Web音遊人(みゅーじん)

「学習」から最も遠い場所にいると思っていたジャズがAIに向いていた?

前回は、「NEURAL JAZZ SESSIONS~AI×人間による実験的なジャズセッション~」というイベントを取り上げ、AI(人工知能)がジャズを演奏する時代が到来していることをお伝えした。
その演奏レヴェルについては、残念ながら「イマイチの感が否めない」と洩らしてしまったのだけれど、実はすでに「イマイチではない」と感じているAIジャズが世の中に出回っていた。
それは、CJ Carr氏とZack Zukowski氏が開発したAI「Dadabots」によって24時間ノンストップで自動生成され続けるフリージャズの演奏。

CJ Carr氏とZack Zukowski氏はバークリー音楽大学で出会い、学習アーキテクチャのひとつである再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を使った人工知能「SampleRNN」を改良、「Dadabots」を開発し、YouTubeでライヴ配信を始めた(第1弾はデスメタルだった!)。
その第2弾として2019年6月に登場したのが、「OUTERHELIOS」と名付けられたフリージャズのAI演奏なのだ。
「Dadabots」の仕組みは、対象となる音楽サブ・ジャンルの音源をAIが学習することで、ランダムな演奏を「そのサブ・ジャンルの音楽に聞こえるように」調節するというもの。

“アンドロイド・コルトレーン”の誕生

「Dadabots」が「OUTERHELIOS」としての演奏を習得するために選んだ“テキスト”は、ジョン・コルトレーンの『Interstellar Space』だった。
この作品は1967年2月22日にレコーディングされたもので、全編がドラムスのラシッド・アリとのデュオという異色作。その半年後に亡くなるジョン・コルトレーンが、最後にスタジオで記録した音源でもある。

このアルバムを16回聴いただけで(というか、AIだから「反復しただけで」と表現すべきかな)、「OUTERHELIOS」はエンドレスにYouTubeでその演奏を披露し続けることになった(が、残念ながら8月末時点で配信中断)。
幸いボクは、配信が中断する前にしばらく聴き続けることができたのだけれど、その印象は「こんなフリージャズを演奏している人、いるよね?」だったのだ。

「OUTERHELIOS」の勝因は、まず、サックスとドラムスという構成要素の少ない音源を選んだこと。
そして、後期コルトレーンのサウンドのなかでもエモーショナルと評される“音が詰め込まれて混じり合った”ものではなく、スペイシーと評される文字どおりスペースの多いサウンドに準拠しようとしたことが挙げられるだろうか。

この選択はかなり“人為的”だと思うのだが、こうした成功事例を積み重ねることで、サブ・ジャンルの策定はもちろん、学習対象となるリアルなアルバムの選定もAIが担当するようになるはずだ。いや、むしろ、膨大なデータから適正なパターンを検索する能力は、人間よりAIのほうがはるかに優れているだろう。

もうひとつ興味深いというか、そちらのほうが本題なのだけれど、フリージャズのAI演奏が成功した(あるいは成功したように感じられる)のはなぜなのか──。
次回はそこを掘り下げてみたい。

「AIが拓くジャズの未来」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

村松崇継

今月の音遊人

今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」

2360views

音楽ライターの眼

日本のギター界を牽引する4人が登場!渡辺香津美と押尾コータローが絶妙な呼吸で聴かせた、圧巻の「ボレロ」/Acoustic Guitar Festival Special Concert Vol.2

4534views

アコースティックギター「FG9」

楽器探訪 Anothertake

力強さと明瞭さが拓くアコースティックギターの新たな可能性

2477views

楽器のあれこれQ&A

ドの音が出ない!?リコーダーを上手に吹くためのアドバイスとお手入れ方法

180447views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17160views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7242views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14060views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

9215views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8390views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

3228views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6059views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25128views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12359views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8390views

音楽ライターの眼

連載17[ジャズ事始め]上海がアジアにおけるジャズのホット・スポットであった歴史的事実とアジア・ジャズの関係性を解いてみる

3004views

アカネキカク akaneさん

オトノ仕事人

楽曲のイメージをもとに、ダンスの振りを考え、演出をする/振付師の仕事

2193views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5009views

サイレントブラス

楽器探訪 Anothertake

“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」

3940views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

13330views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6059views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23439views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6027views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views