今月の音遊人
今月の音遊人:石川さゆりさん「誰もが“音遊人”であってほしいですし、音楽を自由に遊べる日々や生活環境であればいいなと思います」
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音楽は、人が心を開き、どこかにたどり着くためのスピリチュアルな道具なのです/マリアム・バタシヴィリ インタビュー
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2024.4.30
tagged: ピアノ, CFX, マリアム・バタシヴィリ
ジョージア生まれのピアニスト、マリアム・バタシヴィリが、初めて日本でソロリサイタルを行う。2024年5月15日(水)の浜離宮朝日ホール公演の演目を中心に話を聞いた。
プログラムは、モーツァルト、リスト、ショパン、シューベルト。全ての作品それぞれにストーリーがあり、それをつなげることでより大きなストーリーが生まれると彼女は言う。
「まずモーツァルトの最後のピアノソナタK.576で美しく幸せな時間を、リストの『ハンガリー狂詩曲』第13番、第14番でエキサイティングな瞬間を作ります。ショパンのバラード第1番は、人が恋に落ちたとき、愛がどのように動くのかを感じる作品。とても個人的な感情ですが、私はピアニストですからそれをみなさんに届けなくてはいけません。感情の頂点を迎えつつ悲劇的な結末で沈み込んだあと、シューベルトの即興曲D899で“それでも人生は続く”と語りかけてくるという構成。全作品に共通するのは、複数の感情が同居していること。リサイタルでは一つの方向ではなく多くの感情を取り上げ、人生の深さに向き合いたいと思っています」
また、来日中の5月11日(土)に東京都交響楽団の定期演奏会にも出演。バルトークのピアノ協奏曲第3番を演奏する。
「この曲は冒頭でハンガリーの野原や太陽、鳥を感じる旅に連れていってくれます。続いてゆったりした2楽章で宇宙や信仰に思いを寄せていると、途中で速い部分が現れますが、私はそこに鳥や昆虫のナイトライフを感じます。表現力豊かな3楽章まで、とにかくとても美しく、大好きな作品です」
自身に近い作曲家を尋ねたとき、一人は選べないと答えるピアニストも多いが、バタシヴィリの場合は迷うことなくリストと答える。2014年にユトレヒトのフランツ・リスト国際コンクールで優勝した彼女は、子どもの頃からリストに夢中だった。
「12歳の時、先生がリストの『ラ・カンパネラ』を紹介してくれると私はショックを受けました。多くの跳躍があるエキサイティングな音楽に魅了されたのです。すると先生は、“気に入ったのなら今度は音楽の中身を聴いてみなさい。これは小さな鐘の物語なのよ”と教えてくれました。そうしてこの物語にどう命を吹き込んだら良いか考えているうち、どんどんあたたかい感情を抱き始めました。さらに彼のスピリチュアルな面、作品が描く魂や、地獄と天国に触れ、その音楽の絶対的な深みを好むようになりました。
リストの作品はヴィルトゥオージティ(妙技)を見せるためのものではない、でも同時に、彼の人生の物語を自由に表現するには優れたテクニックがなくてはならない、それには大変な努力が必要だと気付きました」
リストの若き日のアイドル的活躍から晩年の宗教的な作風まで、そのすべてに魅了されているという。
「一般によく演奏されるのが狂詩曲やエチュード、ソナタばかりで、彼の宗教的、詩的な作品があまり取り上げられないのは残念です。でも私は彼のゴージャズな作品も好きですよ。人々がひしめくサロンで鍵盤楽器の可能性をみせたリストは、革命的な存在です。私はありのままの彼が好きです。ただ残念ながら、父親としては最高と言えなかったかもしない。私には今1歳半の息子がいるので、そこにだけはどうしても批判的になってしまいますね。特に最近、子育てについて勉強して、ペアレンティング・エキスパートの認定コーチになったので、リストがいかに正しい知識を持っていなかったかがわかります」
リストを好む彼女にとって、ピアノの弾きやすさはやはり重要だ。
「鍵盤がちょうど良い重さで、同時に戻りも速いピアノであってほしいので、ヤマハのCFXは最高のパートナーです。ただこうした連打の機能に優れるピアノは、もう一つの大切な要素であるレガートが弾きにくい傾向にあります。でもCFXは、安定したクオリティでこれが両立する稀なピアノなのです。今度の日本公演ではCFXを演奏できるので、何も心配していません」
とはいえ18歳までジョージアで育った彼女には、どんなピアノに遭遇しても対応できる能力が備わっている。
「通っていた学校には、鍵盤が不揃いなアップライトピアノしかありませんでした。それでも先生はいつも、“マリアム、ピアノから良い音が出なかったらそれはいつでもあなたのせいですよ”とおっしゃっていました。そんな環境で育った私にとって、全てのピアノは聖人です。私が尽くさなくてはいけません」
彼女がピアノを通じて実現したいのは、聴く人に「自分のためにこの音楽が奏でられている」と感じてもらうことだ。
「私の目標は、聴いてくださる方に、“ああ、彼女は私が長らく忘れていた心の奥に触れてくれた”、“彼女もこの感覚を持っているのか、私は一人じゃないんだ”と感じてもらうことです。私にとって音楽は、人が心を開き、どこかにたどり着くためのスピリチュアルな道具なのです」
ぜひ5月15日(水)の浜離宮朝日ホールで、CFXの音色と共に心が解き放たれる感覚に包まれてほしい。
日時:2024年5月15日(水)19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール(東京都中央区)
料金(税込・全席指定):一般5,300円、30歳以下2,000円
詳細はこちら
日時:2024年5月11日(土)14:00開演
会場:東京芸術劇場コンサートホール(東京都豊島区)
指揮:尾高忠明
ピアノ:マリアム・バタシヴィリ
料金(税込・全席指定):一般S席7,000円 A席6,000円 B席5,000円 C席4,000円 Ex席2,700円
適用割引は下記サイトをご覧ください。
詳細はこちら
文/ 高坂はる香
photo/ Attila Kleb(1枚目)、Josef Fischnaller(2枚目)
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