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2017年ゴールデンウィーク直前を彩った日本武道館3連戦/ポール・マッカートニー、ドゥービー・ブラザーズ、サンタナ
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2017.5.18
tagged: 音楽ライターの眼, ポール・マッカートニー, ドゥービー・ブラザーズ, サンタナ
2017年のベテラン洋楽アーティストの来日ラッシュは、凄まじいものがある。
ジェフ・ベックやジャーニー、ザ・ダムド、グラハム・ボネット、イエスfeat.アンダーソン・ラビン・ウェイクマン、エリック・マーティンなど、昭和の時代からロックを聴いてきたオールド・ファンだったら「懐かしい!」と唸ってしまう顔ぶれが次々と日本に上陸。ベテランならではの味わい深さと、衰えを知らないパワフルな演奏で魅せてくれた。そんな2017年前半の来日ラッシュのピークだったのが4月最終週の東京・日本武道館だった。
日本武道館といえば1966年にビートルズが来日公演を行い、その後も1971年・1972年のレッド・ツェッペリン、1972年・1973年のディープ・パープル、1978年のチープ・トリックなど、歴史的なライヴが行われてきた。現在でも来日アーティストにとって“聖地”である武道館で、4月25日(火)にポール・マッカートニー、26日(水)にドゥービー・ブラザーズ、27日(木)にサンタナの公演が行われたのだ。
2016年にアメリカではポールやローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ロジャー・ウォーターズ、ニール・ヤングが出演する『デザート・トリップ』フェスが行われて話題を呼んだが(口の悪いファンは“ジジイストック”と呼んでいた)、この3日間は、まるで日本版『デザート・トリップ』が武道館で実現したかのようだった。
ゴールデンウィーク直前の3連戦ということで、涙を呑んだサラリーマンのロック・ファンもいたようだが、一方のポールは74歳、ドゥービーのパット・シモンズとトム・ジョンストンは68歳、カルロス・サンタナは69歳という年齢。ロック・スターに定年退職はないことがわかる。
それにしても驚かされるのは、彼らの溢れんばかりのエネルギーだ。ポールは今回、武道館公演に加えて東京ドーム3公演を行い、連日30曲以上を披露。ビートルズ・ナンバーもふんだんに演奏された。2014年6月の来日公演が体調不良で中止となったポールだが、2015年4月の来日では完全復活を高らかに宣言。そして2年ぶりの今回もポール健在!を強く印象づけた。
翌26日のドゥービー・ブラザーズ公演もまた、熱気に満ちたものだった。最近のベテラン・アーティストの公演では観客も年季が入っており、着席しながらライヴを楽しみ、アンコールになると立ち上がることも少なくなくなった。しかし、この日は場内が暗転すると、アリーナのほぼ全員が立ち上がって声援を送る。バンドがステージに上がると歓声はさらに大きくなり、「希望の炎 Jesus Is Just Alright」からショーが始まると一気に沸点を超えた。さらに「ロッキン・ダウン・ザ・ハイウェイ」「君の胸に抱かれたい Take Me In Your Arms」などの名曲が演奏されると、バンドも観衆もテンションが上がりっぱなしだ。
泥臭いロックンロールと洗練されたヴォーカル・ハーモニーの両輪を駆って、45年以上(一時期の活動休止を挟みながら)ハイウェイを突っ走ってきた男たちのステージは圧巻で、ラスト「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」までの約2時間、観衆が着席する光景はついぞ見ることがなかった。
武道館に宿った熱気は、そのまま27日のサンタナ公演へと繋がっていく。1969年の伝説のウッドストック・フェスティバルの生き証人であるカルロス・サンタナだが、その濃厚なギターは“枯れる”ということを知らない。「ネシャブールの出来事」〜「哀愁のヨーロッパ」、「ブラック・マジック・ウーマン」〜「ジプシー・クイーン」などは彼の指先からサンタナ汁が滴り落ちそうだ。
「ジンゴー」「ソウル・サクリファイス」「僕のリズムを聞いとくれ」、ゾンビーズの「シーズ・ノット・ゼア」などのクラシックスはいずれも生気に溢れる演奏だ。そのせいで1990年代、彼の人気再燃の突破口となった「スムーズ」「マリア・マリア」はむしろ“青い”とすら感じてしまったが、それらの曲がもう20年前近くの曲だと考えると感慨深い。
そんな演奏をさらに濃い味付けにするのがバンドの演奏だ。扇情的なラテン・パーカッションが盛り上げる中、特にサンタナの奥方シンディ・ブラックマンのドラムスはアニマル感を増していた。
サンタナ公演でもうひとつ印象に残ったのが、随所でロック・クラシックスを引用しながら盛り上げていたことだ。ビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」には会場がどよめいたし、「ソウル・サクリファイス」の中盤ではクリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のリフを少しだけプレイしていた。このわずか1週間前、イエスfeatアンダーソン・ラビン・ウェイクマンが「ロンリー・ハート」曲中で同じ「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」を演奏していたのは記憶に新しい。
この日、彼らはエンヤの「オリノコ・フロウ」もプレイ。クリアな透明感で知られるこの曲だが、サンタナ・ヴァージョンでは濃厚なギターに乗せてイイ顔をした2人のおっさんが歌い、スクリーンには顔面タトゥーをした南洋のパンツ一丁の男たちが踊る姿が映し出される。このミスマッチ感もまた、この公演のハイライトのひとつだった。
いずれも元気あふれるパワーとエネルギーを発散する3公演。おそらく3アーティストともこれが最後の来日にはならず、あと何回か日本でそのステージを見ることができそうだ。
とはいえ、彼らに残された時間は無限ではない。ジョン・ウェットン、アル・ジャロウ、ラリー・コリエル、ジェイムズ・コットン、チャック・ベリー、J・ガイルズ、ミカ・ヴァイニオ、アラン・ホールズワースなど、2017年に入ってからも、数多くのミュージシャンが召されていった。
もちろん、コールドプレイやノラ・ジョーンズなど新しい世代のアーティストが台頭し、日本の大きな会場でライヴを行っているが、ロックが大きな転換期を迎えていることは事実である。2017年4月の来日ラッシュは、ひとつの時代のグランド・フィナーレとも言える華々しいものだった。
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
photo/ 土井政則
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