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今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」
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ウェイン・クレイマーに捧ぐ。あらゆるハード・ロックとパンクの始祖MC5へのトリビュート・アルバム発表
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2024.3.15
tagged: 音楽ライターの眼, MC5, Call Me Animal: A Tribute To The MC5, ジョーセファス&ザ・ジョージ・ジョーンズタウン・マサカー
あらゆるハード・ロック、あらゆるパンクはここから始まった。MC5は大音量のサウンドで時代の扉をブチ破ったロック・バンドだ。
1963年に結成、自動車産業で知られるデトロイトのシーンを荒らしまわったMC5(“モーター・シティ”の5人組の意味)への声援は全米へと広がっていく。ハードでヘヴィなサウンド、ドラッグ・カルチャー、ビート・ポエトリーやブラック・パワー、反ベトナム戦争を主張するメッセージ性などによって、彼らはカウンターカルチャーの旗手となっていった。
彼らはシングルを数枚リリースした後、メジャー・レコード会社の“エレクトラ・レコーズ”と契約。1969年2月にファースト・アルバム『キック・アウト・ザ・ジャムズ』を発表する。バンドのライヴ・パフォーマンスの狂乱と熱気をありったけ叩き込んだこのアルバムは時代を超えた名盤として聴き継がれる。激音に乗せた裏声に近いファルセットが混沌を生み出す『ランブリン・ローズ』、メジャーからのリリースで初めて放送禁止用語をイントロにフィーチュアした破壊力漲る『キック・アウト・ザ・ジャムズ』、すべてを薙ぎ倒す『ロケット・リデューサーNo.62』、スペーシーでフリーキーな『スターシップ』まで、全編レッドゾーンを超え続けるテンションの高さが尋常ではない。
彼らは『バック・イン・ザ・USA』(1970)『ハイ・タイム』(1971)という2枚のスタジオ・アルバムを発表するが、1972年に解散。その後、何度かMC5という名義が復活されたものの、伝説の黄金ラインアップが揃うことはなかった。ロブ・タイナー(ヴォーカル)は1991年、フレッド“ソニック”スミス(ギター)は1994年、マイケル・デイヴィス(ベース)は2012年に亡くなっている。そしてMC5の魂を受け継いできたウェイン・クレイマー(ギター)が2024年2月2日、75歳で亡くなったというニュースは、世界を悲しみに叩き込んだ。
海外でリリースされた『Call Me Animal: A Tribute To The MC5』は、MC5の偉大な音楽とその軌跡に捧げるトリビュート・アルバムだ。
ウェインが亡くなる数年前から構想が練られてきたという本作を企画したのはジョーセファスことジョーイ・キリングスワース。メンフィスで活動するミュージシャンでプロデューサーの彼はジョーセファス&ザ・ジョージ・ジョーンズタウン・マサカーを率いて活動してきた。このバンドはオリジナル作と並行して、敬愛するアーティスト達へのトリビュート・アルバムを発表。2016年にはブラック・オーク・アーカンソー、2017年にはジョニー・キャッシュ、2021年にはナザレスに捧げるトリビュート作が発表され、今回はシリーズ最新作となる。
ジョーセファス&ザ・ジョージ・ジョーンズタウン・マサカーがベーシック・トラックを演奏、ゲスト陣が加わるという構成は過去作と同様だが、これまで参加してきた面々に加えて、プロジェクトに共鳴した多彩なミュージシャンが新たに合流。サプライズ対決を交えながらMC5の音楽へのセレブレーションを行っている。
1曲目『ランブリン・ローズ』からシェリー・カリー(ランナウェイズ)+J.マスキス(ダイナソーJr.)+マイク・ワット(ミニットメン)という豪華な、それでいて一種不思議な顔合わせが実現。筋肉超人ジョン・マイクル・ソー+クリス・ホームズ(元W.A.S.P.)のモンスター対決、ジェフ・クレイトン(アンチシーン)+ライター・サイス(ナッシュヴィル・プッシー)の極悪ロックンロール対決、キース・モリス(サークル・ジャークス)+ザル・クレミンスン(センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンド)の英米コンビなど異色のコラボレーションは想像を超える結果を生んでいる。
さらに1960年代のデトロイトを知るアリス・クーパーからJ.G.サールウェル(ジム・フィータス)、リディア・ランチ、バットホール・サーファーズのジェフ・ピンカス&ポール・レアリーなども参加。一見するとバラバラな顔ぶれのようにも見えるが、いずれも源流を突き詰めるとMC5にぶち当たる、その影響力を思い知らされるのがこのアルバムなのだ。
なお生前のウェイン・クレイマー自身も参加、『ヒューマン・ビーイング・ローンモワー』をジェロ・ビアフラ(デッド・ケネディーズ)と共演している。
オリジナルがベーシックなロックのため、各ミュージシャンのパーソナリティが露わになるのがMC5の音楽だ。大きくアレンジを変えてもいないのにまったく異なって聴こえるのも興味深く、新たな発見があることに心地よい驚きをおぼえる。さらに全員がMC5を愛しており、プレイすることを心から楽しんでいることが伝わってくる。
『キック・アウト・ザ・ジャムズ』発表から55年。MC5の音楽と魅力を次なる世界に受け継いでいくのが『Call Me Animal』だ。
発売元:Saustex Records
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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