今月の音遊人
今月の音遊人:松井秀太郎さん「言葉にできない感情や想いがあっても、音楽が関わることで向き合える」
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トマホークが8年ぶりに復活、ニュー・アルバム『トニック・イモビリティ』を2021年3月に発表する。
マイク・パットン(ヴォーカル/フェイス・ノー・モア、ミスター・バングルなど)、デュアン・デニソン(ギター/ザ・ジーザス・リザード、アンサンブル)トレヴァー・ダン(ベース/ミスター・バングル、ファントマズ)、ジョン・ステイニア(ドラムス/ヘルメット、バトルズ)というロック界の“オルタナティヴ=別選択肢”の実力者たちが集ったスーパーグループであるトマホークは1999年、パットンとデニソンが出会って始動。『Tomahawk』(2001)、『Mit Gas』(2003)、『アノニマス』(2007)という3枚のアルバムを発表している。メンバー全員がそれぞれのバンドで忙しく、しばらくの休止期間を置いて、2012年から2013年にかけて復活。『アノニマス』(2013)も発表したが、この時はベーシストがトレヴァー・ダン(ミスター・バングル、ファントマズ他)に交替していた。
その後、バンドは再び眠りについたが、2020年2月にデニソンが突如、海外メディアでこのように発言した。「トマホークのニュー・アルバムを作っているんだ。『ハイ・ヌーン』という仮題の、ウェスタン風の曲があるよ」(ちなみに同題の曲はアルバムに収録されていないが、改題されたのかも?)
その翌月、新型コロナウィルスが本格的に世界規模で猛威を振るい始めるが、アルバム制作は続けられた。そうして完成したのが『トニック・イモビリティ』だった。
ヘヴィなエッジとメロディのあるロックで、決して過剰にアヴァンギャルドに走ることはないが、全編メンバー達のエキセントリックな個性があふれる本作。パットンはファルセットからシャウト、ムード歌謡ばりのイケボまで多彩なヴォーカルのスタイルを披露しており、『ハウリー』終盤でタイトルを連呼するブチ切れぶりは鬼気迫るものがある。
アルバムからは『ビジネス・カジュアル』がリーダー・トラックとして先行公開された。この曲についてデニソンは「アメリカの仕事人生を嘲笑する視点から描いた」と語っているが、その奇妙にダークな世界観に、少なくない数のリスナーが混迷の時代を投影したのではないだろうか。新型コロナウィルス、ブラック・ライヴズ・マター運動、大統領選など、アメリカの2020年はまさに“激動”の1年だった。
デニソンは「そんな状況も反映されているけど、それと同時に世界の現実からの逃避という意味合いもある」と主張している。アルバム・ジャケットの曇り空の下、どこまでも拡がっていく地平線には、どこにも政治や戦争が入り込む隙がない。ドナルド・トランプは大統領任期中、数多くのミュージシャンに公に非難されてきたが、本作は決してポリティカルな作品ではない。「俺にとってロックとは、もうひとつの現実を提供するものなんだ」と彼が主張するとおり、本作は聴く者を別の時空へといざなってくれる。
パットンは2019年にジャン=クロード・ヴァニエとのコラボレーション・アルバム『Corpse Flower』を発表。セルジュ・ゲンズブールやジェーン・バーキン、ブリジット・フォンテーヌ、フランス・ギャル、フランソワーズ・アルディなどへの曲提供やアレンジで知られるヴァニエとの共演作は、ラウンジ・サウンドの中にも油断のならない緊張感の漲る、異色のアルバムだ。
さらにパットンとトレヴァー・ダンは2020年9月、ミスター・バングルとしての21年ぶりの新作『ザ・レイジング・ラス・オブ・ジ・イースター・バニー・デモ』を発表。1986年のデモを再レコーディングするという変則的なこのアルバムはドラムスに元スレイヤー〜ファントマズのデイヴ・ロンバード、ギターにアンスラックスのスコット・イアンが参加したことで話題を呼んだ。
2020年の夏、フェイス・ノー・モアとしてのツアーはすべての公演が中止または延期となってしまったが、パットンはさらに幾つかのプロジェクトを抱えているという。ダンはジョン・ゾーンやシークレット・チーフス3などで活動しており、デニスンもまた、ザ・ジーザス・リザードの新作について「あり得ないとは言わない」と含みのある発言をしており、ステイニアはバトルズとザ・マーク・オブ・ケインで並行してプレイしている。トマホークとしての今後の予定は明らかになっていないものの、ぜひコンスタントに作品を発表していただきたいものだ。また、それぞれが別バンドで来日、ライヴ・パフォーマーとしての実力を見せつけてきた彼らゆえ、世界が平常に戻ったあかつきには、トマホークでの初来日公演にも期待したい。その日まで、『トニック・イモビリティ』は音楽ファンの耳とハートを魅了し続けるだろう。
アルバム『トニック・イモビリティ』
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
発売日:2021年3月31日
価格:2,530円(税込)
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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