今月の音遊人
今月の音遊人:宮本笑里さん「あの一音目を聴いただけで、救われた気持ちになりました」
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今月の音遊人:三浦文彰さん「音を自由に表現できてこそ音楽になる。自分もそうでありたいですね」
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2023.6.1
国内はもとより世界の檜舞台で活躍するバイオリニスト三浦文彰さん。日本が誇るクラシック演奏家のひとりである三浦さんに、音楽にまつわる体験や出会いなどのお話をうかがった。
毎日欠かさずに弾いている曲があって、おそらくそれが一番耳にしている音楽だと思います。それはJ.S.バッハの『無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ』。なかでも『パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006』を、ウォームアップとして音階とセットにしてよく演奏しています。アスリートが準備運動で身体をほぐすのと同じようなものですね。指のエクササイズにも最適で、その日のコンディションのチェックにも役立ちます。
バッハの作品は和声がはっきりとしているので、弾いているうちに頭の中がクリアになっていく効果もあります。そうやって、まっさらな状態に戻ってから、本番で取り上げる楽曲に移っていく……という流れです。
両親がバイオリニストなので、子どもの頃から常にバイオリンの音が自分の身近に鳴っているような環境で、その音と一緒に成長してきたという感覚です。さらに言うと、生まれる前、母のおなかの中にいるときから聴いていたような気がします。母がサントリーホールで、アンネ=ゾフィー・ムターの演奏するベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』を聴いていたとき、初めておなかを蹴ったらしいです。
「音」や「音楽」は、僕にとっては生活の一部です。うちには父が集めた巨匠たちのアルバムがたくさんありました。それらの曲の出だしを聴いて、「はい、(ナタン・)ミルシテイン」「それは(ヘンリク・)シェリング!」というように、誰が弾いているのかを当てて遊んでいました……オタクですね(笑)。今でもよく行くバーでレコードをかけてもらい、イントロ当てゲームを楽しんでいます。
そうですね、音で遊べるくらい余裕がある人、つまり「音楽家」でしょうか。
誰でも練習すれば楽器を奏でて音を出すことはできるけれど、それだけでは音楽にはならないと思います。音を自由に表現できてこそ音楽になるというか。音で遊べるなんて、理想のかたちですよね。自分もそのひとりでありたいと願っています。
それはもう、たくさんあります。知らないことを教えてもらえたし、大勢の素晴らしい人と出会えたし、世界中のいろいろな場所にも連れて行ってくれました。音楽をやっていたおかげで人生が豊かなものになったと思います。
今使っているバイオリン(宗次コレクションから貸与されたストラディヴァリウス1704年製作の名器「Viotti」)を弾くことができるのも大きな喜びのひとつです。今は高額になりすぎて、手にするのがとても難しい楽器ですから。僕はビオラも弾きますし、チェロの音色も好きですが、やっぱりバイオリン弾きでよかったと思います。
三浦文彰〔みうら・ふみあき〕
1993年生まれ、東京都出身。2009年、ドイツのハノーファー国際コンクールにて史上最年少の16歳で優勝。以来、国際舞台でバイオリニストとして活躍し、近年は指揮者としての経験も積み上げている。サントリーホールARKクラシックスのアーティスティック・リーダー、ロンドンの名門ロイヤル・フィルのアーティスト・イン・レジデンスも務める。
オフィシャルサイト
文/ 東端哲也
photo/ 阿部雄介
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