Web音遊人(みゅーじん)

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

博物館で展示物について解説してくれる人。これが学芸員に対する一般的なイメージでは?
だが、実際の業務は実に多岐にわたっている。来館者にわかりやすい展示品の配置を考え、展示物に汚れや破損がないかを管理。収蔵品の来歴や用途、価値などを調べる。そして、来館者に対する展示品の解説など。それぞれの収蔵品に合わせた対応が求められる。
形や大きさ、素材もさまざまな楽器を収蔵する楽器博物館では、どのように楽器を管理し、展示しているのだろうか。3,000点を超える世界中の楽器を収蔵する浜松市楽器博物館の学芸員・松尾圭子さんに伺った。

色鮮やかなヒンドゥーの守護神の彫刻が施されたバリ島西部の楽器、ジェゴグ。世界最大の竹琴を前にその解説をする松尾さん。「では、どんな音が鳴るのか。実際に聴いていただきましょう」。靴を脱いで楽器に上がり、大きなバチを振り下ろす。初めて聴く南国の音に歓声が湧く。浜松市楽器博物館で毎日数回行われている楽器の解説イベント「ギャラリートーク」の様子だ。
「来館された皆さんに楽しんでいただくため、また、どんな楽器なのかより理解を深めていただくためのイベントで、可能な限り、実際の音を聴いてもらえるようにもしています。直接お話をする中で、お客さまから質問やご意見を頂戴することも。こうしたやりとりが、楽器への興味につながってくれればうれしいですね。お客さまもそれぞれ違う視点をお持ちですので、私たちにとっても新しい気づきがあります」

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

ジェゴグは竹筒を8本組み合わせた楽器で、バチを使って音を出す。小さなものから大きなものまであるが、大きなものは楽器の上に1~2名が乗って演奏する。

浜松市楽器博物館では、常時、1,300点ほどの楽器を、2フロアに分けて地域ごとに展示している。また、展示している以外に2,000点ほどの楽器も収蔵。16世紀の鍵盤楽器やアフリカの王様のための太鼓など、世界各地の楽器が集まっている。
展示の数が多いだけにすべての楽器を詳細に解説することはむずかしい。そこで、冒頭のギャラリートークのほか、「おススメ、なう!」と称する展示企画で取り上げ、できるだけ多くの来館者の眼に触れるようにしている。松尾さんはこの「おススメ、なう!」の企画も担当している。
「『おススメ、なう!』では、珍しい楽器や興味深い情報が見つかったものを紹介したり、時期に合わせた展示をしたりと、さまざまな趣向を凝らしています。季節やタイミングを見て、館長と相談しつつ、私の好きにやらせてもらっています」

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

取材時の「おススメ、なう!」は、アフリカの太鼓、ムクピエラが紹介されていた。これはある部族の王様の持ち物で、今はおそらく作られていない珍しいものだということがわかり、紹介することに。

世界中の楽器を紹介する学芸員にとっては、演奏家の生の声も貴重な情報源のひとつだ。浜松市楽器博物館では、展示・収蔵している楽器を用いたコンサートも随時開催しており、プロの演奏家の話を聞く機会がある。
「このチューニングはどうするのですか?この弦は何を使っているのでしょう?など、実際に演奏する方に情報をいただくことで、正確を期することができます。なかには、復元品を作っている方もおられ、皆さん、幅広い情報をお持ちです。プロの演奏家ならではのご意見やお話を伺えるのは、とても有意義なことです」

例えば、現代アーティストから18世紀の楽器に描かれた絵の意味を教えてもらったこともあるのだそう。意外な出会いが新たな情報を運んでくれるのだ。そのためには、日頃から疑問や不明点などを「コツコツ調べておく」ことが大切だと、松尾さんは実感している。
「あることを調べているときに、別の疑問が解決する。意外なところで、パン!と情報同士が組み合わさることがあるんです。ひとつのことに集中するのも大切ですが、幅広く視野を広げておくと、つながるんですね。情報の点と点がバチッと合うと、やった!と(笑)」
「点と点が合う」ためには、スタッフ同士の意見交換も大切だ。それぞれ楽器に対する興味の持ち方が違うので、同じ資料についても着眼点が異なり、新たな発見もあるという。故に、お互いに意見を言い合えるような環境作りにも努めている。
「大切なのは、どんな資料も絶対に正しいとは限らないという認識を持つこと。真実を突き止めるというよりは、できるだけ多くの情報を集めたうえで、『これが今、認められている情報です』と、提示するようにしています」

 >続きをみる

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:石川さゆりさん「誰もが“音遊人”であってほしいですし、音楽を自由に遊べる日々や生活環境であればいいなと思います」

8832views

音楽ライターの眼

超絶テクニカル・プログレッシヴ集団、リキッド・テンション・エクスペリメントが新作『LTE3』を発表

4631views

reface

楽器探訪 Anothertake

個性が異なる4機種の特徴、その楽しみ方とは?

9276views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32047views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

10445views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

10143views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20284views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4428views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

25018views

IMOZ

われら音遊人

われら音遊人:そろイモそろってイモっぽい?初心者だって磨けば光る!

2116views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

6441views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34891views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9897views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15499views

ティナ・ターナー

音楽ライターの眼

ティナ・ターナーの豊潤なソロ・キャリアを辿る。CD3枚組アンソロジー『クイーン・オブ・ロックンロール』発売

1554views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

15388views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

12856views

トランスアコースティックギター「TAG3 C」

楽器探訪 Anothertake

デジタル技術が広げるアコースティックギターの可能性──トランスアコースティックギター「TAG3 C」

3867views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

10306views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6759views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32047views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8053views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28133views