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今月の音遊人: 上野耕平さん「アクセルを踏み続けることが“音で遊ぶ”へとつながる」
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悪魔に捧げるライヴ儀式。英国ロックの“影”の名バンド、ブラック・ウィドウのCDボックス発売
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2024.9.4
tagged: 音楽ライターの眼, ブラック・ウィドウ, Sabbat Days:The Complete Anthology 1969-1972
1860年代後半、世界にオカルト・ブームの風が吹き荒れた。
アメリカでは1966年にアントン・ラヴェイが宗教団体“チャーチ・オブ・サタン”を設立、その教典『サタニック・バイブル』を1969年に刊行して、カウンターカルチャーの寵児となった。1968年にはアイラ・レヴィンの小説『ローズマリーの赤ちゃん』がベストセラーとなったが、ラヴェイは映画化の際にカメオ出演している。ケネス・アンガーの実験的映画にも悪魔や堕天使ルキフェルをモチーフとしたものがあった。
一方イギリスでは“魔術王”を名乗るアレックス・サンダースがテレビやラジオで神秘主義を説き、“ハマー・フィルムズ”のホラー映画やデニス・ホイートリーの黒魔術小説でもしばしば悪魔やオカルトが描かれた。
日本でもやや遅れて1973年頃、アメリカ映画『エクソシスト』や五島勉『ノストラダムスの大予言』、永井豪『デビルマン』、つのだじろう『うしろの百太郎』、中岡俊哉『恐怖の心霊写真集』などでオカルト・ブームが起こっている。
当時映画や文学と並ぶポップ・カルチャーの重要な一部だったロック音楽においても、悪魔やオカルトは題材として取り上げられている。米国シカゴのコヴンによる『Witchcraft Destroys Minds & Reaps Souls』(1969)には“史上初のサタン礼拝実況”が収録されていた。
イギリスではジョン・レノンが「ザ・ビートルズはイエス・キリストよりも有名だ」と発言して物議をかもし、ザ・ローリング・ストーンズは『サタニック・マジェスティーズ』(1967)を発表するなど、ロック・ミュージシャン達はカウンターカルチャーの表現として反キリスト思想を押し出していく。そして地獄の底から這い出るように、アンダーグラウンドからも悪魔/神秘主義をモチーフとしたアーティストが次々と登場した。
ザ・クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンはサイケデリアとホラーを両輪とした音楽性とヴィジュアル・イメージで人気を博した。1967年のデビュー・シングルが『デヴィルズ・グリップ』。続く『ファイアー』はイントロで「我は地獄の炎の神!」とナレーションが入り、ステージで頭上の冠に炎を放つパフォーマンスも話題となって全英チャート1位に輝いている。
同バンドのヴィンセント・クレイン(キーボード)とカール・パーマー(ドラムス)が独立して結成したアトミック・ルースターもシングル『フライデイ・ザ・13th』『デヴィルズ・アンサー』、アルバム『デス・ウォークス・ビハインド・ユー』などダークなイメージを前面に出していた。
ブリティッシュ・ブルースに影響された音楽をやっていたセミプロ・バンドのアースが近所の映画館に貼ってあったポスターからヒントを得て改名したのがブラック・サバスだった。彼らはサタンやルキフェル、そして戦争や狂気などの社会のタブーをハードなサウンドに乗せて歌い、ヘヴィ・メタルの始祖となった。
そしてライヴのステージに裸女を上げ、ナイフを突き立てる悪魔崇拝儀式を行って支持を得たのがブラック・ウィドウだった。彼らのファースト・アルバム『悪魔と魔女と生贄 Sacrifice』(1970)は全英チャートのトップ40入り、『集まれ魔女! Come To The Sabbat』も世界各地でシングル・リリースされ、ヒットを記録している。
どうしてもギミック面がクローズアップされがちな彼らだったが、最大の武器はもちろん音楽。その全貌を捉えたボックス『Sabbat Days:The Complete Anthology 1969-1972』が2024年8月、海外でリリースされた。
まさに“コンプリート”を謳うに相応しいCD6枚組アンソロジー。現役時代に発表した3作のオリジナル・アルバム『悪魔と魔女と生贄』『ブラック・ウィドウ』(共に1970)『III』(1971)から前身バンド、ペスキー・ジー!の『エクスクラメイション・マーク』(1969)、ファースト以前にレコーディングされたデモ・アルバム(後に『リターン・トゥ・ザ・サバト』として発表された)、1972年に録音されたがリリースされなかった『IV』(1997年に発掘リリース)を完全収録している。
さらに『Live』(2008)として発掘された初期のライヴ、『See’s The Light Of Day』(2013)に収められたライヴやデモも収めるなど6時間40分、どっぷりブラック・ウィドウ漬けになることができる。
ブラック・ウィドウの音楽性は、明るくなりきれない翳りを伴うメロディのブリティッシュ・ロックだ。ダークなイメージがあるものの、ハード・ロックというわけでもなく、ましてや『悪魔と魔女と生贄』が書かれた頃、まだヘヴィ・メタルは生まれていなかった。フルートがフィーチュアされていることから初期ジェスロ・タルを連想させたりもするが、ブルース色は希薄で、オルガンを大量にフィーチュアするなど、個性が際立っている。『悪魔と魔女と生贄』ではフォークやジャズ・ロック的なテイストもあったり、『セダクション』のようにラウンジ的な曲まであったりするが、背骨を貫くブリティッシュ・アンダーグラウンドの薫りが好き者にはこたえられない。
ファーストが順調なセールスを記録したことでステージ上の“儀式”が世間から問題視され、またバンドの世界観・イメージが狭められることから、メンバー交替を経て発表されたセカンド『ブラック・ウィドウ』では黒魔術色は希薄となる。その一方でハード・ロック色が増し、『アタック・オブ・ザ・デーモン』の攻撃的なギター・ソロなど聴きどころも多い。派手な飛び道具がないぶん地味にも感じるものの、それがまた魅力だったりもする。
本ボックスで欠けているものといえば『Live』CD+DVDにあったライヴ映像だろう(音声はCDと同じ)。なお2011年にはクライヴ・ジョーンズとジェフ・グリフィスが“再結成”、ブラック・ウィドウ名義でアルバム『Sleeping With Demons』を発表しているが、別物バンドという扱いで本ボックスには収録されていない。
なおバンドの軌跡を辿ったライナーノーツと写真、ポスター、フライヤーなどが満載のブックレットも充実しており、初心者からマニアまでが楽しむことが可能だ。
1960年代末から1970年代初旬のブリティッシュ・ロックの“影”の名バンドだったブラック・ウィドウだが、今では多くのメンバーが世を去り、存命と思われるメンバーにも接触することができなかった。だが“サバトの日々”はまだ終わらない。彼らの生み出した音楽は生き続ける。
発売元:Cherry Red Records
発売日:2024年8月30日発売
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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