見えたこと。フロント陣を見ていくと、全体をまとめる兄貴分のディーズ、場を盛り上げるムードメーカーのべナック、頼りになるお父さん然としたリベラ、そして明るい妹ジョンズといった感じ。リズムセクションに目を移すと、控えめながらも要所は外さないシルバースタインと大林は自らの役目に徹する堅実な仕事人コンビ、そして全員を後ろからしっかりと支えるウィテカーとデイヴィスは、包容力があって頼りになるまとめ役だ。
さまざまな個性がぶつかり、重なり合い、ひとつの音楽を作りあげていく。そして一つとして同じ音楽にはならない。そんな音楽の楽しさを凝縮したような音楽がジャズである。その魅力を存分に味わえたコンサートだった。

ヤマハ銀座サマージャズライブ

Seiko Summer Jazz Campサイトはこちら
本場ニューヨークの第一線で活躍するミュージシャンによるスペシャルライブ「ヤマハ銀座サマージャズライブ」(Web音遊人)

photo/ 阿部雄介

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:清塚信也さん

今月の音遊人

今月の音遊人:清塚信也さん「音楽はあやふやで不安定な世界。だからこそ、インテリジェンスを感じることもあります」

12112views

音楽ライターの眼

生誕250年のメモリアルイヤーに、ベートーヴェンの《第9》を改めて聴き直したい

2878views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

23862views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

55254views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7426views

オトノ仕事人

深く豊かなクラシックの世界への入り口を作る/音楽ジャーナリストの仕事

4565views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7000views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9005views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13139views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

10945views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6873views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30786views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15606views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11551views

音楽ライターの眼

連載26[ジャズ事始め]なぜ穐吉敏子も渡辺貞夫もファンキー・ジャズのムーヴメントに染まらなかったのか?

4272views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

45871views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6697views

楽器探訪 Anothertake

【モニター募集】37鍵ピアニカに30年ぶりの新モデルが登場!メロウな音色×おしゃれなデザインの「大人のピアニカ」

26074views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7000views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6873views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

8904views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3256views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10311views