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今月の音遊人:小林愛実さん「理想の音を追い求め、一音一音紡いでいます」
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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#065 オールスターズを見事に采配したスウィング・ヴァイブの代表作~ライオネル・ハンプトン『スターダスト』編
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2025.7.15
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, ライオネル・ハンプトン
1908年生まれのライオネル・ハンプトンは、ハイティーンのころにパーカッショニストのジミー・バートランドのレッスンを受け、木琴とドラムを始めたと言われています。
20歳になるころ、カリフォルニアでプロ・ドラマーとしての活動を始めると、ジャグリングのように何本ものスティックを回転させながら正確なリズムを刻むパフォーマンスがウケて、注目されるようになります。
1930年、当時すでにスターとなっていたルイ・アームストロングがカリフォルニアを訪れた際、ライオネル・ハンプトンの噂を耳にしてスタジオに彼を呼び出し、レコーディングの機会を与えました。
ドラマーとして呼ばれたライオネル・ハンプトンでしたが、スタジオにヴィブラフォンがあるのを見つけると(木琴を習っていたことを思い出したのでしょう)、マレットを手にしてルイ・アームストロングのソロ・パートを弾いて見せたのです。
その歌心とテクニックに魅せられたルイ・アームストロングは、彼にバック・コーラスのパートをヴィブラフォンで弾くように命じて録音に臨むことになります。こうして、“ジャズ・ヴィブラフォンの創始者”にして“キング”と呼ばれることになるライオネル・ハンプトンは誕生しました。
そして西海岸からニューヨークへ拠点を移した1940年代には自己のビッグバンドを運営し、1930年代から続くスウィング・オーケストラの中心的存在として活躍することになったのです。
本作は、1940年代のスウィングを代表する演奏者として注目を集めていたライオネル・ハンプトンをトップの座に押し上げる『スターダスト』の名演を収めた“名盤”として知られています。
その内容について、深掘りしてみたいと思います。
1947年に音楽プロデューサーのジーン・ノーマンが米カリフォルニア州パサデナのシヴィック・オーディトリアムで開催した“ジャスト・ジャズ”というコンサートのもようを収録したライヴ作品です。
オリジナルは、A面2曲B面2曲の全4曲によるLP盤でリリースされています。同曲数同曲順でCD化もされています。
メンバーは、ヴィブラフォンがライオネル・ハンプトン、トランペットがチャーリー・シェイヴァース、アルト・サックスがウィリー・スミス、テナー・サックスがコーキー・コーコラン、ピアノがトミー・トッド、ギターがバーニー・ケッセル、ベースがスラム・スチュワート、ドラムスがリー・ヤングとジャッキー・ミルズ。
収録曲は、すべてジャズ・スタンダード・ナンバーのカヴァーです。
アルバム・タイトルは、1958年のリリース当時は『ジャスト・ジャズ』となっていましたが、1960年代リリースの欧州盤では『スターダスト』へと変更され、ジャケット・デザインも変えられて現在に至っています。
本作は、彼のレギュラーなビッグバンドとは異なる、ライヴ・イヴェントのためのスター・ミュージシャンをそろえたスペシャルなメンバー構成となっていて、ソロもそれぞれをフィーチャーしているため、1曲が長めになっています。
このようなオールスター・セッションはイヴェントの“目玉”にはなるものの、それぞれの出演者が自己主張をするためにバンド全体としてまとまりにくい──という印象の演奏が多かったりします。
ところが本作では、クラシック音楽のガラコンサートのようにソリストごとの“出番”と“役割”がキッチリと割り振られていて、全体に破綻(=ミスマッチや手抜き)が見られません。
こうしたまとまりの良さが聴きやすさにつながったことも、本作を“名盤”に仕立てたのだと思うのです。
ライオネル・ハンプトンはボクにとって“スウィングの師匠”とも呼ぶべき存在でした。
ジャズを聴き始めたころ、ビバップとハード・バップのテイストの違いを聴き分けることが難しいと感じていて、さらに“ジャズの真髄のひとつ”と言われていたスウィングとなると、リズムやテイストの違いを理解できても、そこからどうやって楽しく聴き進めていけばいいのか、きっかけがつかめずに困っていた時期がありました。
そんなときに、スウィングへの突破口を開いてくれたのが、ライオネル・ハンプトンだったのです。
たとえば、本作収録の『スターダスト』では、バーニー・ケッセルのソロに続いたライオネル・ハンプトンが明らかにリズム・アクセントを変えて、音数を増やした演奏により曲全体の印象をガラッと変えてしまうといった、彼独特の演出的手腕を発揮したところ等々……。
この部分では、アルト・サックス~トランペット~テナー・サックス~ベース~ピアノ~ギターと続いた長いソロ・パートにメリハリをつけるとともに、エンディングに向けた展開も“変化”があると感じさせることで、観客を聴き飽きさせないだけでなく、メンバーたちの士気を上げる効果もあったと思っています。
オールスターズによる見どころならぬ聴きどころ満載ゆえの“ソリストたち頼み”とならず、きちっとリーダーシップを発揮してスウィングのヴァリエーションの豊かさを示してくれたところにこそ、本作の意義があるのではないでしょうか。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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