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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#069 ニューヨークのラテン・ブームを巧みに盛り込んだ大ヒット作~リー・モーガン『ザ・サイドワインダー』編

1960年代前半に、それまでのハード・バップを土台としたジャズのヴァリエーションのひとつを“ジャズ・ロック”と呼んでいたことがありました。

要するに、ジャズっぽいんだけれど、リズムのアクセントがそれまでのジャズのセオリーとは違っていることを理由に、主流であるビバップの系譜からは外れていると感じていたことによる“差別化”だったのでしょう。

その代表的な作品が本作。

たしかにブルース・コードを基調にしているからジャズに聴こえなくもないのだけれど、リズムがフォービートとは言い切れないところがあったため、ジャズとエイト・ビートのロックを“混ぜこぜにした”ものだと考えた結果の命名だったのではないかと思います。

現在、“ジャズ・ロック”は1960年代後半に隆盛を見せた、ジャズとロック双方からのアプローチによって生み出されたミクスチャーなスタイルのことを指し、エレクトリック・サウンドであることがポイントになっているので、本作を“ジャズ・ロック”の代表作とするのはジャズにもロックにも申し訳ないような気がしますね。

とはいえ本作には、1950年代のハード・バップ系ジャズにはなかったテイストがあって、とても聴きやすいのは確かなのです。

ということで、本作が内包しているに違いない、それまでのジャズじゃない部分、ロックでもない部分とはなにか──を再考してみたいと思います。


The Sidewinder (Remastered 1999/Rudy Van Gelder Edition)

アルバム概要

1963年に米ニュージャージー州のヴァン・ゲルダー・スタジオでレコーディングされた作品です。

オリジナルはLP盤(A面2曲B面3曲の全5曲)でリリースされています。CD化では同曲数同曲順のほか、別テイクを加えた全6曲のヴァージョンがあります。

また、リール・トゥ・リール(=オープンリール)やカセットのテープといったフォーマットでもリリースされました。

メンバーは、トランペットがリー・モーガン、テナー・サクソフォンがジョー・ヘンダーソン、ピアノがバリー・ハリス、ベースがボブ・クランショウ、ドラムスがビリー・ヒギンズ。

収録曲は、すべてリー・モーガンのオリジナル曲です。

“名盤”の理由

1960年代のアメリカ、特にニューヨークでは、ラテン音楽のムーヴメントが巻き起こっていました。

これは、1950年代にカリブ海のキューバやアメリカ合衆国の自治的・未編入領域であるプエルトリコから多くの人々が移住したニューヨークなどの大都市におけるコミュニティで、アフリカ系住民由来のラテン音楽やダンスをもとに生まれたサルサが“起点”となったムーヴメントでした。

なかでもニューヨークのプエルトリコ・コミュニティで発展したのが、ラテン音楽のアクセントをもったリズム(ソン・モントゥーノ)やマンボと、ニューヨークで熟成したリズム・アンド・ブルースやソウルを融合した、ブーガルーと呼ばれるスタイルのリズムや音楽でした。

一方、本作がレコーディングされた1963年は、リー・モーガンが1958年から参加していたジャズ・メッセンジャーズを薬物問題で脱退(1961年)したあとに故郷のペンシルベニア州フィラデルフィアへ戻り、再起を期してニューヨークに出てきた年。

注目を浴びることを意識したリー・モーガンが、いち早く流行のブーガルーを取り入れることで、ジャズ・シーンの最前線へ復帰したことを印象づける目論見があったのでしょう。

この目論見は見事に当たり、アルバム・リリース半年後には全米ヒットチャート(=ビルボード200)で25位を記録、シングルカットされたタイトル曲『ザ・サイドワインダー』も最高位81位を記録するなど、リー・モーガンにとっても、レーベル(=ブルーノート・レコード)にとっても、ジャズ・シーンにとっても、エポックメイキングな作品となったのです。

いま聴くべきポイント

南ヨーロッパの民俗音楽を由来とするラテン音楽は、ジャズと従兄弟、いや、兄弟といってもおかしくないほど似たような発展経緯をもった音楽スタイルです。

なので、「ジャズはフォービートでなければならない」とでも限定しないかぎり、ラテン音楽のリズム・ヴァリエーションを取り入れた曲を「ジャズではない!」と切り捨てるわけにはいかないのだと思います。

逆に言えば、“狭義のジャズ”にこだわらなかったからこそ、本作が多くのリスナーに受け入れられ、1960年代におけるポスト・ハード・バップの旗手としての役割を果たすことができたわけです。

リー・モーガンは、自分がいち早く取り入れたブーガルーをほかのミュージシャンにも勧めたそうです。

1960年代のジャズ・シーンでは、ブーガルーを土台にヒップでポップな、つまり“ウキウキするようなリズムで聴きやすいテーマのジャズ”のヴァリエーションが広まり、結果的にモダンジャズと呼ばれる作品群を形成する重要な要素になっていると思います。

“ジャズの聴きやすさ”にスタイリッシュなテイストを持ち込んで完成させたセンスがあったからこそ、本作は“懐かしいヒット曲”にとどまることなく、ジャズのスタンダードになりえたのです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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