Web音遊人(みゅーじん)

葛藤や試行錯誤でさえ、しっかり表現していきたい/仲道郁代インタビュー

日本を代表するピアニスト、仲道郁代は言う。自分は音楽の“しもべ”だ、と。
「音楽の神様は、いらっしゃるような気がするんです。『神様、私ができることの最善を尽くさせてください』という感覚がありますね。最善を尽くしたところで、たかが知れているという思いもあります。でも、そうやって日々向き合うことが私が生きている意味になる。最近、そんな気持ちになりました」

2016~17年シーズンをプロデビュー30周年のアニバーサリーイヤーとし、多彩かつ充実した音楽活動を行ってきた仲道。
「多くの引き出しをつくらせていただいた30年でした。そして、その先を考えたとき、演奏することが私の人生にどういう意味をもたらすのか、それをしっかり見据えた活動をする年齢になったと思いました」
そんな思いからスタートさせたのが、2018~27年の10年をかけて完結する「Road to 2027プロジェクト」だ。2027年はベートーヴェン没後200周年であり、自身のデビュー40周年にあたる。
プロジェクトの柱は大きくふたつ。ひとつは、ベートーヴェンのソナタを中心にしたコンサートシリーズで、毎春サントリーホールなどで開催すること。
作曲家の本質に迫ろうという真摯な気持ちで、大作曲家たちが生きた軌跡を追求してきた仲道。とりわけベートーヴェンに関しては、その研究で高名な諸井誠氏からみっちり教わって論理性を極めて作品に取り組み、“ベートーヴェン弾き”の評価を確固たるものにした。そんな彼女は、ベートーヴェンは作品を通して人生や生きることを問い続けてきた作曲家だと力を込める。
「その作品を弾くことは、私にとって音楽とはどんなものなのか、すなわち私の人生はどういうものなのかを問うことでもあります。幸せなことに、演奏家はそれを音で表現しているとき、同じように人生や自分の心のあり方の意味を探しているであろうお客様と、それを共有することができます。クラシック音楽の一番の感動は、そこにあると思うんです」
そして、もうひとつの柱が、毎秋、東京文化会館小ホールなどインティメートな空間で開催するシリーズだ。
「繊細で内面的な性格をもった作品を演奏していく予定です。ピアニズムを極め、より精度が高く、洗練されたものにしていきたいと思っています」

今、仲道が「楽しみにしている」と語るのが、ヤマハホールリニューアル10周年記念公演の第1弾を飾る、2020年1月に行うスペシャル・コンサートだ。
共演はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターであり、ソリスト、室内楽奏者としても世界的に活躍するバイオリニスト、フォルクハルト・シュトイデ。この贅沢な共演のプログラムには、ベートーヴェンとシューマンを選んだ。ベートーヴェンが仲道にとって“絶対的な核”であるのは前述の通りだが、一方のシューマンはいわば“音楽の故郷”。2017年にリリースされたアルバム『シューマン:ファンタジー』では、シューマンの繊細で儚い世界を、深みのある絶美なサウンドで描き出した。
「ヤマハホールは非常に親密な空間で、細やかな音の変化や表現をお聴きいただけると思います。みなさんは、ピアニストは不特定多数の観客のために弾いていると思っているでしょう。でも、違うんです。クラシックでは、演奏者は一人ひとりのために弾いています。だからクラシック音楽って、すごくプライベートなものなんです」
2027年に向けて、探していることのすべて、葛藤や試行錯誤でさえ、しっかり表現していきたいと意気込みを語る。
仲道が新たな決意を携えて歩み始めた道のりは、聴き手がそれぞれの人生を探す旅でもある。2027年になったとき仲道は、そして我々はどんな景色を見ることができるのだろう。

仲道郁代 スペシャル・コンサート~フォルクハルト・シュトイデ(バイオリン)を迎えて~

日時:2020年1月13日(月・祝)14:00開演(13:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
料金:6,000円(全席指定・税込)
出演:仲道郁代(ピアノ)/フォルクハルト・シュトイデ(バイオリン)
曲目:L.v.ベートーヴェン/バイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2
C.シューマン/3つのロマンス Op.22 より 第2番、第3番
R.シューマン/幻想小曲集 Op.12より 第1曲、第2曲、第3曲、第8曲 ほか
詳細はこちら

■優待チケットの特別販売

本公演の優待チケット(優待価格5,000円/定価6,000円)を20名様分ご用意しました。ご希望の方は、下記「応募はこちら」ボタンからご応募ください。
※ご応募の際は、ヤマハミュージックメンバーズの会員登録(登録無料)が必要です。
応募締切:2019年12月13日(金)23:59
応募はこちら

特集

秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

今月の音遊人

今月の音遊人:秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

11973views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.12

3568views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

6798views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

55542views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11691views

テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

オトノ仕事人

【サインCDプレゼント】テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

15528views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

5506views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9054views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15185views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

11170views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8532views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30894views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8564views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15185views

ココ・モントーヤ

音楽ライターの眼

ブルースを次世代に受け継ぐギタリスト、ココ・モントーヤの濃厚過ぎるサウンド

1367views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

2730views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

5099views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11967views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

5506views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4806views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

3212views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11018views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26120views