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今月の音遊人:辻󠄀井伸行さん「ピアノは身体の一部、大切な友だちのようなものです」
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映画『ボレロ 永遠の旋律』。出演と演奏を担当したピアニスト、アレクサンドル・タロー氏が語るラヴェルとは
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2024.8.8
tagged: ラヴェル, アレクサンドル・タロー, 映画, ボレロ
全曲を通して繰り返されるスネアドラムのリズムが生命のエネルギーを感じさせるバレエ音楽『ボレロ』。この不朽の名作が生み出されるまでの物語を軸に、天才作曲家モーリス・ラヴェルの謎に満ちた人生を描いた本格的な音楽映画『ボレロ 永遠の旋律』が2024年8月9日(金)より全国で順次公開される。この作品に音楽批評家役とピアノ演奏で出演しているのが、世界的に活躍するピアニストの一人、フランス出身のアレクサンドル・タロー氏だ。映画と作曲家ラヴェルに寄せる思いを聞いた。
パリ・オペラ座で初演されて以来100年近く愛され続け、今も世界のどこかで15分に1回は演奏されていると言われる『ボレロ』。映画では、ラヴェルが『ボレロ』を作曲するまでの苦悩や焦り、挫折を、詳細な伝記による史実をもとに描き、ラヴェルの本質に迫っていく。
振付家からバレエ音楽の作曲を依頼されたものの、深刻なスランプに陥っていたラヴェルは1音も書けずに月日を過ごす。しだいに追い込まれていくなかで、深く傷ついた繊細な魂のすべてを注いで『ボレロ』を書き上げた。振付家も曲を絶賛する。しかし、彼女が考案したダンスは自分のイメージとかけ離れた官能的なもので、ラヴェルは失意のうちに公演初日を迎える。客席から本番を見つめるラヴェルは、いたたまれずに席を離れるが、心を許す唯一の女性に説得され戻る。そして壮大なフィナーレを迎えた瞬間、観客は『ボレロ』の大成功を熱狂的な拍手で讃え、やがてラヴェル自身にも万雷の拍手が贈られた。初演の舞台を再現した迫力あるステージは圧巻だ。映画のクライマックスではオーケストラとともに現代のバレエ・ダンサーが『ボレロ』を踊る。ほかにも、数々の演奏シーンにラヴェル作品が流れ楽しい。
今回の撮影は、ラヴェルの生家でも行われた。それは世界中の人々が予約して見学に訪れる家で、緑の谷を見下ろす美しい場所。自然の静けさが、ラヴェル作品の味わいと奥深さを際立たせている。
音楽ファンにとってのさらに大きな話題は、世界的に活躍するピアニストのアレクサンドル・タロー氏が音楽批評家ラロ役を熱演していることだろう。ラヴェルに批判的な批評家という役どころにジレンマを感じつつも、「この立場の人ならこういう言い方をするだろう」と想像し、演じたという。
「私自身はラヴェルをとても愛している音楽家なのに、ラヴェルを嫌っていた批評家だなんて……。でも逆に、そういう私にオファーしたところにおもしろみを感じました」
そのオファーをしたのは、タロー氏の友人でもあるアンヌ・フォンテーヌ監督だ。
「数年前から彼女と『ボレロ』に関して話していました。ラヴェルの人生のこんな部分をフィーチャーしたらいいのでは、とアドバイスしたこともあります。また、この映画には多くの演奏シーンがありますが、その演奏スタイルについて提案したりもしました。演技に関しては、はじめは不安もありましたが、実は10年ほど前にも映画出演をしたことがあって、それがとても楽しい体験だったのです。映画の現場にはたくさんの人が関わっていて、私を助けてくれますからね」
タロー氏は映画で流れる『亡き王女のためのパヴァーヌ』『道化師の朝の歌』の演奏も行っている。
「映画にはラヴェルが自室で演奏するシーンもありますが、そのときの手元も私が演じています。ラヴェルは手が小さかったので、なるべく小さな手の雰囲気で弾くように努めました。その弾き方では和音が出しにくいのですが、ラヴェルになり切るために、あえてそのように演奏しています。また録音にはラヴェルの時代と同じ時代のピアノを使用し、とても小さなラヴェルの部屋の音響に近づくよう、ミキシングを調整してもらいました」
「彼は社交的ではなく、悲しいときもそれを人に見せたりせず、ひっそりと生きていた人でした。内に秘めたものを決して外に出すことはなく、ラヴェル自身が秘密めいていました。ですから、一生かけても作曲家ラヴェルを真に理解することはできないかもしれません。そのくらい、ラヴェルは理解しようとすればするほどわからなくなる作曲家なのです」
音楽家の視点から、ラヴェル作品へのアプローチの難しさを言葉にしたタロー氏から、おすすめの鑑賞法が提案された。
「『ボレロ 永遠の旋律』は、ラヴェルを理解し始めるきっかけになるでしょう。ぜひご覧になってください。この映画が、きっと皆さんをラヴェルに近づけてくれるでしょう。おすすめの鑑賞法は、まずラヴェルに関する伝記を読んで、それから映画を観ることです。そして改めて彼の作品を聴きに、コンサートに足を運んでください。なぜならラヴェルの音楽の本質はライブでこそ伝わるからです」
2024年はコンサートで来日するタロー氏。映画でも彼の演奏と演技にも注目してほしい。
2024年8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ ほか
配給:ギャガ
オフィシャルサイトはこちら
発売元:ワーナーミュージックジャパン
発売日:2024年3月8日
料金:オープン価格
演奏:ディルク・ブロッセ指揮・ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、アレクサンドル・タロー ほか
詳細はこちら
文/ 芹澤一美
photo/ © 2023 CINÉ-@ - CINÉFRANCE STUDIOS - F COMME FILM - SND - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS
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