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今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#042 BGMに芸術性と大衆性を共存させた確信犯的カヴァー集~ウェス・モンゴメリー『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』編
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2024.8.9
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, ウェス・モンゴメリー, ア・デイ・イン・ザ・ライフ
それにしても、酷いアルバム・ジャケットです。
現在であれば、健康や環境への“警鐘”という社会的な意義を漂わせるといった“言い訳”ができるかもしれませんが、不快感を喚起するであろうことが予想される写真(=デザイン)をエンタテインメントの世界で採用するということは、勇気が必要な決断だったに違いありません。
果たしてこのジャケット写真は、アルバムの内容に関係しているのかいないのか、はたまた別の意味が隠されているのか……。
発表から半世紀以上を経たいま、改めて問い直してみましょう。
1967年6月にアメリカのスタジオでレコーディングされた作品です。
オリジナルはLP盤でリリースされ、A面5曲B面5曲の合計10曲を収録。同曲数同曲順でのみCD化されています。
メンバーは、ギターがウェス・モンゴメリー、ピアノがハービー・ハンコック、ベースがロン・カーター、ドラムスがグラディ・テイト、パーカッションがレイ・バレットとジャック・ジェニングスとジョー・ウォーレッツ。ほかに管弦楽団が起用され、アレンジと指揮をドン・セベスキーが担当しています。
収録曲は、1曲(『エンジェル』)を除いてカヴァー曲で、なかでも『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』『エリナー・リグビー』の2曲はビートルズのオリジナル。前者は1967年6月リリースのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』収録、後者は1966年8月に『イエロー・サブマリン』との両A面シングルとしてリリース(同日発売のアルバム『リボルバー』にも収録)と、いずれも1年以内に世界的ヒットとなったロックの楽曲をいち早くセレクトしています。
ウェス・モンゴメリーといえば、押しも押されもせぬジャズ・ギターのジャイアント。
ギター・ピック代わりに親指の腹を使うサム・ピック奏法や、原音と8度の音のポジションを2本の指で押さえて発音するオクターヴ奏法など、超絶技巧を駆使しながらブルース・フィーリングあふれる表現でジャズ・ファンを魅了していました。
ところが、1960年代前半にヴァーヴ・レコードへ移籍すると、クリード・テイラーのプロデュースのもとで方針を大転換。ポップなインストゥルメンタル路線を突っ走ることになります。
その集大成ともいえるのが本作で、音楽業界誌「ビルボード」の1967年のジャズ・アルバム・チャートでは首位を飾り、全米チャートでも11位を記録するほどの大ヒット作となりました。
ビートルズが事実上の解散をしたのは1970年4月10日。
小学校高学年だったボクは、自分専用のトランジスタ・ラジオを手に入れて洋楽のチャート紹介番組を聴き始めたばかりのころで、それほどビートルズに惹かれたという記憶はありません。
どちらかといえば、サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』やカーペンターズの『遙かなる影』なんかのほうが取っつきやすいと思っていました。
ビートルズも、『レット・イット・ビー』や『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』あたりはハードルが低かったものの、アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』や『リボルバー』を買ってまで聴きたいとは思わなかった……。
とはいえ、父親にねだって(なぜかウチにあったオーディオで再生できた)8トラック・テープ(通称“8トラ”=ハットラ)の誰が演奏しているのかわからないインストのビートルズ・ベストを買ってもらって聴いていたことを思い出しました。
中学生になると、“赤盤”と呼ばれた2枚組ベストアルバム『ザ・ビートルズ1962年~1966年』(1973年リリース)をもっている人が周囲には何人かいたのですが、そうした派閥には与せず、ボクはハード・ロックからプログレッシヴ・ロック、そしてジャズの沼へと落ちていくことになります……。
閑話休題。ボクが“赤盤”を“ポピュラー・ロックの象徴”のようにとらえて避けたように、当時のジャズ界でも本作は(絶大な売上を記録したにもかかわらず)評価が低かったと思います。
それは、本作が“イージー・リスニング・ジャズ”と呼ばれたことにも表われているのではないでしょうか(アメリカでの批評で“背景音楽=バック・グラウンド・ミュージック=BGM”という言葉も使われています)。ジャズは難しくて高尚なものなのだから、“イージー”であることは価値が劣るという認識があったことをうかがわせますね。
ところが、そうした風潮をあざ笑うかのように本作は広く受け入れられたわけです。
イージーだろうがバック・グラウンドだろうが「いいものはいい」と──。
ジャズのサブ・ジャンルの枠とリスナーの裾野を広げた本作は、やっぱり“名盤”になるべくしてなったのだなぁと思います。
あっ、ジャケット写真とアルバムの内容についての考察は、また改めて。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook
文/ 富澤えいち
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