Web音遊人(みゅーじん)

【ライヴ・レビュー】ブライアン・セッツァー・オーケストラ/2018年1月31日・東京ドームシティホール

【ライヴ・レビュー】ブライアン・セッツァー・オーケストラ/2018年1月31日・東京ドームシティホール

ブライアン・セッツァー・オーケストラが2018年1月、ジャパン・ツアーを行った。

古き良きロカビリー&スウィングに熱気あふれるタイムレスなリード・ギターを乗せて、元気いっぱいのステージ・パフォーマンスで世界の音楽ファンを魅了するブライアン・セッツァー。1981年、ストレイ・キャッツでの初来日以来、いったい何度日本を訪れただろうか。今回のジャパン・ツアーはブライアン・セッツァー・オーケストラの25周年を記念するアニヴァーサリー・ツアーとなった。

18人編成のビッグ・バンド「ブライアン・セッツァー・オーケストラ(BSO)」での活動についてブライアンは「人件費が大変なんだよね……」とボヤいており、「ロカビリー・ライオット」「ナッシュヴィランズ」などでの少人数のライヴ活動も行われている。だが、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドとギターのせめぎ合いが生み出す昂揚感は何にも代えがたい。BSOとしては2014年5月以来となる日本公演(2016年2月にはロカビリー・ライオットで来日)は札幌から福岡まで日本列島を縦断、東京では3公演が行われる大規模なものとなった。

東京最終公演となった東京ドームシティホールでのショーは、アリーナがほぼ満員。バルコニーの入りも上々で、その人気を改めて実感した。BSOのメンバーがぞろぞろとステージに上がり、最後に今晩のヒーローが姿を現すと、早くも場内の温度が急上昇する。観衆の年齢層はやや高めで、会社帰りとおぼしきお父さんやお母さんも多くいたが、彼らの心の髪型はリーゼントとポニーテイルだ。

BSOの25周年を記念するセレブレーションということで、最初から代表曲のオンパレード。「ペンシルヴァニア6-5000」「フードゥー・ヴードゥー・ドール」「ジス・キャッツ・オン・ア・ホット・ティン・ルーフ」と、ホット・ロッドのように爆音を上げて突っ走る。それからテンポを落とすが、演奏されるのがストレイ・キャッツの「気取りやキャット」なので、観衆はクールダウンする余裕を与えられず、熱くなる一方だ。彼らがようやく一息つくことを許されたのはサント&ジョニーの名曲「スリープウォーク」のレイドバックした演奏だった。

「ダーティ・ブギ」「ジャンプ・ジャイヴ&ウェイル」「ランブル・イン・ブライトン」など、アクセルを踏み込んで突っ走るショーの展開。前述の「気取りやキャット」では”お約束”の「ピンク・パンサーのテーマ」をカットするなどそれぞれの楽曲をよりタイトに凝縮したステージは、誇張でなく息をつく間もないものだった。

25周年の”お祭り”ということで、このままグレイテスト・ヒッツで最後まで行くのかと思いきや、後半からはサプライズが続き、1曲1曲のイントロごとに「おおっ!」という叫び声とも溜息ともつかない声援が上がる。

2002年にペプシのテレビCM曲として発表された「セクシー・セクシー」が久々にプレイされたのは、日本のファンへのサービスだろうか。お茶の間で流れた”イチロー・ヴァージョン”ではなかったものの、一瞬野球に絡む歌詞を挿入するなどして、さらに会場を盛り上げていた。

【ライヴ・レビュー】ブライアン・セッツァー・オーケストラ/2018年1月31日・東京ドームシティホール

今回の来日公演では、最近亡くなったアーティストたちに捧げるトリビュート・コーナーも設けられた。8月8日に亡くなったグレン・キャンベルの「ウィチタ・ラインマン」と10月2日に亡くなったトム・ペティの「ランニン・ダウン・ア・ドリーム」はどちらもブライアンの愛情と敬意が込められており、観衆はノリながらも、思わずしんみりしていた。

だが湿っぽいムードはBSOのショーに似合わない。ここでステージにはお待ちかねのゲスト布袋寅泰が登場。「ロカビリー・ブギー」と「アイ・ガット・ア・ロケット・イン・マイ・ポケット」でブライアンとギター・バトルを繰り広げる。この共演は事前に発表されていたものの、知らなかったファンも少なくなかったようで、ワッと大きな声援が場内にこだました。

ライヴ本編ラストは「悩殺ストッキング」と「ロック・タウンは恋の街」。後者はトリオでもバッチリな曲だが、ビッグ・バンドのバックアップを得て、とびっきりデラックスなヴァージョンで締めくくった。

アンコール1曲目は、チャイコフスキーをビッグ・バンドでアレンジした「くるみ割り人形」だ。クリスマス・アルバム『ブギウギ・クリスマス』(2002)に収録された”季節もの”のナンバーだが、BSOの一種プログレッシヴな側面も感じさせるクラシック曲のカヴァーで、季節外れの嬉しいプレゼントとなった。

そして大団円は「イン・ザ・ムード」。実はこの日、ストレイ・キャッツの「セクシー&セブンティーン」やグラミー賞を受賞した「キャラヴァン」などは演奏されなかった。だが、スタンダード中のスタンダードであるこの名曲が飛び出してしまうと、もはや文句など垂れている余裕はない。ひたすら歌って踊って、人生を楽しんでしまうだけだ。

ブライアン・セッツァーの音楽には、まだアメリカが無垢だった時代のイノセンスが満ちている。彼の率いるどのバンドにも共通するのは、そのイノセンスを我々に惜しみなく分け与えてくれることだ。2018年、BSOは日本のオーディエンスにありったけのスリルとスマイルを振りまいてくれた。

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

亀井聖矢

今月の音遊人

今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」

3916views

音楽ライターの眼

トークとピアノが心地よい、和やかな昼下がり/飯森範親と辿る芸術Vol.2

3666views

最新の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギター専用の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

10798views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

11702views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

16111views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

47533views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

14720views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11429views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10777views

ゲッゲロゾリステン

われら音遊人

われら音遊人:“ルールを作らない”ことが楽しく音楽を続ける秘訣

2277views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5151views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32239views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

20311views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8940views

音楽ライターの眼

連載20[ジャズ事始め]ジャズは自分にとってなんなのかを追求した日本人・穐吉敏子の答え

2709views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

18263views

IMOZ

われら音遊人

われら音遊人:そろイモそろってイモっぽい?初心者だって磨けば光る!

1235views

クラビノーバ「CSPシリーズ」

楽器探訪 Anothertake

これまでピアノを諦めていた多くの人を救う楽器。楽譜作成・鍵盤ガイド機能が付いた電子ピアノ/クラビノーバ「CSPシリーズ」

22600views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

14301views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4993views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

14273views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3564views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32239views