Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとロックの関係性

ジャズ・ギターの革命児がビートルズに出逢うまでのプロローグ

1960年代は、社会情勢に連動するように、ジャズでも“革命”が叫ばれる時代だった。

調性やテンポなどの規則性から離れたフリー・ジャズが隆盛を見せたことを、この“革命”になぞらえるケースも多い。

しかし実は、その対極とも言える“エンターテインメントなジャズ”においても、“革命”は着実に、しかもかなり大きな規模で進行していたことが、振り返ってみると浮かび上がってくる。

その“革命”に影響を与えた、いや、原動力と言っても過言ではないのがビートルズだったのではないか――という前置きをして論を進めたい。

ウェス・モンゴメリーが背負っていたジャズ・ギターの“負の遺産”

2018年は、ジャズ・ジャイアイツのひとりとして挙げられるウェス・モンゴメリーの生誕95年、没後50年という節目の年に当たる。

兄弟で“モンゴメリー・ブラザース”というユニット活動をするほどの音楽一家に育ったが、ギターを始めたのは20歳になるちょっと前というスロースターターだったことも、彼がジャズ・ギターの継承だけに目を向けなかったことに関係しているのかもしれない。

彼がギターを始めた1940年代当時、ギター少年の憧れの的はチャーリー・クリスチャンとジャンゴ・ラインハルトだった。彼もまた、一途にチャーリー・クリスチャンを手本に練習を重ね、ほどなく上達すると、兄のモンクや弟のバディとともに地元のクラブに出演するようになる。

40年代後半になるとライオネル・ハンプトン楽団に参加し、プロとしての活動を始めるも、音楽で生計を立てるまでには至らず、故郷のインディアナポリスで再起を期していた。

彼に運が向いてきたのは1959年。当時、ハードバップなど先取的な演奏家を多く取り上げることで注目されていたニューヨークのレーベル“リヴァーサイド”と契約し、実質的なデビュー作となる『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』を1960年リリースすると、そのテクニックとフィーリングのすばらしさで一躍“斯界の寵児”と呼ばれるようになったのだ。

その時点での彼の位置づけは、チャーリー・クリスチャンの系譜を継ぐ“ジャズ本流のギタリスト”であり、リヴァーサイド・レーベルもそれを彼の“推し”としていた。

しかし、その盛り上がりも長くは続かなかったようだ。先行きに不安を感じさせるような状況が迫るなかで、彼は1964年にある決断をする。レコード会社を移籍して、心機一転を図ることにしたのだ。

新天地はヴァーヴ・レコード。ここでウェス・モンゴメリーは、それまでのジャズ・ギターというカテゴリーを大きく超えた世界へと踏み出す機会を得ることになる。

そこへ導いたのは、彼が背負っていたジャズ・ギターの“負の遺産”であり、そこから彼を解き放したのがビートルズだった――という話の続きは次回。

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人 綾戸智恵さん

今月の音遊人

今月の音遊人:綾戸智恵さん「『このコンサート安いわー』って言われたい。お客さんに遊んでもらうために必死のパッチですわ!」

12451views

音楽ライターの眼

シンプルに音を並べること、それがベテランが紡ぐシューベルトの世界/清水和音ピアノ・リサイタル

4313views

ヤマハギター50周年を機にアコースティックギターのFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギターFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

19769views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

113628views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12908views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

8445views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

18292views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10082views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22910views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

4595views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8678views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26127views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8566views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23463views

Duet SHUTARO × KENTO

音楽ライターの眼

圧巻のパフォーマンスをみせてくれた、今注目の若手ジャズ奏者によるデュオ/Duet SHUTARO × KENTO

322views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

31765views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

4593views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

6797views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10782views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5019views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

11174views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14376views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30896views