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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#050 “オワコン”だったビッグバンドがモダン・ジャズへと次元上昇~カウント・ベイシー・オーケストラ『エイプリル・イン・パリ』編
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2024.12.16
tagged: カウント・ベイシー・オーケストラ, エイプリル・イン・パリ, 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』(2020年公開)は、岩手・一関で50年続いた“ジャズの聖地”と呼ばれるほど熱狂的なファンがいる店のこだわりと主人の生き様をかいま見ることのできるドキュメンタリータッチの映画でしたが、そのなかでテーマ曲のように用いられていたのが本作収録のタイトル曲『エイプリル・イン・パリ』。
曲の終盤、「ワン・モア・タイム!」というカウント・ベイシーの声にあわせてエンディングを3回も繰り返すなど、ライヴ感のあるユニークな、カウント・ベイシー・オーケストラらしさを演出した印象的な曲で、この曲が本作を“名盤”たらしめたと言っても過言ではないでしょう。
裏を返せば、本作でカウント・ベイシー・オーケストラは、改めて“らしさ”を強調しなければならない状況であったとも言えるわけです。
そんな事情を掘り起こしながら、本作を再点検してみましょう。
1955年と翌56年の2回に分けて、米ニューヨークのファイン・サウンド・スタジオで収録されました。
オリジナルはA面5曲/B面5曲の合計10曲を収録したLP盤で1957年にリリース、同じ構成で1981年にカセットテープも発売されました。CD化では同曲数同曲順のほか、ボーナス・トラック7曲を追加した合計17曲収録のヴァージョンもリリースされています。
メンバーは、指揮とピアノがカウント・ベイシー、トランペットがルノー・ジョーンズ、サド・ジョーンズ、ジョー・ニューマン、ウェンデル・カレイ、トロンボーンがベニー・パウエル、ヘンリー・コーカー、ビル・ヒューズ、アルトサクソフォンがマーシャル・ロイヤル、ビル・グラハム、テナーサクソフォンがフランク・フォスター、フランク・ウェス、バリトンサクソフォンがチャーリー・フォークス、ギターがフレディ・グリーン、ベースがエディ・ジョーンズ、ドラムスがソニー・ペイン、パーカッションがホセ・マングァル、ウバヅロ・ニエド。
収録曲はいずれも“ベイシー・レパートリー”と呼ばれる、メンバーのオリジナル曲やスタンダード・ナンバーを織り交ぜた選曲になっています。
コンボ(小編成)のジャズにおいては、ビバップがハード・バップへとヴァージョンをアップさせたことによって、“モダン・ジャズ”と呼ばれるまでの芸術性を高めることができたとされています。
一方で、ビッグバンド(大編成)のジャズにおいては、ポピュラー音楽の中心を担っていた隆盛期が1920~30年代で、それ以降、特に第二次世界大戦後は経済不況の煽りも受けてバンド経営が成り立たなくなり、次々とメジャーなオーケストラが解散していくという惨状を呈していました。
つまり1950年代には、ジャズ・オーケストラという形態は一般的に“オワコン”と認識される状況だったのですが、そうしたジャズ・オーケストラ・ファンたちに希望の光を与えたのが本作だったわけです。
本作が隆盛期を懐かしむリヴァイヴァル風にとどまることなく、モダン・ジャズとして1950年代のコンボ作品と肩を並べる先取性を備えていたことが、“名盤”という評価につながったのだと思います。
冒頭で触れた映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』については、2020年の公開時に加えて、2023年6月に東京・池袋の新文芸坐で“オーディオルーム 新文芸坐”と題して特別上映された際にも観に行き、一般上映とは異なるスペシャルな音響によってこの映画を考察し直すことができました。
そこで改めて感じたのは、映画で描かれていたジャズ喫茶ベイシーの“オーディオへの執着”と、カウント・ベイシー・オーケストラが試みていた“時代の音楽への執着”との共通性だったりするのです。
それはたとえば、装飾音符をほとんど用いないカウント・ベイシーのピアノが浮き立つようなホーン・セクションのハーモニーとヴォリュームの組み合わせを意識できるようになることであり、ひいてはマリア・シュナイダーや挾間美帆のサウンドに対する感じ方をもっとおもしろくしてくれることになるんじゃないか、と……。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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