Web音遊人(みゅーじん)

藤原さくら

逆境をギフトに、歌声とともに歩んだ10年。さらなる一歩を軽やかに踏み出す/藤原さくらインタビュー

シンガーソングライターの藤原さくらが、2025年にデビュー10周年を迎えた。幅広い活動で多彩な表現を繰り広げてきた10年間を振り返りつつ、最新シングルや制作中のアルバム、2026年開催予定の日本武道館公演について語ってもらった。

自分の声があれば、どれだけ違うことをやってもブレない

ミュージシャンとして、さらに役者としてドラマや舞台、映画に出演するなど、幅広い活動でさまざまな顔を見せてきた藤原さくら。“いろんなことに興味を持つタイプ”と語るだけあって、異なる分野の表現にも積極的に挑戦してきたが、彼女にとってはすべてが繋がっていたと感じるそうだ。
「この10年間というのが、自分のなかでは25年くらいあったような気がしているほど濃くて。音楽だけでなく、俳優業などいろんなことに挑戦させていただきました。役柄を通して曲が生まれたり、新しい環境での出会いがあって生まれた曲もたくさんあります。違う分野の活動も、いまは全部繋がっているんだなと感じていて、挑戦してよかったと思える10年間でした」
活動の主軸である音楽でも、彼女の多彩さは輝いていた。フォークやブルース、カントリー、ジャズをベースにしつつ、ファンクやヒップホップなども取り入れ、独自のポップスへと昇華させてきた。そんな多彩な表現ができたのも、その中心で響く彼女のスモーキーな歌声が、何物にも染まらない独自性を持っていたからだろう。
「いろんなタイプの曲をアルバムに入れるときに、プロデューサーも違えば曲のテイストも違うので、ひとつのアルバムとしてまとまるのか不安で、ディレクターに相談したことがあります。そのとき“あなたの声で歌ったら全部あなたの曲になるから、そこは気にしなくていいよ”と言われて。確かに自分の持っているもの、声やトーンがあれば、どれだけ違うことをやってもブレないのかもと、これまで続けてきて感じました」
ブレない声を武器に自由に歌う、そんな軽やかな姿勢で続けてきた藤原だが、立ち止まらざるをえないときがあった。2024年に耳と喉の不調で、音楽活動を一時休止した。
「自分としては自然体でやりたいことをやってきたつもりでしたが、それでもやっぱり気負っているところがあったみたいです。私の場合は、もともと“楽しいから”やってきた音楽活動が、どんどん『お仕事』として考えるようになってしまい、それがしんどく感じることもあって。結果、人前で歌うのが怖くなっちゃって。ピッチが外れたり、一度間違えたら次も間違えるんじゃないかって思ったりして、不安になることもありました」
あんなに楽しかった音楽が怖くなってしまった──自分の身に起きたことが信じられず、落ち込んだりもした。しかしその事実を受け入れたことで、解決の道筋を見出すことができたそうだ。
「自分の努力だけではどうしようもない事象とかあるじゃないですか。近いところではコロナ禍がそうだったし、頑張っても何かが起きてしまうなら、自分の捉え方を変えるしかないと思うようになって。発声障害になったときも、これは逆に長く音楽を続けるためのギフトかもしれないと思ったんです。私の場合は、エネルギーの出力を間違えていたというか。気負わなくてもいいところで“こうしなきゃダメだ”と思い過ぎていたというか。そういうことに気付けたのは幸運でした」

藤原さくら

ただ楽に、ぷかぁっと波に浮かんでいるみたいな音楽を

もっと肩の力を抜いていいんだ──それに気づいたいまの彼女が作り出す音楽に溢れているのは、2025年10月22日にリリースした最新デジタルシングル『scent of the time』でも存分に表現されている“心地よさ”だ。
「制作のために山梨に一週間くらい行きました。朝起きたら湖までお散歩して、ひとりでぼーっと揺れる波や光が反射してキラキラしている湖面を見ていたら、ちゃんと息が吸えてると感じて。気持ちが楽になったことで、空間と自分がひとつになって、余計なことを考えずに、目の前の景色を味わえているって思えたんです」
ゆったりしたボレロのリズムのうえで、やさしく響くメロディーと歌声。ピアノやギター、パーカッション、ストリングスなどが多重に鳴りながらも、圧倒するような響きではなく、聴くものを招き入れるような穏やかさがある。歌詞も明確なストーリーやメッセージはなく、藤原が湖畔で見た景色から“感じた”ことを、ありのまま綴っている。ただひたすらに、心地よい歌と音が響いているのだ。


藤原さくら – scent of the time (Official Audio)

「アーティストとして活動していると、やっぱり“私はこういう人間なんだ”っていろんな形で発信するじゃないですか。もちろんそれは大事なことではあるんですけど、どんどん理想の自分に押しつぶされていく感覚がありました。膨れ上がっていたエゴみたいなものを手放すことで、ただ楽に、ぷかぁっと波に浮かんでいるみたいな、溶けるみたいな感覚を得て。あ、これを音楽でもやっていけばいいんだって気付いたんです」
手放すことで手に入れたもの、それは音楽と一体となる心地よさ。鋭意制作中のアルバムでも、随所でそれが感じられることになるそうだ。
「ジャンルとしては2025年6月にリリースしたデジタルシングル『Angel』のチャチャチャだったり、今回の『scent of the time』のボレロだったり、ちょっと南のほうのエッセンスを感じるような曲が多くなっていて。ただ具体的な国ではなく“どこかの島”にたどり着いたみたいな。特定のジャンルに特化せず、本当にいろんな要素が入ったアルバムになりそうです。それこそ波の音とかも入っていて、どの曲も心地よさそうなバイブスを感じるアレンジになっていると思います」

精神的に薄着になって、軽やかに存在することができたら100点

そんなアルバムがリリースされた後、2026年2月23日(月・祝)には初の日本武道館単独公演が待っている。彼女にとって思い入れのある会場なだけに、心躍らせながら一歩ずつ進めているようだ。
「武道館では、一度所属事務所のイベントで歌わせていただいたことがあるんです。それこそ私の大好きなザ・ビートルズも立っている場所ですし、いい波動のようなものがある場所なんだろうなって思っていたのですが、不思議と私も“気持ちいい”と思いながら歌えたんですよね。それが今度は、自分の曲を聴きたいと思って来てくれる方々の前で自分が好きな音楽をできるって、相当なご褒美だと思うんです」
気持ちいいと感じた会場で、『scent of the time』やアルバムの曲を気持ちよさそうに歌う──そんな藤原の姿を想像するだけで、日本武道館のステージが楽しみになってくる。
「いままでは、いろいろ気負って厚着していたんですけど、衣替えだー!みたいな。精神的に薄着になって、みんなの前で軽やかに楽に存在することができたら、もうどんなミスがあったとしても100点だろうなって思います。そこからまた考えることとか、見える景色とかがありそうだなって。だから私自身もすごく楽しみにしています」

藤原さくら

■デジタルシングル『scent of the time』

発売元:Tiny Jungle Records
リリース日:2025年10月22日(水)
ダウンロードはこちら

■Sakura Fujiwara 10 th Anniversary 武道館大音楽会

日時:2026年2月23日(月・祝)
会場:日本武道館(東京)
料金(税込):
指定席 9,900円(税込)
U18指定席 8,800円(税込)
お土産付指定席 17,000円(税込)
お土産付U18指定席 16,000円(税込)
詳細はこちら

オフィシャルFacebook YouTube公式チャンネル オフィシャルX(旧Twitter) オフィシャルInstagram
オフィシャルLINE オフィシャルtiktok

藤原さくらオフィシャルサイト

photo/ 坂本ようこ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:ROLLYさん「曲の素晴らしさや洋楽との出会いなど、大切なことはすべてフィンガー5から学びました」

16047views

サルヴァトーレ・リチートラ

音楽ライターの眼

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.2

4519views

楽器探訪 Anothertake

バンドメンバーになった気分でアンサンブルを楽しめるクラビノーバ「CVP-800シリーズ」

8664views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

23378views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

12302views

西本龍太朗

オトノ仕事人

アーティスト・聴衆・新聞の交点に立つ/音楽記者の仕事

996views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20402views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7316views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

16866views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

4505views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

9422views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35061views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11762views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

26542views

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

音楽ライターの眼

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

4276views

江藤裕平

オトノ仕事人

音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事

13936views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

6757views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

35226views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

15335views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7956views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32182views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11239views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28254views