Web音遊人(みゅーじん)

2017年ゴールデンウィーク直前を彩った日本武道館3連戦/ポール・マッカートニー、ドゥービー・ブラザーズ、サンタナ

2017年ゴールデンウィーク直前を彩った日本武道館3連戦/ポール・マッカートニー、ドゥービー・ブラザーズ、サンタナ

2017年のベテラン洋楽アーティストの来日ラッシュは、凄まじいものがある。

ジェフ・ベックやジャーニー、ザ・ダムド、グラハム・ボネット、イエスfeat.アンダーソン・ラビン・ウェイクマン、エリック・マーティンなど、昭和の時代からロックを聴いてきたオールド・ファンだったら「懐かしい!」と唸ってしまう顔ぶれが次々と日本に上陸。ベテランならではの味わい深さと、衰えを知らないパワフルな演奏で魅せてくれた。そんな2017年前半の来日ラッシュのピークだったのが4月最終週の東京・日本武道館だった。

日本武道館といえば1966年にビートルズが来日公演を行い、その後も1971年・1972年のレッド・ツェッペリン、1972年・1973年のディープ・パープル、1978年のチープ・トリックなど、歴史的なライヴが行われてきた。現在でも来日アーティストにとって“聖地”である武道館で、4月25日(火)にポール・マッカートニー、26日(水)にドゥービー・ブラザーズ、27日(木)にサンタナの公演が行われたのだ。

2016年にアメリカではポールやローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ロジャー・ウォーターズ、ニール・ヤングが出演する『デザート・トリップ』フェスが行われて話題を呼んだが(口の悪いファンは“ジジイストック”と呼んでいた)、この3日間は、まるで日本版『デザート・トリップ』が武道館で実現したかのようだった。

ゴールデンウィーク直前の3連戦ということで、涙を呑んだサラリーマンのロック・ファンもいたようだが、一方のポールは74歳、ドゥービーのパット・シモンズとトム・ジョンストンは68歳、カルロス・サンタナは69歳という年齢。ロック・スターに定年退職はないことがわかる。

それにしても驚かされるのは、彼らの溢れんばかりのエネルギーだ。ポールは今回、武道館公演に加えて東京ドーム3公演を行い、連日30曲以上を披露。ビートルズ・ナンバーもふんだんに演奏された。2014年6月の来日公演が体調不良で中止となったポールだが、2015年4月の来日では完全復活を高らかに宣言。そして2年ぶりの今回もポール健在!を強く印象づけた。

2017年ゴールデンウィーク直前を彩った日本武道館3連戦/ポール・マッカートニー、ドゥービー・ブラザーズ、サンタナ

翌26日のドゥービー・ブラザーズ公演もまた、熱気に満ちたものだった。最近のベテラン・アーティストの公演では観客も年季が入っており、着席しながらライヴを楽しみ、アンコールになると立ち上がることも少なくなくなった。しかし、この日は場内が暗転すると、アリーナのほぼ全員が立ち上がって声援を送る。バンドがステージに上がると歓声はさらに大きくなり、「希望の炎 Jesus Is Just Alright」からショーが始まると一気に沸点を超えた。さらに「ロッキン・ダウン・ザ・ハイウェイ」「君の胸に抱かれたい Take Me In Your Arms」などの名曲が演奏されると、バンドも観衆もテンションが上がりっぱなしだ。

泥臭いロックンロールと洗練されたヴォーカル・ハーモニーの両輪を駆って、45年以上(一時期の活動休止を挟みながら)ハイウェイを突っ走ってきた男たちのステージは圧巻で、ラスト「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」までの約2時間、観衆が着席する光景はついぞ見ることがなかった。

武道館に宿った熱気は、そのまま27日のサンタナ公演へと繋がっていく。1969年の伝説のウッドストック・フェスティバルの生き証人であるカルロス・サンタナだが、その濃厚なギターは“枯れる”ということを知らない。「ネシャブールの出来事」〜「哀愁のヨーロッパ」、「ブラック・マジック・ウーマン」〜「ジプシー・クイーン」などは彼の指先からサンタナ汁が滴り落ちそうだ。

「ジンゴー」「ソウル・サクリファイス」「僕のリズムを聞いとくれ」、ゾンビーズの「シーズ・ノット・ゼア」などのクラシックスはいずれも生気に溢れる演奏だ。そのせいで1990年代、彼の人気再燃の突破口となった「スムーズ」「マリア・マリア」はむしろ“青い”とすら感じてしまったが、それらの曲がもう20年前近くの曲だと考えると感慨深い。

そんな演奏をさらに濃い味付けにするのがバンドの演奏だ。扇情的なラテン・パーカッションが盛り上げる中、特にサンタナの奥方シンディ・ブラックマンのドラムスはアニマル感を増していた。

サンタナ公演でもうひとつ印象に残ったのが、随所でロック・クラシックスを引用しながら盛り上げていたことだ。ビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」には会場がどよめいたし、「ソウル・サクリファイス」の中盤ではクリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のリフを少しだけプレイしていた。このわずか1週間前、イエスfeatアンダーソン・ラビン・ウェイクマンが「ロンリー・ハート」曲中で同じ「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」を演奏していたのは記憶に新しい。

この日、彼らはエンヤの「オリノコ・フロウ」もプレイ。クリアな透明感で知られるこの曲だが、サンタナ・ヴァージョンでは濃厚なギターに乗せてイイ顔をした2人のおっさんが歌い、スクリーンには顔面タトゥーをした南洋のパンツ一丁の男たちが踊る姿が映し出される。このミスマッチ感もまた、この公演のハイライトのひとつだった。

いずれも元気あふれるパワーとエネルギーを発散する3公演。おそらく3アーティストともこれが最後の来日にはならず、あと何回か日本でそのステージを見ることができそうだ。

とはいえ、彼らに残された時間は無限ではない。ジョン・ウェットン、アル・ジャロウ、ラリー・コリエル、ジェイムズ・コットン、チャック・ベリー、J・ガイルズ、ミカ・ヴァイニオ、アラン・ホールズワースなど、2017年に入ってからも、数多くのミュージシャンが召されていった。

もちろん、コールドプレイやノラ・ジョーンズなど新しい世代のアーティストが台頭し、日本の大きな会場でライヴを行っているが、ロックが大きな転換期を迎えていることは事実である。2017年4月の来日ラッシュは、ひとつの時代のグランド・フィナーレとも言える華々しいものだった。

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:七海ひろきさん「声優の仕事をするようになって、日常の中の音に耳を傾けるようになりました」

13277views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.1

3971views

トランスアコースティックギター「TAG3 C」

楽器探訪 Anothertake

デジタル技術が広げるアコースティックギターの可能性──トランスアコースティックギター「TAG3 C」

2786views

フルート

楽器のあれこれQ&A

初心者にもよくわかる!フルートの種類と選び方

22757views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

9769views

江藤裕平

オトノ仕事人

音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事

11425views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

23186views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10572views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

33538views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7342views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

9079views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26874views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

12353views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

33538views

穐吉敏子 Solo Live

音楽ライターの眼

93歳の世界的ジャズピアニストが日本のファンを大いに魅了!/穐吉敏子 Solo Live

4407views

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

6611views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

1542views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

5813views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7601views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5847views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

14340views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8070views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32380views