今月の音遊人
今月の音遊人:三浦文彰さん「音を自由に表現できてこそ音楽になる。自分もそうでありたいですね」
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仲間やライバルの演奏を本音で語る!/ジャズメン、ジャズを聴く~スイングジャーナル連載“アイ・ラヴ・ジャズ・テスト”傑作選~
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2016.7.11
tagged: ジャズメン、ジャズを聴く, 小川隆夫, スイングジャーナル, アイ・ラヴ・ジャズ・テスト, ブラインドフォールド・テスト
2010年に休刊するまで実に63年もの間、ジャズ文化を発信してきたスイングジャーナル誌。本書は、この雑誌で184回にわたって連載された「アイ・ラヴ・ジャズ・テスト」から42本(43人)を厳選して書籍化した、読み応えのある一冊だ。
20年近くも連載が続いた「アイ・ラヴ・ジャズ・テスト」は、来日した有名ジャズ・ミュージシャンに曲名やプレイヤーを知らせずにジャズ演奏を聴いてもらい、そのアーティストの名前を当ててもらうという内容だった。
ジャズ好きならよくご存知の「ブラインドフォールド・テスト」だが、その主目的は名前を当てることではない。あくまでも、音楽は「刺身のつま」であり、その演奏やミュージシャン、演奏が収録されているレコードなどについて語ってもらうのが本来の企画主旨だったと著者は語る。
著者はジャズ評論家であり、マイルス・デイビスやブルーノートの創始者アルフレッド・ライオンの来日時の主治医を勤めるなど、現役の整形外科医としても第一線で活躍する小川隆夫氏。ゲストそれぞれに合わせて周到に用意された作品が呼び水となり、ミュージシャンたちの記憶が深く鮮やかに掘り起こされていく。
小川氏はニューヨーク大学大学院在学中にアート・ブレイキーやギル・エヴァンス、マルサリス兄弟など数多くのミュージシャンと親交を結んでいることから、ミュージシャンたちは身構えることなく本音で語っていることがうかがえる。同じジャズメンだからこそ言える仲間やライバル、先輩後輩の演奏に対する論評や、自らのジャズ哲学が対談方式で綴られ、臨場感たっぷりだ。
目次を開くと、そこに連なる錚々たるミュージシャンの名に驚くだろう。当時、最長老のひとりだったライオネル・ハンプトン、1959年に没したレスター・ヤングとの思い出を語ったフリップ・フィリップスら、ジャズ史の証人ともいえる巨星も登場。ほかにもすでに他界しているミュージシャンも多く、そのインタビューは貴重だ。
「彼(デクスター・ゴードン)は私のブラザーであり、最大のライヴァルだ。あの男がこの世にいるから今日のわたしがあるとも思っている」(ジョニー・グリフィン)。
「彼(ディジー・ガレスピー)がいなければ、マイルスもブラウニーもリー・モーガンも存在しなかった。もちろん、ぼくもだ」(ウィントン・マルサリス)。
「マイルスは、よく『過去を向かない』といわれていた。でも、体の中にはジャズの伝統が根付いていた」(ジョン・マクラフリン)。
さらに、ジョン・スコフィールドによるパット・マルティーノ評や、佐藤允彦の演奏をケニー・ドリューやチック・コリアが称賛する言葉など、小川氏の絶妙なかじ取りによって引き出されていくさまざまなコメントが興味深い。
ジャズメンたちのリアルな姿が浮き彫りにされている本書は、ジャズファン必読の一冊。登場する名曲をあらためて聴き直したくなるに違いない。一方、ジャズに興味はあるけれど、あまりに広く深い世界にどこから手をつけていいかわからないという人にとっては、最高のナビゲーションをしてくれる一冊となるだろう。
ジャズメン、ジャズを聴く
~スイングジャーナル連載“アイ・ラヴ・ジャズ・テスト”傑作選~
著者:小川隆夫
発売元:シンコーミュージック・エンタテイメント
発売日:2016年2月17日
価格:2,000円(税抜)
詳細、ご購入については「ヤマハミュージックWebshop」サイトをご覧ください。