Web音遊人(みゅーじん)

映画『ボレロ 永遠の旋律』

映画『ボレロ 永遠の旋律』。出演と演奏を担当したピアニスト、アレクサンドル・タロー氏が語るラヴェルとは

全曲を通して繰り返されるスネアドラムのリズムが生命のエネルギーを感じさせるバレエ音楽『ボレロ』。この不朽の名作が生み出されるまでの物語を軸に、天才作曲家モーリス・ラヴェルの謎に満ちた人生を描いた本格的な音楽映画『ボレロ 永遠の旋律』が2024年8月9日(金)より全国で順次公開される。この作品に音楽批評家役とピアノ演奏で出演しているのが、世界的に活躍するピアニストの一人、フランス出身のアレクサンドル・タロー氏だ。映画と作曲家ラヴェルに寄せる思いを聞いた。

ラヴェルの生家で撮影された『ボレロ 永遠の旋律』

パリ・オペラ座で初演されて以来100年近く愛され続け、今も世界のどこかで15分に1回は演奏されていると言われる『ボレロ』。映画では、ラヴェルが『ボレロ』を作曲するまでの苦悩や焦り、挫折を、詳細な伝記による史実をもとに描き、ラヴェルの本質に迫っていく。

映画『ボレロ 永遠の旋律』

振付家からバレエ音楽の作曲を依頼されたものの、深刻なスランプに陥っていたラヴェルは1音も書けずに月日を過ごす。しだいに追い込まれていくなかで、深く傷ついた繊細な魂のすべてを注いで『ボレロ』を書き上げた。振付家も曲を絶賛する。しかし、彼女が考案したダンスは自分のイメージとかけ離れた官能的なもので、ラヴェルは失意のうちに公演初日を迎える。客席から本番を見つめるラヴェルは、いたたまれずに席を離れるが、心を許す唯一の女性に説得され戻る。そして壮大なフィナーレを迎えた瞬間、観客は『ボレロ』の大成功を熱狂的な拍手で讃え、やがてラヴェル自身にも万雷の拍手が贈られた。初演の舞台を再現した迫力あるステージは圧巻だ。映画のクライマックスではオーケストラとともに現代のバレエ・ダンサーが『ボレロ』を踊る。ほかにも、数々の演奏シーンにラヴェル作品が流れ楽しい。
今回の撮影は、ラヴェルの生家でも行われた。それは世界中の人々が予約して見学に訪れる家で、緑の谷を見下ろす美しい場所。自然の静けさが、ラヴェル作品の味わいと奥深さを際立たせている。

映画『ボレロ 永遠の旋律』

演技と演奏で出演のアレクサンドル・タロー氏

音楽ファンにとってのさらに大きな話題は、世界的に活躍するピアニストのアレクサンドル・タロー氏が音楽批評家ラロ役を熱演していることだろう。ラヴェルに批判的な批評家という役どころにジレンマを感じつつも、「この立場の人ならこういう言い方をするだろう」と想像し、演じたという。
「私自身はラヴェルをとても愛している音楽家なのに、ラヴェルを嫌っていた批評家だなんて……。でも逆に、そういう私にオファーしたところにおもしろみを感じました」
そのオファーをしたのは、タロー氏の友人でもあるアンヌ・フォンテーヌ監督だ。
「数年前から彼女と『ボレロ』に関して話していました。ラヴェルの人生のこんな部分をフィーチャーしたらいいのでは、とアドバイスしたこともあります。また、この映画には多くの演奏シーンがありますが、その演奏スタイルについて提案したりもしました。演技に関しては、はじめは不安もありましたが、実は10年ほど前にも映画出演をしたことがあって、それがとても楽しい体験だったのです。映画の現場にはたくさんの人が関わっていて、私を助けてくれますからね」

映画『ボレロ 永遠の旋律』

音楽批評家ピエール・ラロを演じるアレクサンドル・タロー氏。

タロー氏は映画で流れる『亡き王女のためのパヴァーヌ』『道化師の朝の歌』の演奏も行っている。
「映画にはラヴェルが自室で演奏するシーンもありますが、そのときの手元も私が演じています。ラヴェルは手が小さかったので、なるべく小さな手の雰囲気で弾くように努めました。その弾き方では和音が出しにくいのですが、ラヴェルになり切るために、あえてそのように演奏しています。また録音にはラヴェルの時代と同じ時代のピアノを使用し、とても小さなラヴェルの部屋の音響に近づくよう、ミキシングを調整してもらいました」

映画がラヴェルに近づくきっかけになる

「彼は社交的ではなく、悲しいときもそれを人に見せたりせず、ひっそりと生きていた人でした。内に秘めたものを決して外に出すことはなく、ラヴェル自身が秘密めいていました。ですから、一生かけても作曲家ラヴェルを真に理解することはできないかもしれません。そのくらい、ラヴェルは理解しようとすればするほどわからなくなる作曲家なのです」
音楽家の視点から、ラヴェル作品へのアプローチの難しさを言葉にしたタロー氏から、おすすめの鑑賞法が提案された。
「『ボレロ 永遠の旋律』は、ラヴェルを理解し始めるきっかけになるでしょう。ぜひご覧になってください。この映画が、きっと皆さんをラヴェルに近づけてくれるでしょう。おすすめの鑑賞法は、まずラヴェルに関する伝記を読んで、それから映画を観ることです。そして改めて彼の作品を聴きに、コンサートに足を運んでください。なぜならラヴェルの音楽の本質はライブでこそ伝わるからです」
2024年はコンサートで来日するタロー氏。映画でも彼の演奏と演技にも注目してほしい。

■映画『ボレロ 永遠の旋律』

2024年8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ ほか
配給:ギャガ
オフィシャルサイトはこちら

■映画『ボレロ』オリジナル・サウンドトラック

映画『ボレロ 永遠の旋律』

発売元:ワーナーミュージックジャパン
発売日:2024年3月8日
料金:オープン価格
演奏:ディルク・ブロッセ指揮・ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、アレクサンドル・タロー ほか
詳細はこちら

photo/ © 2023 CINÉ-@ - CINÉFRANCE STUDIOS - F COMME FILM - SND - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

辻󠄀井伸行

今月の音遊人

今月の音遊人:辻󠄀井伸行さん「ピアノは身体の一部、大切な友だちのようなものです」

3319views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#038 歴史的名曲“じゃない”曲で発揮されたディーヴァの本領を味わう~ビリー・ホリデイ『奇妙な果実』編

655views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

5694views

フルート

楽器のあれこれQ&A

初心者にもよくわかる!フルートの種類と選び方

22070views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

10042views

松石陽介さん

オトノ仕事人

「音楽の輪・人の和」を大切にして、子どもたちを健やかに育てる/地域バンドをまとめる仕事

412views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

9406views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3347views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15297views

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う 結成30年のビッグバンド

われら音遊人

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う、結成30年のビッグバンド

9965views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6138views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31114views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

11176views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

23062views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.3

4747views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

43779views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

4651views

マーチング

楽器探訪 Anothertake

見て、聴いて、楽しいマーチング

16121views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

25193views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5630views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

26290views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3284views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31114views