今月の音遊人
今月の音遊人:荻野目洋子さん「引っ込み思案だった私は、音楽でならはじけることができたんです」
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ロシアピアニズムの“響きの正体”を探りピアノ奏法を変える可能性に迫る1冊/「響き」に革命を起こすロシアピアニズム~色彩あふれる演奏を目指して~
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2019.4.2
ピアノを弾く人なら誰もが、豊かな音色、美しい響きやレガートを手に入れたいと思うはず。そんなピアノ愛好家にとって、ピアノ奏法について根本的なことを説いた『「響き」に革命を起こすロシアピアニズム』は衝撃的な書だ。著者は約30年間、ロシアピアニズムの奏法を研究し、教育活動も行う大野眞嗣。学生時代、ラフマニノフの『協奏曲第三番』を練習していたとき、「ホロヴィッツやアルゲリッチの演奏は、5の指(小指)だけでメロディを作る部分でも綺麗にレガートで歌うのに、自分はいくら練習してもそうはならない。これは根本的に何かが違うのではないか」と疑問を持ったことから、奏法への探求が始まった。
何が違うのかを知るために留学し、ロシアピアニズムに目覚めた。ロシアピアニズムとは、「豊かな倍音によりベルベットのような光沢のある音色を基調とし、無限の音色で真のレガートやカンタービレを実現し、大ホールの最上階まで届く弱音からオーケストラに負けない強音まで表現可能」な奏法のこと(本書より)。鍵となるのは倍音だ。しかし残念ながら、日本人は倍音への感覚が薄いのだという。
「多くの日本人は、弾いた瞬間に鳴る立ち上がりの音、『基音』を聴いて演奏しています。その理由のひとつは、子音と母音の結合で一音節を作る日本語の特性にあるのではないかと思います。また、高温多湿の気象条件と木造家屋も影響しているでしょう。音が響かないので倍音を聴く習慣がないのです」
基音の聴き取りが主流の日本のピアノ教育も一因と考えられるため、プロ、アマ問わず、これはピアノを演奏するすべての人に関わること。ではどうしたらいいのか。「耳を開いて倍音を感じ取り、響きで音楽を作る」のだという。その方法を、日本人の感覚で理解できるよう具体的に解き明かすのが本書だ。
「ロシアピアニズムの奏法は技術的に弾きやすく、合理的な奏法の一面もあるので、大人になってからでも上達します。もちろん、奏法にはさまざまな考え方がありますので、これだけが正しいとは思っていません。ただ、私はロシアピアニズムの奏法による演奏が好きなのです。それを共有してくださる方がいるとしたら、ぜひ読んでいただきたいですね」
音大生や音大を目指す学生、ピアノ指導者、一般のピアノ愛好家など、ピアノに直接的に関わる人はもちろん、楽器を演奏しない人も読み物としても楽しめる内容。ネイガウス、ポゴレリッチといった名が並ぶ「ロシアピアニズムの代表的ピアニスト」の章も実に興味深い。
『「響き」に革命を起こすロシアピアニズム~色彩あふれる演奏を目指して~』
著者:大野眞嗣
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:2,000円(税抜)
大野眞嗣(おおの・しんじ) 1965年東京生まれ。桐朋学園大学およびモーツァルテウム音楽院(オーストリア)にて学ぶ。ヨーロッパ在住中、ドミトリー・バシキーロフ、タチアナ・ニコラーエワ両氏との出会いからロシアピアニズムに目覚め、現在まで研究を続けている。自身のブログ「大野眞嗣 ロシアピアニズムをつぶやく」を通じて日本にロシアピアニズムの奏法を広める執筆活動を継続中。 大野眞嗣オフィシャルサイト:https://www.onoshinji.jp |