Web音遊人(みゅーじん)

グランドピアノを思わせるはなやかな音色が再現できるハイブリッドピアノ『AvantGrand(アバングランド)』は、さまざまな可能性を秘めている

あらゆる環境の人に最上のピアノ体験を提供するために、ヤマハの培った技術を結集させて作り上げたというハイブリッドピアノAvantGrand(アバングランド)。グランドピアノのアクションによる鍵盤のタッチや、ペダルのフィーリング、また楽器の共鳴など、さまざまな面でグランドピアノを弾いているような感覚をもたらすように創意工夫がなされている。

2019年、アバングランドのシリーズ発売10周年を記念して、ピアニストの岩崎洵奈によるコンサートが全国で開催。8月31日にはヤマハ銀座コンサートサロンで開催され、究極のアバングランドといわれる『N3X』によるコンサートが行われた。

プログラムはショパンの「黒鍵のエチュード」「幻想即興曲」「バラード第1番」、ツェルニーの「ウィーンのシューベルトのテーマによる華麗なる変奏曲」、ドビュッシーの「アラベスク」、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ第13番第1楽章」、リストの「愛の夢」、バラキレフの「イスラメイ」という非常にバラエティに富んだもの。ヤマハのフルコンサートグランドピアノ『CFX』をサンプリングしたという音色から始まり、途中でベーゼンドルファー『インペリアル』の音色に変換され、ウィンナトーンも楽しめるという楽器の特性が生かされ、異なった響きでさまざまな作品を聴くことができた。

岩崎洵奈は、ウィーン在住のピアニスト。演奏の合間には楽器の特性や作品に関してのトークを交えながら、CFXの華やかで表情豊かな響きをじっくりとうたわせ、楽器を自由自在に奏でていく。「とても打鍵が自然で弾きやすい。信頼できます」と語っていたが、まさに自分の楽器のように親密感を抱きながら演奏している姿が印象的だった。

8月31日ヤマハ銀座コンサートサロンでの様子

アバングランドはタッチも音の立ち上がりも、実にナチュラル。音はのびやかで、ゆったりとうたうよう。繊細さやダイナミクスもごく自然に表現され、弱音も印象に残った。こうした楽器の場合、強音は得意だが、弱音はちょっと苦手という場合が多いが、アバングランドの弱音はしなやかでやわらかい。

これはピアノが弾ける人なら、ぜひ実際に弾いてみたいと思うのではないだろうか。私も、できることなら鍵盤に触ってみたいなと思いながら聴いていた。

自宅ではヘッドホンを使用すれば深夜でも気兼ねなく演奏でき、場所もそんなに広さを必要としない。アコースティックピアノと電子楽器の両方の技術が搭載されているわけだから、可能性は無限である。

岩崎洵奈は、アンコールにシューマンの「献呈」を演奏した。これは私が大好きな曲である。ショパンの「ノクターン第20番」や「小犬のワルツ」も演奏。でも、私の心の奥には、「献呈」のゆったりとした美しい主題がいつまでも残っていた。アバングランドで聴く「献呈」――豊かな歌心に満ちた演奏だった。

※一番上の画像は、7月15日に開催されたヤマハミュージック横浜店での様子

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:五嶋龍さん「『音遊人』と聞いて、子どもの頃に教えてもらったギリシャ神話のことを思い出します」

8911views

音楽ライターの眼

2020年2月、トニー・ハドリーが来日。スパンダー・バレエの名曲の数々を歌う/2020年2月23日、ビルボードライブ東京

8888views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

見ているだけでわくわくする!弾きたい気持ちにさせるエレクトーン

7657views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

809views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4769views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

17789views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

24771views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7704views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31417views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

1356views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5788views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10372views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7464views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13188views

音楽ライターの眼

ボズ・スキャッグス、ソウル&ブルースと都会派AORを兼ね備えた2019年5月の来日公演

6175views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11686views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

8221views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

7422views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14509views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5976views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

55542views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6261views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10372views