今月の音遊人
今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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ピアノは1台でオーケストラのような響きを奏でることができるといわれ、「楽器の王様」と称される。通常はひとりのピアニストが演奏するが、ふたりの奏者が演奏するとその響きは大きく広がり、4手連弾、または2台ピアノによって多種多様な表現が可能になり、まさにオーケストラのような肉厚で壮大な音楽が生まれる。
児玉麻里と桃の姉妹は、ともに国際舞台で活躍するピアニスト。ふだんはソロ活動が多いが、長年にわたりふたりで演奏する活動にも意欲を示す。2023年11月3日には東京の小金井 宮地楽器ホールにて「THE SUPER PREMIUM 児玉麻里&児玉桃ピアノ・デュオ」と題したコンサートを行い、ヤマハCFX2台を使用してデュオの醍醐味を披露する。
「ヤマハCFXには2022年春に出会い、その瞬時に反応する敏感さ、正確さ、そしてどのようなスペースにも対応できる暖かく、広がりのある音色に驚き、魅了されました。感激のあまり、直ちにそのとき予定していたドイツでのブラームスのピアノ作品の録音に使わせていただきたい、とお願いしました。調律の横山俊介さんにも多大なるご尽力をいただき、私にとって特別な録音の思い出です。今回はヤマハCFXでの初めてのピアノ・デュオ演奏を、とても楽しみにしています」と児玉麻里は語る。
児玉麻里はパリ国立高等音楽院でピアノをタチアナ・ニコラエワ、アルフレッド・ブレンデルなどに学び、数多くのコンクールで優勝、上位入賞を果たしている。音楽院修了後は、ロンドン・フィルとバービカン・センターで共演、ロンドン・デビューを果たし、1995年カーネギー・ホールでニューヨーク・デビューを果たした。1999年ロサンゼルス、2003年東京にて「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会」に取り組み、高い評価を得た。
録音では『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』、ケント・ナガノ指揮『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集(第0~5番)』を完成させている。2016年11月には、チャイコフスキー3大バレエ抜粋連弾版を児玉桃とリリースしている。現在は世界各地でさまざまな活動を展開しているが、長年暮らしているアメリカでは音楽祭にも深くかかわっている。
「10年以上前からサンフランシスコで《フォレストヒルミュージカルデイズ》と題した音楽祭の音楽監督を務めていますが、それが数年前イタリアのローマ近郊で《traluceesogno》と題した音楽祭にもなりました。今後はどうなるかいま模索中ですが、そうした場でさまざまな楽器を演奏する音楽家と共演して、室内楽を演奏したいと考えています。いろんな音楽家との共演が音楽と人間の幅を広げてくれます」と語る。
一方、児玉桃もパリ国立高等音楽院で学び、1991年ミュンヘン国際コンクールに最年少で最高位に輝いた。J.S.バッハからメシアンを含む現代作品まで幅広いレパートリーを誇り、2013年にはルツェルン音楽祭、ウィグモアホール、東京オペラシティ文化財団の共同委嘱による「細川俊夫:練習曲集」とを各地で初演。現在はドイツのカールスルーエ音楽大学の教授を務めている。児玉桃も偉大なピアニストから多くを学び、メシアン・コンクールでは審査員も務め、創造性に富む録音も残している。
「メシアンは色彩が大切で、リズムも明確であり、ファンタジーあふれる演奏が要求されます。自分の考えをピアノを通してどれだけ聴衆に伝えることができるか。音が多いので、ついそれに気を取られがちですが、作曲家に対する思い、作品に対する思いを明快に表現することに集中し、その気持ちを聴いてくださる方に伝える。それに尽きると思います。これはどんな作品にもいえることですが……」と語る。
そんなふたりがラヴェル『マ・メール・ロワ』、チャイコフスキー(アレンスキー編)『バレエ音楽〈くるみ割り人形〉』、ストラヴィンスキー『春の祭典』というプログラムでピアノ・デュオの世界を存分に楽しませてくれる。
『マ・メール・ロワ』は、ラヴェルが『マザー・グース』を題材としてピアノ4手連弾の組曲として作曲したもの。ラヴェルの友人ゴデブスキ夫妻のふたりの子ども、ミミとジャンのために書かれ、妖精や眠りの森の美女などにまつわる幻想的な5曲で構成されている。
チャイコフスキーの『くるみ割り人形』は、少女マリーがクリスマスにもらったくるみ割り人形が王子に変身しておとぎの国へ案内するという、E.T.A.ホフマンの童話をもとにした作品。バレエはその人形がねずみ軍と戦争を開始するところから始まる。人気の高い『花のワルツ』はこんぺい糖の精の侍女たちが踊る華やかなワルツで、ゆるやかな序奏に続いて登場する4本のホルンによる主題は徐々に高揚して頂点に達する。
こうしたオリジナルの響きをふたりはアレンスキー編の2台ピアノ版で表現、バレエの舞台へと聴き手をいざなう。児玉麻里と桃は姉妹ゆえ、互いの呼吸を飲み込み、絶妙のアンサンブルを奏でる。ふたりはロシアの先生に就いて学んだこともあり、ロシア作品の神髄を深く理解している。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽『春の祭典』は、ストラヴィンスキーの幻影「輪になってすわる長老たちが死にいたるまで踊る若い娘を見守る異教の儀式」をもとに書かれたスリリングで躍動感あふれる作品。初演当初は問題視されたが、やがて名曲として各地で演奏されるようになり、2台ピアノ版も書かれている。今回はふたりが2台ピアノでストラヴィンスキーの神髄に迫る。その空気を全身に纏い、ピアノ・デュオの愉しみを満喫したい。
日時:2023年11月3日(金・祝)14:00開演(13:30開場)
会場:小金井 宮地楽器ホール 大ホール(東京都小金井市)
料金(税込):一般4,000円 U25席2,000円 こがねいメンバーズ一般3,600円
詳細はこちら
文/ 伊熊よし子
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tagged: CFX, 児玉麻里, 児玉桃, ピアノ・デュオ
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