今月の音遊人
今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」
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逆境をギフトに、歌声とともに歩んだ10年。さらなる一歩を軽やかに踏み出す/藤原さくらインタビュー
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2025.12.1
tagged: インタビュー, 藤原さくら, scent of the time, Sakura Fujiwara 10th Anniversary 武道館大音楽会
シンガーソングライターの藤原さくらが、2025年にデビュー10周年を迎えた。幅広い活動で多彩な表現を繰り広げてきた10年間を振り返りつつ、最新シングルや制作中のアルバム、2026年開催予定の日本武道館公演について語ってもらった。
ミュージシャンとして、さらに役者としてドラマや舞台、映画に出演するなど、幅広い活動でさまざまな顔を見せてきた藤原さくら。“いろんなことに興味を持つタイプ”と語るだけあって、異なる分野の表現にも積極的に挑戦してきたが、彼女にとってはすべてが繋がっていたと感じるそうだ。
「この10年間というのが、自分のなかでは25年くらいあったような気がしているほど濃くて。音楽だけでなく、俳優業などいろんなことに挑戦させていただきました。役柄を通して曲が生まれたり、新しい環境での出会いがあって生まれた曲もたくさんあります。違う分野の活動も、いまは全部繋がっているんだなと感じていて、挑戦してよかったと思える10年間でした」
活動の主軸である音楽でも、彼女の多彩さは輝いていた。フォークやブルース、カントリー、ジャズをベースにしつつ、ファンクやヒップホップなども取り入れ、独自のポップスへと昇華させてきた。そんな多彩な表現ができたのも、その中心で響く彼女のスモーキーな歌声が、何物にも染まらない独自性を持っていたからだろう。
「いろんなタイプの曲をアルバムに入れるときに、プロデューサーも違えば曲のテイストも違うので、ひとつのアルバムとしてまとまるのか不安で、ディレクターに相談したことがあります。そのとき“あなたの声で歌ったら全部あなたの曲になるから、そこは気にしなくていいよ”と言われて。確かに自分の持っているもの、声やトーンがあれば、どれだけ違うことをやってもブレないのかもと、これまで続けてきて感じました」
ブレない声を武器に自由に歌う、そんな軽やかな姿勢で続けてきた藤原だが、立ち止まらざるをえないときがあった。2024年に耳と喉の不調で、音楽活動を一時休止した。
「自分としては自然体でやりたいことをやってきたつもりでしたが、それでもやっぱり気負っているところがあったみたいです。私の場合は、もともと“楽しいから”やってきた音楽活動が、どんどん『お仕事』として考えるようになってしまい、それがしんどく感じることもあって。結果、人前で歌うのが怖くなっちゃって。ピッチが外れたり、一度間違えたら次も間違えるんじゃないかって思ったりして、不安になることもありました」
あんなに楽しかった音楽が怖くなってしまった──自分の身に起きたことが信じられず、落ち込んだりもした。しかしその事実を受け入れたことで、解決の道筋を見出すことができたそうだ。
「自分の努力だけではどうしようもない事象とかあるじゃないですか。近いところではコロナ禍がそうだったし、頑張っても何かが起きてしまうなら、自分の捉え方を変えるしかないと思うようになって。発声障害になったときも、これは逆に長く音楽を続けるためのギフトかもしれないと思ったんです。私の場合は、エネルギーの出力を間違えていたというか。気負わなくてもいいところで“こうしなきゃダメだ”と思い過ぎていたというか。そういうことに気付けたのは幸運でした」

もっと肩の力を抜いていいんだ──それに気づいたいまの彼女が作り出す音楽に溢れているのは、2025年10月22日にリリースした最新デジタルシングル『scent of the time』でも存分に表現されている“心地よさ”だ。
「制作のために山梨に一週間くらい行きました。朝起きたら湖までお散歩して、ひとりでぼーっと揺れる波や光が反射してキラキラしている湖面を見ていたら、ちゃんと息が吸えてると感じて。気持ちが楽になったことで、空間と自分がひとつになって、余計なことを考えずに、目の前の景色を味わえているって思えたんです」
ゆったりしたボレロのリズムのうえで、やさしく響くメロディーと歌声。ピアノやギター、パーカッション、ストリングスなどが多重に鳴りながらも、圧倒するような響きではなく、聴くものを招き入れるような穏やかさがある。歌詞も明確なストーリーやメッセージはなく、藤原が湖畔で見た景色から“感じた”ことを、ありのまま綴っている。ただひたすらに、心地よい歌と音が響いているのだ。
「アーティストとして活動していると、やっぱり“私はこういう人間なんだ”っていろんな形で発信するじゃないですか。もちろんそれは大事なことではあるんですけど、どんどん理想の自分に押しつぶされていく感覚がありました。膨れ上がっていたエゴみたいなものを手放すことで、ただ楽に、ぷかぁっと波に浮かんでいるみたいな、溶けるみたいな感覚を得て。あ、これを音楽でもやっていけばいいんだって気付いたんです」
手放すことで手に入れたもの、それは音楽と一体となる心地よさ。鋭意制作中のアルバムでも、随所でそれが感じられることになるそうだ。
「ジャンルとしては2025年6月にリリースしたデジタルシングル『Angel』のチャチャチャだったり、今回の『scent of the time』のボレロだったり、ちょっと南のほうのエッセンスを感じるような曲が多くなっていて。ただ具体的な国ではなく“どこかの島”にたどり着いたみたいな。特定のジャンルに特化せず、本当にいろんな要素が入ったアルバムになりそうです。それこそ波の音とかも入っていて、どの曲も心地よさそうなバイブスを感じるアレンジになっていると思います」
そんなアルバムがリリースされた後、2026年2月23日(月・祝)には初の日本武道館単独公演が待っている。彼女にとって思い入れのある会場なだけに、心躍らせながら一歩ずつ進めているようだ。
「武道館では、一度所属事務所のイベントで歌わせていただいたことがあるんです。それこそ私の大好きなザ・ビートルズも立っている場所ですし、いい波動のようなものがある場所なんだろうなって思っていたのですが、不思議と私も“気持ちいい”と思いながら歌えたんですよね。それが今度は、自分の曲を聴きたいと思って来てくれる方々の前で自分が好きな音楽をできるって、相当なご褒美だと思うんです」
気持ちいいと感じた会場で、『scent of the time』やアルバムの曲を気持ちよさそうに歌う──そんな藤原の姿を想像するだけで、日本武道館のステージが楽しみになってくる。
「いままでは、いろいろ気負って厚着していたんですけど、衣替えだー!みたいな。精神的に薄着になって、みんなの前で軽やかに楽に存在することができたら、もうどんなミスがあったとしても100点だろうなって思います。そこからまた考えることとか、見える景色とかがありそうだなって。だから私自身もすごく楽しみにしています」

発売元:Tiny Jungle Records
リリース日:2025年10月22日(水)
ダウンロードはこちら
日時:2026年2月23日(月・祝)
会場:日本武道館(東京)
料金(税込):
指定席 9,900円(税込)
U18指定席 8,800円(税込)
お土産付指定席 17,000円(税込)
お土産付U18指定席 16,000円(税込)
詳細はこちら
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文/ 飯島健一
photo/ 坂本ようこ
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