今月の音遊人
今月の音遊人:NOKKOさん「私の歌詞の原点は、ユーミンさんと別冊マーガレット」
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4Kで美しくよみがえる!パリの下町を歌と共に描く、巨匠・ルネ・クレール監督のヴィンテージ・シネマ『巴里祭』『リラの門』
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2019.6.11
tagged: レビュー, 映画, ルネ・クレール,巴里祭,リラの門
フランスの首都パリは観光名所であり、ときには政治的なニュースも伝わってくる都市であり、Web音遊人の読者にとっては多彩な音楽にあふれる街として親しまれていることだろう。他方、パリの街は多くの映画でも舞台となり、私たちを魅了してきた。『巴里の屋根の下』『自由を我等に』『夜ごとの美女』ほか多くの名作を残した映画監督、ルネ・クレールもまたパリの街や人々を愛し、作品の中でその姿を描いてきた一人だ。彼の代表作として伝えられる2本の作品、『巴里祭』と『リラの門』の4Kデジタル・リマスター版が、生誕120周年を記念して東京の恵比寿ガーデンシネマほかで上映される。
両作品とも舞台はパリの街だが(いや「巴里」と表記したほうが往年の雰囲気をかもし出していいだろうか)、クレールが描くパリには威厳のある凱旋門も、ファッショナブルなシャンゼリゼ通りも、おしゃれなアコーディオンの調べも出てこない。登場するのはパリの愛すべき下町であり、そこに暮らすノンシャラン(のんきでちょっと無頓着)で愛嬌があり、憎めない人たちの姿である。シチュエーションや物語はまるで違うが、どこか“寅さん的”な世界観とそこで生まれる笑いのセンスが漂ってきそうな……。両作品とも物語の中心となる主役級の登場人物だけではなく、その周囲でわいわいとやっているだけのキャラクターたち(街の人々)がいるおかげでシリアスにならず、街を挙げてのコミカルな群像劇を楽しませてもらっている感じさえするのだ。
1932年制作の『巴里祭』は、花売り娘と若いタクシードライバーの恋物語を軸に話が進む中、元カノの登場あり、犯罪ありとバラエティに富んだストーリー。タイトルバックに流れるシャンソン・ナンバー『巴里祭(巴里恋しや)』は世界的に大ヒットしたが、「パリの街では日が昇れば恋の花が咲く」という一節ほか恋する心の純粋さやはかなさを淡々と描く歌詞は、まさにこの映画のテーマ曲にふさわしい。またダンスホール(カフェ)が映画の中で重要な一場面を担っているせいか、1950〜60年代のフレンチジャズに通じるダンス音楽がさまざまな場面でBGMに使われる。その愉快なノリはパリで生きた作曲家たち、とりわけ“下町の音楽家”エリック・サティや(下町とは縁遠い裕福な家庭に生まれ育ったものの)フランシス・プーランクの音楽と通じるものがあるだろう。そういえばクレールは、サティが音楽を担当した映画『幕間』も撮っていたのだった。
一方、1957年制作の『リラの門』は、やはりパリの下町を舞台に、そこで暮らす人々と思わぬ形で乱入してきた殺人犯が巻き起こす物語だ。“飲んべえでろくでなし”という呼び方が似合う主人公のジュジュと「芸術家」と呼ばれる男が、家に逃げ込んできた男(殺人犯)をかくまうものの、そのわがままぶりに手を焼きつつ彼を逃がそうとし、周囲の人々をだましながらもあたふたする様子を描く。「芸術家」を演じるのはフランス・シャンソン界のスター・シンガーだったジョルジュ・ブラッサンス。彼がギターを手に歌う主題歌『わが心の森に』や『ワイン』などは劇中歌の範疇を越え、歌詞(字幕)を読んでいると登場人物の生き様を歌っているような気さえしてくるのが面白い。それこそがまさに人生を歌うシャンソンの真髄でもあろうか。
こうした往年の名画は何度もリバイバル上映される中でフィルムも画質も劣化してきたため、再び映像に潤いや命を吹き込むべくデジタル・リマスタリング処理が施される。モノクロのヴィンテージ・シネマは画面全体が明るくなるだけではなく、そのせいで光と影のコントラストが鮮明になることも大きなメリットだろう。その効果は、黒澤明や小津安二郎作品など日本映画でも顕著に現れている。
懐かしい作品に再会してノスタルジックな気分になる方、往年のフランス文化・パリ文化に憧れている方、シャンソンを含めたフランス音楽の重要な一面に接したい方など、この2作品に惹かれる皆様はぜひ劇場へ足をお運びいただけますよう。特にこうしたモノクロ作品の場合、暗い映画館の中で観てこそ得られる不思議な感触や別世界感が、強く印象に残るものだ。ちょっと荒々しくさえ感じる音質(音楽や劇中の生活音など)とそこに感じるノスタルジーも、ヴィンテージ・シネマならではのものだろう。
『巴里祭 4Kデジタル・リマスター版』
監督・脚本:ルネ・クレール
出演:ピエール・ブラッスール、ジョルジュ・リゴー、アナベラ、レーモン・コルディ、ポール・オリヴィエ
音楽:モーリス・ジョベール
『リラの門 4Kデジタル・リマスター版』
監督・脚本:ルネ・クレール
出演:ピエール・ブラッスール、ジョルジュ・ブラッサンス、アンリ・ヴィダル、ダニー・カレル
音楽:ジャック・メテアン、ジョルジュ・ブラッサンス
2019年6月22日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
※2作品同時期公開
配給:セテラ・インターナショナル
文/ オヤマダアツシ
tagged: レビュー, 映画, ルネ・クレール,巴里祭,リラの門
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