今月の音遊人
今月の音遊人:由紀さおりさん「言葉の裏側にある思いを表現したい」
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オーボエの甘美な響きに、α波で満たされた珠玉のひととき/モーリス・ブルグ80歳記念コンサート
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2019.11.26
オーボエの名手、モーリス・ブルグの傘寿を祝って、愛弟子の吉井瑞穂が関わりのあるメンバーを集めての演奏会。今仁喜美子は、モーリス・ブルグ・トリオのピアニスト。チェンバリストの桒形亜樹子は共演はもとより、フランスで教えていた学校のすぐ傍にブルグの自宅があって歓談の思い出もあるという。ギヨーム・サンタナは、プロへのきっかけをブルグから与えられたそうだ。今や、吉井が首席オーボエ奏者を務めるベルリンのマーラー室内管弦楽団の首席ファゴット奏者をはじめ、複数の楽団で首席を務めている。
プログラムには、4人の他にフランソワ・ルルー(オーボエ)、ジョナサン・ケリー(オーボエ)をはじめ、世界の名手からの祝辞が掲載されていた。演奏曲目はバロックから現代まで幅広く、楽器の組み合わせを変えながら進行する趣向。オーボエの甘美な旋律に各楽器の音色が溶け合い、ホールはα波で満たされて、終始くつろぎムードだった。
オープニングのモーツァルト「ソナタへ長調」は、もともと「ヴァイオリンとクラブサンまたはピアノのためのソナタ」を編曲したもので、ブルグと吉井がデュオを披露。旋律を受け渡し合って展開する。ピアノのアルペジオや装飾音などの代わりに、心地よいバイブレーションが伝わってくる。
2曲目のブルッフ「8つの小品より」は、吉井、サンタナ、今仁によるトリオ。もともと「クラリネット・ビオラまたはチェロ・ピアノ」の三重奏曲として作られたものを「オーボエ・ファゴット・ピアノ」の組み合わせで演奏。「第1番」はオーボエの内省的な旋律に、ファゴットが憂いと叙情で深みを持たせ、やがて問いかけるように終わる。「第7番」は一転し、走り回るネズミを連想する軽快な曲。そして「第6番」の「夜の歌」はト短調ながら主部に明るい旋律が混じっていて、どこかセレナーデを聴いている気分。3曲のバランスがいいせいか、オーボエとファゴットが寄り添って進む3楽章の曲に聞こえた。
前半の締めくくりは、ブルグと今仁による「オーボエとピアノのための組曲」。作者のハースは第二次世界大戦中に強制収容所で命を落としたユダヤ系で、戦争が始まった頃に書かれたこの曲は、まさに未来予言的な曲調。不気味な不協和音、悲哀を感じる民族音楽風のモチーフなどで紡がれ、家でひとり聴くと滅入りそうである。ところがブルグの生音は、そんな息苦しさや恐怖感すら、興味をそそる魔術のように降り注ぎ、聴衆を酔わせていく。まさに“魔法のブレス”の成せる業であった。
休憩をはさんで、後半はハイドンから。「ピアノ三重奏曲第29番ト長調」は、本来の「フルート・チェロ・ピアノ」構成を「オーボエ・ファゴット・ピアノ」に変えて。ブルグのクリアなオーボエが高らかに響き、華麗な演奏だった。最後の、ゼレンカ「トリオ・ソナタ第2番ト短調」は、桒形のチェンバロに乗って、ブルグと吉井のツイン・オーボエとサンタナのファゴットが、教会音楽を彷彿する曲を紡いでいく。遠い宇宙から希望のメッセージが届けられた心地がした。
アンコールで「Happy Birthday to You」を期待した人は少なからずいたと思う。演奏はなかったが、4人から祝いの花束を贈られて、名匠ブルグは少しはにかんだような笑顔をみせた。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍「200DVD映像で聴くクラシック」「200CDクラシック音楽の聴き方上手」、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: ヤマハホール, オーボエ, 吉井瑞穂, モーリス・ブルグ
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