今月の音遊人
今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」
6684views
ブラック・サバスのトニー・マーティン期作品を収録したボックスが発売
この記事は4分で読めます
1804views
2024.4.24
tagged: 音楽ライターの眼, ブラック・サバス, Anno Domini 1989-1995
ブラック・サバスの1989年から1995年、トニー・マーティン在籍期の4枚のアルバムを収録した4CD/4LPボックス・セット『Anno Domini 1989-1995』が2024年5月、海外でリリースされる。
1970年にデビュー・アルバム『黒い安息日』を発表、ヘヴィ・メタルの礎を築いたオジー・オズボーン期、元レインボーの実力派シンガーを迎えたロニー・ジェイムズ・ディオ期、イアン・ギランやグレン・ヒューズといったトップ・シンガーが歌った作品と較べて評価がワンランク下がってしまうこの時期のブラック・サバスだが、いずれも傑作揃いだ。
今回のボックスに収録されるのは『ヘッドレス・クロス』(1989)『ティール』(1990)『クロス・パーパシズ』(1994)『フォービドゥン』(1995)という4作のアルバム。さらにシングルB面曲、日本盤ボーナス曲など3曲が追加されている。
半世紀を超える歴史で、ブラック・サバスは数々の波乱と遭遇してきた。それはトニー・マーティン期(以下マーティン)においても同様だ。1987年初め、オリジナル・メンバーはギタリストのトニー・アイオミ1人となりながら、アルバム『エターナル・アイドル』を完成させた彼らだったが、当時シンガーだったレイ・ギランが突如脱退(その後ブルー・マーダー〜バッドランズへ)。急遽ヴォーカルを差し替えるべくオーディションを行い、その座を射止めたのがマーティンだった。それまでレジェンド、アライアンス、トブルクに在籍、ヴァンデンバーグのシンガー候補になったこともある彼だが、ほぼ無名の存在。だが発売された『エターナル・アイドル』での彼のヴォーカルは伸びやかでパワフルな、ブラック・サバスの金看板を背負うに相応しいものだった。
ただ、その旅路は順風満帆ではなかった。1987年7月から8月にかけて南アフリカの人種差別政策の象徴であるリゾート施設“サン・シティ”で公演を行ったことで、大バッシングを受けたのだ。その後のツアーは観客動員が思わしくなく、公演中止も生じるなど、バンドは少なくない打撃を被ることになった。
そんな状況を打破するべく、彼らは1988年、ドラマーにコージー・パウエルを迎える。ジェフ・ベック、レインボー、マイケル・シェンカー、ホワイトスネイクなどとの活動で知られるドラム・ヒーローである彼が加わったことで、アルバム『ヘッドレス・クロス』(1989)は彼を共同プロデューサーとしてクレジット、1曲目『ヘッドレス・クロス』も轟くドラム・ビートから始まるなど、コージー大フィーチュア大会となった。1989年10月のジャパン・ツアーには川崎クラブチッタ公演も含まれ「ブラック・サバスwithコージーのクラブ・ギグ!」という最初で最後の奇跡のステージも実現している。
続く『ティール』(1990)では北欧神話や聖地エルサレムなどを描いた壮大なスケールの世界観を伴う音楽性で、新時代のブラック・サバス像を提示することになった。
マーティンと新たな黄金時代を築くかと思われたブラック・サバスだが、ロニー・ジェイムズ・ディオの復帰が実現。『ディヒューマナイザー』(1992)をリリース、ツアーに出ている。ただ、この再合体はうまく行かず、ロニーは脱退。前々から復帰を打診されていたマーティンがバンドに戻ることになった。
『クロス・パーパシズ』『フォービドゥン』は共に貫禄すら窺える優れた作品であり、後者はコミック風ジャケットや『ジ・イリュージョン・オブ・パワー』でのアイスTのラップなどがオールド・ファンをギョッとさせたが、それすらも包み込む懐の深さを見せている。1994年3月、1995年11月に行われた日本公演も大成功といえる内容だった。
1996年、バンドは活動休止、トニー・アイオミはソロ・アルバムの制作に入る。だが、マーティンがバンドに戻ることはなかった。1997年、アイオミとオジーが歴史的再合体。グランジ・ブームによる初期ブラック・サバス再評価がきっかけとなり、オリジナル・ラインアップが復活することになったのだ。
それからバンドとマーティンが相まみえることはなく、この時期の作品はほとんど顧みられることがなかった。『Anno Domini 1989-1995』は遅れてきたファンにマーティン期のブラック・サバスの魅力を伝える、質・量共に重量級のボックスである。
ただ惜しむらくは、マーティン期のすべてが網羅されているわけではない。まず第1弾の『エターナル・アイドル』がないのは残念。今回収録されるのは“I.R.S.レコーズ”からリリースされた4作で、“ヴァーティゴ”から出た同作は洩れてしまっている。現在では別個にデラックス・エディションが発売されている『エターナル・アイドル』だが、ひとつのパッケージで聴きたかった。
もうひとつ、ライヴ・アルバム/映像作品『クロス・パーパシズ・ライヴ1994』も収録されていない。1994年4月13日、ロンドンの“ハマースミス・アポロ”でのライヴを収めた同作は新しめの曲に加え、往年のサバス・クラシックスがマーティンの熱唱で生まれ変わっているのが新鮮だが、当時“I.R.S.”からリリースされたものの、権利が移動してしまったのか、ボックスには収録されていない。
とはいえ、一時は廃盤状態が続き、配信でも聴くことが出来なかったタイトルを容易に聴くことが出来るようになるのは嬉しい限りだ。いずれの作品もリマスタリングされ、『フォービドゥン』にはリミックスが施されている。半世紀を超えるブラック・サバス伝説をひもとくには欠かすことが出来ない『Anno Domini 1989-1995』、ぜひ押さえておきたい。
発売元:RHINO
発売日:2024年5月
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト
文/ 山崎智之
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
tagged: 音楽ライターの眼, ブラック・サバス, Anno Domini 1989-1995
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!