今月の音遊人
今月の音遊人:岡本真夜さん「親や友達に言えない思いも、ピアノに聴いてもらっていました」
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フィンランドのヘヴィ・メタル映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』(2018年製作)が2019年12月に日本公開されて話題を呼んでいる。
フィンランドのメタル・バンド“インペイルド・レクタム”(“直腸串刺し”の意味)がノルウェーの“ノーザン・ダムネイション”フェスを目指す珍道中を描いた作品で、コアなメタル・ファンから一般の映画ファンまで幅広い層にウケている。
全編メタル音楽が使用され、映画館の暗闇でヘッドバンギングする観客も多いという本作だが、冒頭のリハーサル・シーンで演奏され、エンディング・テーマに使われている曲にオッと思った方もいらっしゃるだろう。そう、ジョー・ダッサンが1970年代半ばにヨーロッパ全土でヒットさせた「愛の挽歌 L’Ete Indien」だ。
ジョー・ダッサンは1938年、ニューヨーク生まれの歌手。父親の映画監督ジュールズ・ダッサンが“赤狩り”でアメリカを追われて一家でヨーロッパに移住、フランスでデビューしている。彼は1970年代前半、フランス語圏でスーパースターとなり、筆者(山崎)が1975年にベルギーのブリュッセルに住むようになったときは近所のスーパーでほぼ1日中彼のヒット曲がBGMとして流れていたほどだった。そのひとつが「愛の挽歌」だったのである。
しばしば“シャンソン歌手”と呼ばれるダッサンだったが、彼の名を世界に広めたのは英米などのポップ・ヒットのフランス語ヴァージョンだった。日本で最もよく知られている彼の曲は「オー・シャンゼリゼ」だが、原曲はイギリスのサイケ・ポップ・バンド、ジェイソン・クレストによる「ウォータールー・ロード」だった。ロンドンのウォータールー・ロードがいかに素敵でイカしているかを歌った原曲だが、実際に行ってみるとあまりオシャレでもないので、パリのシャンゼリゼ通りの方が曲に向いている気もする。なお「オー・シャンゼリゼ」は越路吹雪やザ・ピーナッツが日本語カヴァーしているのに加え、ダッサン自身も日本語で歌っている。
イギリスのポップ・バンド、クリスティーの「イエロー・リヴァー」を「アメリカ L’Amerique」としてカヴァーしたり、アメリカのスティーヴ・グッドマンの「シティ・オブ・ニュー・オーリンズ」を「やあ、恋人たち Salut Les Amoureux」としてヒットさせるなど、“カヴァー歌手”的な側面を持っていたダッサンが1975年に発表した「愛の挽歌」もまたイタリアのグループ、アルバトロスの「アフリカ」をカヴァーしたものだった。
アンニュイな曲調にセクシーな低音ヴォイスが映えるこの曲は「オー・シャンゼリゼ」と並ぶダッサンの代表曲となり、さまざまな歌手によってヨーロッパ各国でカヴァーされた。さらに海を隔てた日本でも、仮面ライダー1号こと藤岡弘、『Gメン’75』の岡本富士太ら、男の香りの漂うシンガー達がレコーディングしている。
それにしても現代(2018年)、『ヘヴィ・トリップ』で「愛の挽歌」がエクストリーム・メタル・ヴァージョンとなって蘇ったのは何故か?フィンランドでは1975年に歌手ダニーが「Kuusamo」というタイトルでフィンランド語カヴァー、ヒットさせているため、フィンランドの音楽ファンの魂に染み込んでいるのではなかろうか…と推測されるが、そのあたりは別途、より深く掘り下げてみたい。
ジョー・ダッサンの名前に懐かしさを感じるオールド・ファンだったら、きっと『ヘヴィ・トリップ』を楽しめるだろう。そして映画で初めて彼の曲に触れたメタル・ファンは、ダッサンのヨーロピアンな音美学に踏み込んでいただきたい。そうすることで、音楽の地平線はどこまでも拡がっていくのである。
『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』
公開日:2019年12月27日(金)より順次
場所:東京・シネマート新宿、大阪、シネマート心斎橋ほか
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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