Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:諏訪内晶子さん

今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」

史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝という輝かしい実績を持ち、世界で活躍するバイオリニスト、諏訪内晶子さん。才色兼備の人気奏者が、豊富な経験に基づく音楽への深い情熱を語ってくれました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

「人生で一番多く聴いた曲」という質問の直接の答えにはならないとは思いますが、私は昔の録音を聴くのがとても好きです。音質は良くないのですが、白黒映画のような、味のある録音に惹かれ、復刻盤などで好んで聴きます。
大戦前後にアメリカに移り住んできたヨーロッパの音楽家の演奏などは、その時代の空気が反映されていて、とても魅力的に感じます。
ニューヨークの大学に留学していた時によく聴いたのが、バルトークです。ある時ふと、住んでいた家の隣のビルの壁にバルトークの石像を偶然見かけ、実はここは彼が晩年暮らしていた場所だという説明が書かれていたのです。バルトークもやはりハンガリーからアメリカへ移住しましたが、あの壮絶な生涯の幕をここで閉じたのだと感慨を抱きながら、頻繁に聴いた曲が、三重奏曲『コントラスツ』です。バルトークのピアノ、そして「スウィングの王様」と呼ばれたジャズクラリネット奏者、ベニー・グッドマンという異色の顔合わせで、バイオリンは確かヨーゼフ・シゲティでした。グッドマンのクラリネットがとても味のある演奏で印象に残っています。

Q2.諏訪内さんにとって「音」や「音楽」とは?

音は、その人の素ともいえる、人それぞれが持っている本質を表すようなものだと思います。楽器が変わっても、その人の出す音の本質的な部分は変わらないので、面白いです。
例えば、ある演奏家の幼い頃の録音を聴くと、もちろん、技術的な面では変化がありますが、音の質自体は全く変わらないのです。音の質は、その人その人の持ち味だと思います。ですから、私も常に奏でる音を大切にすることを大事にしています。
以前、演奏する人の音の質は、楽器にも影響があると感じたことがありました。現在使用しているバイオリンの前に、ある財団から借り受けていた楽器があったのですが、前に弾いていた人の音がかなり残っていて、自分の音をなかなか出せなかったのです。そういう意味では、楽器はまるで生き物のようでもあります。 

 13433_2

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

私自身、本当に音で遊んでいる、楽しんでいると思います。小さい頃から身のまわりの音には敏感でした。
音楽は、演奏家として専門分野で活動する場合、ほかの職業と同じで苦しく難しい時もありますが、とても美しく魅力的だと思います。
以前、ケガをして演奏できなくなってしまい、バイオリン以外のことにも挑戦してみようと思ったのですが、どれも結局は本腰を入れることができませんでした。やはり、演奏すること以外は夢中になれない性質なのかもしれません。
といっても、楽しいことばかりではありません。成長する時は、技術を伸ばすことが大変ですし、やりたいことが頭の中でたくさん出てきている時に、それを肉体的、精神的にも保ち続けることは、とても難しいことです。
演奏者は、スポーツ選手と似ているところもありますが、ある程度の年齢に達しても引退するのではなく、基本は演奏活動を続けていくものです。芸術ならではという点では、歩んできた人生が熟してきたときに、どういう音楽を奏でられるかということにあると思います。

諏訪内晶子〔すわない・あきこ〕
1990年史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門審査員。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。デッカより14枚のCDをリリース。使用楽器は、日本音楽財団より貸与された1714年製作のストラディヴァリウス「ドルフィン」。

 

特集

ユッコ・ミラー

今月の音遊人

今月の音遊人:ユッコ・ミラーさん「音楽は人の心を映すもの。だからごまかすことはできません」

4834views

パワーマン5000

音楽ライターの眼

パワーマン5000が新作『Abandon Ship』で訪れる“過去にあった未来”

2466views

P-515

楽器探訪 Anothertake

ポータブルタイプの電子ピアノ「Pシリーズ」に、リアルなタッチ感が得られる木製鍵盤を搭載したモデルが登場!

36510views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

5836views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12045views

前澤陽さん

オトノ仕事人

テクノロジーで音楽文化や社会に変容をもたらす/音楽技術研究者の仕事

1206views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

8559views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7843views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27333views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

13075views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

6045views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11762views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

12252views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11598views

音楽ライターの眼

パンク・ロック45周年、セックス・ピストルズのアナーキーは終わらない

6627views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

14670views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

2808views

Pacifica

楽器探訪 Anothertake

「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」

3714views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

14208views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6761views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

22948views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8056views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28139views