Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:挾間美帆さん「私は音で遊ぶ人のために作品を作っているのかもしれません」

2012年、『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』をリリースして“ジャズ作曲家”として世界デビューを果たした挾間美帆さん。2016年には米ダウンビート誌の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ一人選出され、2019年にはニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれました。さらに3作目のアルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』は、グラミー賞「ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム」部門ノミネートを果たしています。世界的なアーティストとして力強く歩み続ける一方、風のように軽やかな存在感を放つ挾間さん。彼女にとっての音楽についてお聞きしました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

これだ、というものを二つ挙げさせていただきます。まずは、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの『レッツ・グルーヴ』という曲です。10歳のころ、ヤマハ音楽教室の発表会の一環でこの曲を知り、夢中になりました。
もともと父がビートルズ、母がディスコやソウルミュージックが好きで、いろいろなジャンルの音楽が家の中に流れていたのですが、この曲を一度聴いたら忘れられなくなってしまいました。おこづかいを握りしめてCD屋へ行き、アース・ウィンド・アンド・ファイアーのベストアルバムを買ったのですが、これが人生で初めて買ったCDでした。何度も何度も、CDが擦り切れるほど聴いていますよ。気分を上げたいときやホームパーティのBGMなどにもしていますね。あとは車などでの移動中。とにかく海外は移動時間が長いので。
もう一つはレスピーギの『ローマの松』です。これは自分にとってのバイブルのようなものですね。いまでも数か月に一回は聴かないと気が済まないです。初めて聴いたのは10歳のころ。ヤマハのエレクトーンのコンクールで『ローマの祭り』を弾いたことがきっかけで『ローマの松』も聴くようになって魅了されたのですが、大きくなってからスコアをじっくりと眺めたら、その内容のすごさに圧倒されてしまって。レスピーギは私がオーケストラ作品を書くうえで、ものすごく影響を受けています。とても音数が多いのですが、一つでも欠けると何かが違ってしまう。それぞれの音が役割を果たしているのです。私もそういう作品を書くように心がけています。

Q2.挾間さんにとって「音」や「音楽」とは?

なければ私でなくなってしまうものだと思っています。そもそも私は常に耳でいろいろな情報を得て生活しているところがあるのです。歩いている時に、どこから車が来ているかとか、あそこに子どもがいるな、など、そういうこともすべて音で把握しているくらい。見ることよりも聞くことのほうが私にとって情報量が多いのです。それと関係しているかはわかりませんが……、実は、アコースティックのピアノでないと作曲ができないのです。聞こえてくる倍音から、たくさん情報をもらっているからだと思います。それをもとに、次にどんな響きや展開が訪れるかを掴もうとしているのです。音楽を生業にしていることもあるけれど、やはり私にとって音や音楽は生きていく上での支えであり、なくてはならないものです。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

これまで、たくさん「音で遊ぶ人」に出会ってきたと思います。演奏する際の即興性などを含め、音で会話できる人でしょうか。そういった点で憧れているのがハービー・ハンコックです。音色もさることながら、耳や目が違うところについているんじゃないかと思うくらい、あらゆることをキャッチする能力がすごいのです。相手の演奏に反応して出てくる音やフレーズ、和音の作り方……神がかっていますよね。ああやって演奏できたら楽しいだろうなと思います。私のことを「音で遊ぶ人」とおっしゃってくださる方もいるのですが、私は自分を「音を操る人」だと思っています。私は音で遊ぶ人のために作品を作っているのかもしれません。作品は、演奏者が楽しんでくれることでその魅力がお客様に伝わりますから。それができるよう、これからも作品を届けたいですね。

挾間美帆〔はざま・みほ〕
国立音楽大学およびマンハッタン音楽院大学院卒業。これまでに山下洋輔、東京フィルハーモニー交響楽団、ヤマハ吹奏楽団、NHKドラマ「ランチのアッコちゃん」などに作曲作品を提供。また、坂本龍一、鷺巣詩郎、NHK交響楽団、テレビ朝日「題名のない音楽会」などへ多岐にわたり編曲作品を提供する。New York Jazzharmonic (アメリカ)、Metropole Orkest (オランダ)、Danish Radio Big Band (デンマーク)、WDR Big Band(ドイツ)等からの招聘を受け、作編曲家としてだけでなくディレクターとしても国内外を問わず幅広く活動している。 2017年シエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに、2018〜19年オーケストラ・アンサンブル金沢のコンポーザー・オブ・ザ・イヤー、さらに2019年シーズンからデンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者に就任。 オフィシャルサイト
オフィシャルサイトはこちら

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:村治佳織さん「自分が出した音によって聴き手の表情が変わったとき、音楽の不思議な力を感じます」

9180views

ジューダス・プリースト

音楽ライターの眼

ジューダス・プリースト、新作『インヴィンシブル・シールド』を発表。「“盾”は攻撃の手段」

2372views

CLP-800シリーズ

楽器探訪 Anothertake

グランドピアノの演奏体験を全身で感じられる電子ピアノ── クラビノーバ「CLP-800シリーズ」

2705views

CLP-825WH

楽器のあれこれQ&A

はじめての電子ピアノを選ぶポイントや練習を続けるコツ

3209views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9191views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

2657views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

6181views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3543views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10757views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

3839views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5144views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32168views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

13364views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

23615views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase18)シベリウス「交響曲第2番」、凱歌をもたらす悲歌の働き、クイーンのヒット曲にも

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase18)シベリウス「交響曲第2番」、凱歌をもたらす悲歌の働き、クイーンのヒット曲にも

4527views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

12356views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2690views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

8051views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

20233views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6320views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

11641views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10523views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32168views