Web音遊人(みゅーじん)

ジョージ・ハリオノ

チャイコフスキー国際コンクール第2位の若き天才ピアニストが待望のヤマハホール・デビュー!!/ジョージ・ハリオノ ピアノ・リサイタル

弱冠9歳でソロ・デビューを飾り、12歳でオーケストラと初共演。さらに史上最年少の15歳でフルスカラシップ奨学生として英国王立音楽院に入学し、2023年6月には難関チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞を果たしたイギリスの若き天才ピアニスト、ジョージ・ハリオノのヤマハホール初登場となった注目の公演を聴いた。 

多彩な演目を多彩かつ芯の通った妙技でみごとに弾き分け!

公演は2023年11月11日に行われた。その音色と性能を愛してやまないというヤマハCFXのピアノを用い、アコースティック楽器に最適かつ豊かな響きを追求して造られたヤマハホールで演奏できることに大きな期待を寄せていたハリオノ。この日の公演は、そんな彼の想いが結実し、みごとな大輪の花を咲かせていた。 

ベートーヴェンの『ピアノ・ソナタ 第18番』は、同時期の傑作『交響曲第3番「英雄」』と同じ変ホ長調で書かれた4楽章作品。当時30代の作曲者の力強い創意に溢れた本作を、颯爽と緩急巧みに織り上げるハリオノの姿は、作品の背景に重なるものがあり、チャイコフスキー国際を経て国際的な活躍を本格化させた彼の新たな船出における決意表明のようだった。

チャイコフスキーが最晩年に残した『瞑想曲』では、甘美な憂愁をあえて強調せず、音の粒を縦と横に流麗に重ねながら次の作品へと歌い継いでみせる。

リスト『夕べの調べ』でも、鐘の音を模倣やハープ風の伴奏部分をみごとに表現しつつ、敬虔な美しい旋律を若者らしい瑞々しさで輝かせていた。

だが、同じ作曲者による『ハンガリー狂詩曲第6番』では決然とした開始部分から表情が一転。極めて速いテンポで進み、細かい装飾音なども誠実に処理して華々しいフィナーレを現出する圧巻の名演だった。

ジョージ・ハリオノ

オーケストラのような色彩感で聴き手を魅了し、アンコールは実に6曲!

切れ目のない4楽章形式のように書かれたシューベルト『さすらい人幻想曲』は、極めて演奏難易度が高いことで知られる大作。ここでのハリオノは、演奏が進むにつれて情熱と集中力が増してゆき、技巧的な難所も一点の曇りもない精確さで楽々とクリアしてゆく。さらに、作品の要所に潜むシューベルトらしい慈愛や自由な歌心もきちんと掬い上げていたのが素晴らしかった。

ロシアの指揮者&現代作曲家で、ハリオノの友人でもあるアルカディエフによる『フレイム・ソナタ』は、この日が日本初演。第2次世界大戦中にイギリス軍によって空爆を受けたロシアのカリーニングラードのケーニヒスベルク大聖堂の修復記念(2019年)に書かれたものだが、約13分にわたってその悲劇や祈りのような調べが実にドラマティックに展開されていたと思う。

ストラヴィンスキー『ペトルーシュカからの3楽章』では、「オーケストラの色彩をピアノ1台で表現できるような新たな視点で演奏したい」と事前に語っていた通り、実にきらびやかで、なおかつ品性も高い秀演を披露。特に難易度が高い第3楽章の左手のトリルも完璧で、完売御礼となったこの日の聴き手から万雷の拍手が贈られていた。

ジョージ・ハリオノ

それに感じ入ったに違いないハリオノは、アンコールになんと、ピアソラ『リベルタンゴ』、坂本龍一『メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス』、ホロヴィッツ『ピアノのためのカルメン変奏曲』、シューマン/リスト『献呈』、久石譲『Summer』、マンシーニ『ムーンリバー』と6曲も演奏。若き日のエフゲニー・キーシンを彷彿とさせる天才ぶりとバイタリティに今も興奮さめやらぬ、衝撃の午後のひとときだった。

ジョージ・ハリオノ

 

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。

photo/ Ayumi Kakamu

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:諏訪内晶子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」

19792views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.1

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.1

13331views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

7475views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

41888views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11897views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

8506views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7438views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9144views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

24816views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1988views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5065views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26231views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17704views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

23059views

バーニー・トーメ

音楽ライターの眼

バーニー・トーメのCD4枚組アンソロジー発売。ハード・ロックとパンクの“カッコ良さ”を体現したギタリスト

1361views

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

6330views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8196views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

17372views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

12187views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7296views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

28764views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10177views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31111views