今月の音遊人
今月の音遊人:児玉隼人さん「音ひとつで感動させられるプレーヤーになれるように日々練習しています」
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ショパン、シューマン、ブラームスなど、偉大な作曲家8名のピアノ作品を新たな着眼点で読み解く/作曲家たちの風景~楽譜と演奏技法を紐解く~
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2016.10.11
tagged: ヤマハミュージックメディア, ブックレビュー, 作曲家たちの風景, 楽譜と演奏技法を紐解く, キャロル・モンパーカー
演奏活動のほか、大学などでの講義やワークショップ開催など、多方面で活躍するピアニスト、キャロル・モンパーカーによるエッセイ、『作曲家たちの風景~楽譜と演奏技法を紐解く~』が翻訳、出版された(翻訳:江上泉)。音楽ジャーナリストとしても15年のキャリアをもつという著者の、作曲家や作品への洞察が興味深く読める名著だ。
演奏家がどのような準備をし、作品への解釈を深めていくかのプロセスの探求を試みた本書は、実際に演奏家として活動する著者の音楽と言語の表現力によって著された貴重な本だ。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ショパン、メンデルスゾーンの8人の偉大な作曲家とその作品に焦点を当て、どうすれば作曲家たちの残した楽譜に最善の理解をもってアプローチできるかを綴っている。
たとえばショパンについて、次のような一節がある。
「彼の筆跡は、手稿譜でも明らかにされているとおり、きれいに整っていてまったく乱れがない。何かを修正するときでさえ、上から引かれた斜線の美しいこと!ほとんど芸術的と言ってもいいほどのきめ細かさである」(本文より)
さらに、「ダイナミクスの濃淡や感情表現のつけ方、ペダルマーク、フレーズ記号、アーティキュレーションのすべてにわたり指示を入れている」と、いかにショパン演奏に繊細さが必要か指摘する。そして「今日(こんにち)では、エチュードに限らずすべての作品において、より速く、より強くという解釈のもと、それを目指して懸命に努力している。ショパンの現実から遠ざかってしまっているのだ」と、現代のショパン演奏のあり方に警鐘を鳴らしている。
では、どのようなアプローチをすべきだろうか。著者は、「しなやかに、全身を使って!」「あっさりと」「手を落とすように」といった、ショパンが弟子たちに与えた金言を引用し、疲労や指の酷使、練習のし過ぎに注意するよう言い聞かせたエピソードも紹介。運指やペダリングについても、楽譜の詳細な分析に加え、ショパンの演奏をじかに聴いた人物や、ショパンのレッスンを聴講した人たちの言葉の記録から、どう弾くべきかを解き明かそうとしている。
「まえがき」で著者は、「わたしの目には、どの楽譜を開いても、それが輪郭や地形をもった風景として映る。それはその作曲家の言語に直接関連している。ある意味、言語の視覚的な描写である」と述べ、楽譜から「真実の核心を堀りあてなければならない」「わたしたちは探検家にならなくてはならない」と記している。
本書に含まれる著者の見解や提言はすべて「実体験に基づくもの」であり、「長年にわたり、演奏したり、聴いたり、教えたり、読んだりしてきたこと、数え切れないほどのディスカッションを重ねてきた経験から引き出されたもの」である。それはきっと、読者にとって貴重な、価値あるものになるに違いない。
この力作の全編を一気に読破するのもいいし、あるいは演奏しようとする作曲家の章を深く読み込むのもいいだろう。ピアノを勉強中の人はもちろん、教える立場にある人、ピアノ演奏を聴くのが好きという人など、ピアノを愛するすべての人にお勧めの1冊だ。有名ピアニストへのインタビューを織り交ぜたショパン「舟歌」「バラード4番」2つの解釈と、著者による演奏CDも付属している。
『作曲家たちの風景~楽譜と演奏技法を紐解く~』
著者:キャロル・モンパーカー
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2016年2月20日
価格:2,800円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。