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口ずさめるようなメロディで、オルガンの音色に親しみを持たせたい/石丸由佳インタビュー
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2024.6.13
世界的に権威あるシャルトル国際オルガンコンクールで優勝後、国内外で活躍中のオルガン奏者、石丸由佳。宇宙をイメージして選曲した『オルガン・オデッセイ』、恐怖心をかきたてる『死の舞踏~悪魔のパイプオルガン』など、斬新な視点でオルガンの魅力を伝えるアルバムを発表してきた石丸の新作は『瑠璃色の地球 ~風のうた パイプオルガンで聴く想い出のポップス』。昭和〜平成を彩ったポップス曲を味わいのある音色で奏でたユニークなアルバムだ。
「パイプオルガンはまだ多くの方々にとって遠い存在。もし皆さんがよく知っている、口ずさめるようなメロディがオルガンの音色で聴こえてきたら、親しみを持っていただけるのではないかと思って」
新作のテーマをポップスにした理由についてこう語る石丸だが、パイプオルガンの歴史を考えると、決して突飛な発想ではないという。
「昔の作曲家たちが、教会のパイプオルガンで格式の高い音楽を演奏していたかといえば必ずしもそうではなくて、たとえばバッハは誰もが口ずさめる讃美歌をアレンジして弾いていました。オランダのスウェーリンクという作曲家は、礼拝でオルガン演奏を禁じる宗派が支配的だった当時、流行り歌(世俗曲)を弾くコンサートを開催していたそうです。当時の人たちにとっては、“ああ、あの歌ね”というメロディがオルガンから聴こえていたのでしょう」
それにしても、ポップスのように歌のメロディがはっきりした音楽をパイプオルガンで演奏するのは難しくないのだろうか。
「そうですね。パイプオルガンで人の声のように“歌う”のは実際かなりハードルが高いと思います。そこで今回は、辻オルガンを使って録音することにしました。オルガンビルダーの辻宏さんが製作した楽器で、日本各地の教会や学校などに設置されているのですが、このアルバムでは名古屋の結婚式場のチャペルに設置されたパイプオルガンを使いました。パイプは300本ぐらいで、6,000本近くもあるコンサートホールのオルガンに比べるとかなり小ぶり、鍵盤も1段しかないのですが、とにかくよく“しゃべる”楽器なんです」
「鍵盤を押して音が鳴る前に、わずかに“トゥッ”っていう金属音のような音がするんです。風が歌口(パイプの穴)に当たる音だと思うのですが、ヨーロッパの歴史的なオルガンにもこのような音がするものがあって、よく“しゃべる”楽器といいます。ほかにも、鍵盤とパイプの下の弁をつなぐ木製のアクションがカチャカチャという音をたてたり。工場生産ではなく、すべて手で作られた楽器ならではの味わいですよね。本当に繊細で、指が鍵盤に少しでも触れるとすぐに風が入ってしまうので、演奏するのはとても難しいですが、人の声を表現するにはぴったりだと思いました」
気鋭の作曲家たちによるアレンジも今作の聴きどころ。アルバムの幕を開ける『翳りゆく部屋』(作詞・作曲:荒井由実)の前奏から、まるで教会音楽のような響きが印象的だ。
「アレンジをしてくださった坂本日菜さんは、教会の礼拝用の音楽を数多く手がける作曲家なのですが、同時にオルガネッタという小さな手回しオルガンのスペシャリストでもあって、今作で私が目指した素朴な音色のイメージをとてもよく理解してくださいました。オルガンは“ひとりオーケストラ”と呼ばれるように、あらゆる楽器の役割ができますが、今作ではあえてそういった万能の大型オルガンではなく、素朴な味わいを前面に出したいと思って」
『部屋とワイシャツと私』(作詞・作曲:平松愛理)のほっと心やすらぐ音色は、そういったオルガンならではだろう。
「この曲は、意外と苦労しました。“部屋とワイシャツと私”というサビの部分が、音符だけで示すと同じ音の繰り返しで、弾いているうちにモールス信号のように聴こえてきてしまって。アレンジしてくださった中村友美さんに、楽譜に歌詞も書き込んでいただきました。そうすれば、リコーダーのタンギングのように発音にアクセントをつけることができるので」
コンサートのアンコールで『瑠璃色の地球』(作詞:松本隆/作曲:平井夏美)を弾いたところ、お客さまから大きな反響があったという。2024年春、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館の専属オルガニストの任期を終え、所沢市民文化センター ミューズのホールオルガニストに就任した石丸は、「ヨーロッパの教会とは違う、日本のコンサートホールならではのオルガン文化を作る」という目標に向かって、日々オルガン音楽の裾野を広げている。
「りゅーとぴあの専属オルガニストに就任したのは2020年の4月で、任期のほとんどがコロナ禍だったのですが、パイプオルガンは飛沫感染のリスクがもっとも少ない楽器ということもあり、けっこう忙しくしていました。オルガン公演の企画はオルガニストに一任されているので、やりたいことをやらせていただいたという感じです。たとえばプラネタリウムのようにホールに星空を投影して、宇宙にちなんだ作品を演奏するコンサートは、引き続きやっていきたいですね。日常の忙しさを抜け出してホールに駆けつけ、客席につくやいなや宇宙へ飛んでいくみたいな。オルガンを通して、そんな体験をしていただけたら嬉しいです」
アイデアは無限に広がるという石丸の活動から、ますます目が離せない。
石丸由佳さんにバイカウントクラシックオルガンの新モデル「Domus S8」と「Domus 4」を試奏していただきました
最新音源技術とAIの融合による新たなモデリング音源が搭載され、パイプオルガンの響きを一層リアルに再現できるようになった新モデル。試奏してみての感想をうかがいました。
「パイプオルガンは鍵盤を押すとパイプに風が入って、弱い音からふーっと音が立ち上がるのですが、そういった音の立ち上がりの感じがちゃんと再現できていますね。これは大きな進歩だと思います。風がパイプを通るときのノイズ、“音なき音”まで出るなんてすごいですね」
※撮影に使用したオルガンは発売前のため、一部ロゴ配置等が異なります。
発売元:キングレコード
発売日:2024年3月13日
料金(税込):3,300円
詳細はこちら
文/ 原典子
photo/ 宮地たか子
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tagged: パイプオルガン, バイカウント, オルガン, 石丸由佳
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