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デヴィ夫人がプロデュース、五感で感じるスペシャルなピアノ演奏会/アルベルト・ピッツォ×デヴィ・スカルノ
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2024.5.17
tagged: ヤマハホール, CFX, アルベルト・ピッツォ, デヴィ夫人, デヴィ・スカルノ
イタリア・シチリア島のイブラで開催される音楽コンクール「イブラ・グランド・アワード」。ニューヨークに本拠を置くイブラ音楽財団が主催する年齢制限も学歴も賞歴も問わない、クラシック音楽における真の才能を発掘するための画期的なコンクールだ。近年、同コンクールの創設者の一人でもあるデヴィ・スカルノ氏によって、日本でも年に一回審査が行われている。
2023年の日本における大会で各部門第一位から選ばれる総合優勝(グランプリ)を獲得したピアニストのアルベルト・ピッツォ氏は、折しも2024年7月20日(土)に銀座のヤマハホールで演奏会を開催する。イブラ音楽財団の理事を務めるデヴィ・スカルノ氏がプロデュースを手がけるという豪華版。両者が、コンクールへの思い、演奏会にかける意気込みを熱く語り合った。
デヴィ・スカルノ氏(以下デヴィ夫人):アルベルトさんが最初のステージで演奏した時から、審査員の中には「ブラボー」や「間違いなくグランプリですね」とコメントなさった方がいらっしゃいました。クラシック音楽界の錚々たるメンバーに審査をお願いしておりますので、皆様から、そのような所感が出たことは本当にすばらしいと思います。毎年何百人という方々の演奏をお聴きしていますが、技術的に上手な方はいくらでもいます。しかし、アルベルトさんの音楽を聴いて、私も含め審査員一同、ただただ感動したのです。心をこんなに動かされた弾き手に出会えて幸せでした。
アルベルト・ピッツォ氏(以下ピッツォ):クラシック音楽のコンクールでオリジナル作品を演奏したことは審査員の方々の間で議論の対象になったというお話をあとで伺いましたが、最終的に自作自演の演奏を認めていただき、評価を得たことで自分自身が生まれ変わったように感じています。10代の頃から数多くのコンクールで賞をもらいましたが、こんな思いは初めてでした。私を育ててくれたクラシック音楽というものに改めて敬意を表するとともに、その大きくて偉大なる世界から新しい生を受けたように感じています。
デヴィ夫人:アルベルトさんはお家にピアノがない環境で育ち、学校に行く以外は朝から晩まで修道院で過ごし、ピアノも修道女の先生から学ばれた。きっと、恵まれない境遇で勉強を続けていらして、数多くのご苦労があったと思います。いろいろな感情や思いなど、子どもの頃から抱いていたものがご自分の手を通して出てくる……だからこそ、聴く人々の心を揺り動かすのだと本当に実感しました。
ピッツォ:ありがとうございます。コンクール出場は10数年ぶり。もう出場することはないと思っていました。しかし参加したことで新たな世界が開けました。「イブラ・グランド・アワード」のように年齢制限や賞歴・学歴は一切問わないというのは、参加者にとっては大変うれしいことなんです。
デヴィ夫人:私たちは、才能があるのに恵まれない境遇にいてなかなか評価を得られない芸術家たちをサポートしたいという思いで財団を設立しました。あくまでもその方の現在の姿を評価するという意味で、あえて年齢制限をはずしています。ですから、ある程度年齢を重ねた方であっても地道に演奏活動をされているような方には円熟賞というものがありますし、小さなお子さんには未来賞があります。規定の賞以外にも特別賞なども用意しています。
ピッツォ:私は幼い頃から将来への夢を持ち続け、頑張ってきました。日本という国で偶然にも “芸術の母”という名にふさわしいデヴィ夫人に出会うことができてとてもありがたかったです。
デヴィ夫人:私はクラシックの音楽というのは不変であり、それを奏でる音楽家というのは人類の宝だと思っています。ただ、やはり世に出る過程などには不公平さを感じています。そのような意味では私どものイブラ財団で一石投じることができたと考えています。
日本人演奏家の方々の海外公演を現地で拝見することが多いのですが、聴衆の9割が日本人ということも多々あるのですよね。例えば、アメリカでの公演だったら、全聴衆が現地の方であって欲しいですし、「ニューヨーク・タイムズ」や「ニューヨーク・ポスト」など現地の有力メディアのキーパーソンをご招待するなど、その土地にふさわしいアピール方法があると思うんです。アメリカで認められることで、その後、ロンドンやパリにも呼ばれることもありますから。すばらしい演奏をしても現地の人々の目に触れなければ意味がないんです。
ピッツォ:7月の演奏会では、夫人自らがプロジェクションマッピングやホログラムも手がけてくださって、本当に感謝しています。夫人は絵がとてもお上手ですね。
デヴィ夫人:アルベルトさんは稀な才能の持ち主ですから、「その可能性をもっと広げてみたい、アルベルトさんの感性というものをもっと人々に知ってもらいたい」という欲望に駆られたんです。可能な限り視覚と聴覚の両方、あるいは五感でアルベルトさんの音楽を感じていただけるように演出できたらと考えています。今回は日本の伝統楽器グループの「嘯風弄月(しょうふうろうげつ)(和太鼓/笛・能管/三味線)」との共演もありますから、さらに世界観が広がりますね。
ピッツォ:音楽を通して真に日本の文化や伝統を紡ぐ意欲に燃えた彼らと共演できるのは、挑戦でもあり、大きな喜びでもあります。ヤマハホールは響きも良くお客様に満足していただけると思っています。
デヴィ夫人:階段式になっていてどの場所にお座りになってもステージが良く見えるように設計されていますし、何と言っても響きがすばらしいわね。アルベルトさんのピアノの音もとても力強い感じがしました。雅な感じがする空間も、今回の演奏会の内容にもとてもふさわしいですね。
ピッツォ:今回はヤマハCFXで演奏しますが、この楽器は私の音楽観を表現するのに完璧ともいえるほど相性が良いんです。私が本来目指す音楽というのは、もちろんクラシック音楽の伝統と基礎を踏まえながらも、現代音楽やジャズの要素が強い、いわゆるクロスオーバー的なものです。多彩な要素を表現可能にする色彩とメカニズムにおいての無限の可能性を感じさせてくれるCFXにはつねに感動を覚えています。本当に、どのようなニュアンスも繊細に表現可能な多才さと、オーセンティックな楽器としてのバランスの良さが見事なんです。
デヴィ夫人:実際に会場での演奏を聴きましたが、音の魔術師のようでしたよ。私がプロジェクションマッピングを自分自身でやってみたいと思いましたのも、例えばオペラ歌手たちの公演をプロデュースする時に、『オペラ座の怪人』のナンバーや『誰も寝てはならぬ』などのアリアを歌う歌手のバックにオペラ座の内観が壮大に広がったり、紫禁城のイメージがあったりするのと、それがないのとでは印象がまったく違うんですね。アルベルトさんの演奏も、それを実現せずにはいられないと感じさせるほどの壮大な世界観を思わせる音でした。ちなみに、一曲目はクラシック音楽のレパートリーからアルベニスの『アストゥリアス』。とても楽しみね。
ピッツォ:フラメンコ音楽の影響を受けた作品で、何よりも私が育った地中海文化の薫りに満ちていて、クラシック音楽の世界で学び、大切にしてきたことのすべてをこの一曲で感じていただけることでしょう。
デヴィ夫人:そのあとは、オリジナルの新曲が多いわね。クラシックの作品を完璧にマスターしたうえで、今、新たな方向に向かっているアルベルトさんの全身から滲み出る独自の世界観というものを、クラシックからオリジナル作品へという流れの中で皆さんに楽しんでもらいたいです。
ピッツォ:どの作品も私のオリジナルですが、このコンサートだけの特別なインプロビゼーション(即興演奏)を加えて披露します。当日会場で感じる、その時に湧き上がる感覚を大切にしていると、どうしても即興がしたくなってしまうんです。何よりもこの日だけのスペシャルな演奏会にご期待ください。
日時:2024年7月20日(土)16:00開演(15:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
料金(税込):前売一般5,500円 学生3,500円 当日一般6,000円 学生4,000円
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文/ 朝岡久美子
photo/ 正木信之
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