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今月の音遊人:辻󠄀井伸行さん「ピアノは身体の一部、大切な友だちのようなものです」
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クラシックを時短で演奏!?12年の積み重ねと3人の真摯な気持ちが詰まったニューアルバム『JITAN CLASSIC』を聴く/TSUKEMENインタビュー
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2020.6.11
tagged: インタビュー, TSUKEMEN, JITAN CLASSIC
バイオリンとピアノによるインスト・トリオ、TSUKEMEN。TAIRIK(バイオリン/ビオラ)、SUGURU(ピアノ)、KENTA(バイオリン)の3人全員が音楽大学出身というプロフィールを持ち、2008年のデビュー以来、クラシック音楽を柱に据えつつ、メンバーそれぞれのオリジナル曲をはじめジャズやポップス、映画音楽、はたまたゲーム音楽やEDMまで、実に幅広いレパートリーで多くのファンを獲得してきた。ほぼ1年に1枚のペースでアルバムを発表するほか、国内外で年間50本にも及ぶコンサート・ツアーを展開するなど積極的に活動している。このたび1年ぶりに発表された新作『JITAN CLASSIC』も、彼らの魅力を存分に楽しめる好盤となった。
「JITAN」とは「時短」のこと。一曲の演奏時間が長いクラシックの作品を、聴きやすくコンパクトにまとめて届けよう、というコンセプトだ。
「そうすることで、ひとりでも多くの方に僕たちのルーツであるクラシック音楽に触れてもらいたいんです」とはTAIRIK。彼はユニットのスポークスマン的存在であり、こちらが何か質問すると、大抵の場合は彼が最初に口を開いてくれる。
「そして、ゆくゆくは元の作品も聴いてもらえるようになったら、うれしいですよね」
さて、彼らのコメントとともに、アルバムを紹介していこう。2020年に生誕250年を迎えたベートーヴェンの『運命』から始まり、日本でも人気の高いドヴォルジャーク『新世界より』へと続き、2本のバイオリンで聴かせるサラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』へ。特に『運命』と『新世界より』の2曲は、長大な原曲からエッセンスを巧みに抽出し、まさに「時短」ともいうべきコンパクトさでまとめられているのだが、物足りなさは微塵も感じない。それどころか、たった3人で演奏しているのが嘘のような音の厚みと、空間的な広がりをもって聴く者に迫ってきて、彼らの充実ぶりを感じさせる。
「冒頭の3曲は長生淳先生の編曲なんですけど、先生とはデビュー当時からの長い付き合いなので、お互いのことをわかりあえているんですよね。そうしたことがプラスに作用したのだと思います」
こう語るのはSUGURU。例えばTAIRIKが全体のコンセプトに関して語ったらSUGURUが音楽面のことに触れたり、ほかのメンバーの言葉を絶妙のタイミングで補足したりと、彼のコメントは、まるで即興演奏をしているよう。「レコーディングの現場では、マイクの位置やメンバー間の距離など、音に広がりをもたせるために試行錯誤しました」とTAIRIKが言えば、「あと、3人で10年以上活動を続けてきて、アンサンブルの中で音の長さなどの細かい表現にも気をつかえるようになってきたことが、音の厚みにつながっていると思います」と付け足したり。一歩引きつつも、絶えず全体を見ていることが覗える。
もうひとりのメンバーKENTAは、見た目ではクールでマイペースな印象だが、ひとたび口を開くと、熱い言葉が次々と飛び出してくる。
「音色やニュアンスを細部まで揃えられるようになって、演奏の自由度が格段に上がりましたね。特に『運命』のクオリティには自信があります。少人数でロビーコンサートをやったりするのにピッタリだと思いますよ」
さらにアルバムを聴き進めていこう。モーツァルトの『トルコ行進曲』とオッフェンバック『天国と地獄』をミックスした『トルコ天国地獄行進曲』、映画『ラ・ラ・ランド』の『アナザー・デイ・オブ・サン』とパッヘルベルのカノンを組み合わせた『ラ・ラ・カノン』とキャッチーなナンバーが続く。このあたりの選曲センスはTSUKEMENの真骨頂だ。
「音大の学生さんや、音楽を習っている方たちが『弾きたい!』と思えるような演奏に仕上がったと思います。楽譜も出版できたらうれしいですね」(TAIRIK)
そして、スウェーデン出身のカリスマDJ、アヴィーチー(1989~2018)『The Nights』へ。彼の曲は2019年のアルバム『時を超える絆』でも取り上げている。
「前からEDMには興味があったので、前作で思い切ってやってみたんです」(TAIRIK)
「本アルバムでは打ち込みのリズムを入れたけれど、ライブではなし。3人だけでどれだけできるか不安はありましたが、回を重ねるうちに仕上がってきました。EDMはライブで育てて自分たちのものにしたジャンルだといえますね」(SUGURU)
アルバムの後半は各メンバーのオリジナルが並ぶ。「生命の誕生や輝きをテーマにしました」というSUGURUの『Starlight Ocean』はファンタジックな響きが印象的。そしてKENTAによる『5 Red Chateau』は5拍子のリズムに美しい旋律が乗るジャジーなナンバーだ。
「5拍子の曲は『テイク・ファイブ』に代表されるように、グルーヴが前面に出てくるものが多いですよね。そこをどうメロウに仕上げるか、かつ、ジャズのように自由な表現ができる余白を残すのかがテーマでした。また、曲名には、ボルドーの5大シャトーが似合うような、そんな歳の重ね方をしていきたいという思いも込めています」(KENTA)
そして最後はTAIRIKの『小さな奇跡』と『All For One』。どちらもきらめくようなメロディが心に残るポップ・チューンだ。
「この2曲は大切な人との絆がテーマになっています。先の『The Nights』も父子の絆を歌った曲で、つまり〈絆〉という言葉は本作の裏テーマになっているんです」(TAIRIK)
絆といえば、TSUKEMENの3人の間にも、強固な絆があるに違いない。何しろ、12年にわたり、絶えず同じメンバーで活動を続けているのだから。
「音楽と人間性って、表裏一体だと思うんですよ。音楽にはその人が出る。僕はSUGURUとKENTAに出会ったとき、2人の出す音を聴いて『一緒に音楽を続けられる仲間だ!』と思いました」とTAIRIKは言う。「お互いに尊敬しあっていますし、2人と一緒にいると、人生が豊かになります」
「やはりお互いの意見を尊重し合うことが、長く続ける秘訣だと思います」(SUGURU)
「真剣に音楽をやっていれば、お互いの意見が平行線のままのときもある。だけどリスペクトの気持ちがあれば、嫌な感情を持つこともないんです。みんな個人としての活動も行っているけれど、TSUKEMENにはホームのような安心感や居心地のよさがありますね」(KENTA)
お互いを尊敬し、信頼すること。そして12年の積み重ね。3人の真摯な想いが詰まった『JITAN CLASSIC』と、現在計画中のツアーに期待したい。
そして、急遽アルバムの最後に収められることになったトラック『DANCE!ベートーヴェン・シンフォニー』のオリジナルダンスも要注目。メンバーそれぞれがベートーヴェンに扮して踊る様子がYouTubeにアップされている。
ベートーヴェン3兄弟の指揮ダンス♪(在宅自撮り) おうちでうんどうしよう!
発売元:キングレコード
発売日:2020年5月20日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら
TSUKEMENオフィシャルサイト