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今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」
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23歳にして、イザイのバイオリンソナタ全曲演奏に挑む/外村理紗インタビュー
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2024.12.19
バイオリニストの外村理紗は東京音楽大学付属高等学校を特別特待奨学生として卒業し、2024年5月、マンハッタン音楽学校のクラシック・ヴァイオリン演奏科もフルスカラシップ生で卒業。現在はマンハッタン音楽学校の修士課程で研鑽を積んでいる。2018年、17歳にしてアメリカの第10回インディアナポリス国際バイオリンコンクールで第2位を受賞し、同年にニューヨークで開催されたYoung Concert Artists International Auditionで優勝。ニューヨーク、ワシントンでのデビューリサイタルを果たした。国際的なバイオリニストとして確かな道を歩む彼女が、2025年3月、紀尾井ホールでイザイの無伴奏バイオリンソナタの全曲演奏に挑む。
イザイの無伴奏バイオリンソナタはコンクールで必ずといっていいほど課題曲に選ばれる難曲。技術・表現共に卓越した奏者でなければ弾きこなすことのできない作品だ。外村はこの作曲家の作品に、なぜ惹かれたのだろうか。
「イザイの作品は和声が本当に美しく魅力的です。彼の響きからはあらゆる情景が浮かんでくるのです。初めて聴いたのは小学生の頃でした。そのときからなんて素敵なんだろうと思っていたのですが、バイオリニストの母からイザイの難しさをよく聞いていたので、ただの憧れで終わっていました。しかし、中学3年生のコンクールで第6番のソナタが課題曲に決まり、考えていたよりも早く弾く機会が訪れたのです。どうなるか心配でしたが、実際に弾いてみると曲の世界にどんどん入り込める自分がいました。このとき以来、彼の作品を日常的に弾くようになりましたね。少しずつ人前で演奏する場も積極的に作りながら日々取り組んでいるのですが、とくにここ最近はイザイについて書籍やインタビュー記事、論文などを見て、人物への理解も深めているところです。そのなかで解釈もかなり変わってきました」
バイオリニストであり、イザイの研究者であるレイ・イワズミ(岩住励)との出会いも大きく影響しているという。
「岩住さんから教えていただき、いろいろな人から見た“イザイ像”についてもうかがうことができました。そのおかげで、私のなかでどこか神格化しすぎていた彼をもっと様々な角度から見ることができるようになりました。今考えると、以前はイザイの作品を演奏するとき、どこか気負っていた部分があったのですが、それがなくなってきました。この成果を今度のリサイタルではお届けしたいですね。無伴奏の作品を演奏するということは、私ひとりで舞台に立ち、すべてをお客様に見ていただくので、精神力を問われるものになると思います。ただ、もっと私自身も楽しみながら、心から愛するイザイの大好きな6つのソナタと共にこの大きな舞台に挑みたいという気持ちがとても大きくなっています」
そのときに“相棒”となるのが2023年8月末から日本音楽財団より貸与されている1715年製のストラディヴァリウス「ヨアヒム」だ。
「ご縁があり、貸与を受ける前に試奏したのですが、その魅惑的な音色に、すぐに虜になってしまいました。弓の角度や当て方を少し変えるだけで、まったく違う表情を見せてくれるのです。繊細なコントロールが可能なので、複数の声部が絡みあうイザイの作品との相性は素晴らしいものになると思います」
会場となるのは紀尾井ホール。外村はこのホールとは縁があるという。
「江副記念リクルート財団のスカラシップコンサートに出演したのが最初で、『紀尾井 明日への扉』シリーズでも演奏したことがあります。とても思い出がありますし、音響が素晴らしいホールなので、今から楽しみです」
外村は高校を卒業してすぐに渡米し、現在に至るまでマンハッタン音楽学校で学んでいる。これはかなり勇気がいる決断だったのではないだろうか。
「小さい頃から漠然と留学するならアメリカだろうとは思っていました。お世話になっている先生がジュリアード音楽院やインディアナ大学で学ばれていた方々でしたので、憧れもありましたし、イメージがしやすかったというのもあります。また、幼稚園がインターナショナルスクールだったので、感覚もあうかなと思いました。自然の流れで決まっていきましたね」
アメリカではどのようなレッスンを受けているのだろう。日本との違いはあるのだろうか。
「あくまでも私の印象になりますが、日本よりも先生との距離が近く、いろいろな話がしやすいのと、クラスの生徒同士でお互いの演奏を聴き合って意見を述べあったりする機会が多いような気がしています。また、アメリカはシアターのような響きのない空間で演奏することもあれば、教会のように響きが豊かな場所で演奏することもあります。さまざまな環境での対応力が求められるので、どのように楽器を鳴らせばいいかといった勉強もしています。また修士課程に入ってからはより演奏の勉強に集中できるようになり、室内楽やオーケストラの授業も充実しているので、さらにたくさんの刺激をいただいています」
アメリカで積極的に学びながらそれらを吸収し、演奏に活かしている外村。今度のオール・イザイ・プログラムでは名器と美しい音響の紀尾井ホールを味方に、23歳の今だからこその音色、表現を届けてくれることだろう。
日時:2025年3月7日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:紀尾井ホール(東京都千代田区)
料金(税込):全席指定4,000円/学生券2,000円 ※未就学児入場不可
プログラム:
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ op.27
第1番 ト短調/第2番 イ短調/第3番 ニ短調「バラード」/第4番 ホ短調/第5番 ト長調/第6番 ホ長調
※演奏する曲順については当日発表いたします
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