Web音遊人(みゅーじん)

ホワイトスネイクが新編成ベスト三部作の完結編『ザ・ブルース・アルバム』を発表

2021年2月、ホワイトスネイクの『ザ・ブルース・アルバム』が発売となった。

2020年の『ザ・ロック・アルバム』『ラヴ・ソングス』に続く新編成ベスト・アルバム“レッド・ホワイト&ブルース”三部作の完結編で、“白”、“赤”に続いて“青”をイメージ・カラーとする本作。前2作と同様、『スライド・イット・イン』(1984)から『フォーエヴァーモア』(2011)までの6枚のスタジオ・アルバムやデヴィッド・カヴァーデイルのソロ作『イントゥ・ザ・ライト』(2000)からの曲を収録している。今回は未発表曲こそないものの、全曲をリミックス、楽器パートの差し替えなどを行っている。

『スライド・イット・イン』からの「スロー・アンド・イージー」、『白蛇の紋章』(1987)からの「クライング・イン・ザ・レイン」など、ホワイトスネイクのライヴでお馴染みのクラシックスも収録されているが、いわゆるグレイテスト・ヒッツとは一線を画する選曲で、ニュー・アルバムを聴いているような新鮮さを感じることが出来る。『ライヴ…イン・ザ・シャドウ・オブ・ザ・ブルース』(2006)収録のスタジオ・トラック「イフ・ユー・ウォント・ミー」などの隠れた秀曲がフィーチュアされるのも楽しい。

三部作すべてについて言えることだが、既発曲であっても従来のものとは異なったヴァージョンになっている。特に、元々デヴィッドのソロ・アルバムとなる前提で作られた『レストレス・ハート』(1997)からの楽曲のニュー・ヴァージョンは新たにジョエル・ホークストラのギターとデレク・シェリニアンのキーボードが加えられて、よりロックな厚みを増したものだ。

なお、デレクは自らの演奏について、筆者(山﨑)とのインタビューでこう語っていた。

「デヴィッドはオリジナルの1980年代風シンセのサウンドが気に入らなくて、よりヴィンテージ・ロック風のオルガンを被せたんだ。もしジョン・ロードが弾いたら?みたいなイメージで弾いたよ」

三部作はそれぞれ異なったテーマがあり、楽曲が重複することはないが、唯一の例外が「ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴ」だ。『白蛇の紋章』からシングル・カットもされたこの曲だが、『ザ・ロック・アルバム』にはジョン・サイクスがギター・ソロを弾くヴァージョン、『ザ・ブルース・アルバム』にはMTVでヘヴィ・エアプレイされたビデオと同様のヴィヴィアン・キャンベルが弾くソロがフィーチュアされている。両ギタリストともゲイリー・ムーア直系のマシンガン・ピッキングを披露しているが、2人のフレージングがかなり異なっていて面白い。

3枚いずれも音楽だけでも楽しめるが、デヴィッドによる英文ライナーノーツ(日本盤には邦訳も添付)はアルバムをさらに楽しいものにしてくれる。普段ツイッターでさまざまなギャグを提供しているだけあり、その語り口は軽妙で、新しい話題も豊富に提供。2022年、『レストレス・ハート』新装盤から一連のアルバムがボックス・セット仕様で順次再発されるとか(「5年から7年をかけて再発する」と語っている)、元々デヴィッドのソロ作として発表された『イントゥ・ザ・ライト』を「これからはホワイトスネイクの作品扱いにする」と宣言するなど、思わず身を乗り出す新ネタが次々と飛び出す。

なお『トラブル』(1978)から『セインツ・アンド・シナーズ』(1982)までの初期作品に関しては「元マネージャーの管理下にあって、自分にはアーティスティックな発言権がない」と語っており、海外でリリースされた初期作のボックス・セット『Box ‘O’ Snakes』(2011)が初期ホワイトスネイクへの“別れの挨拶”となったという告白も貴重だ(近年でも海外ではレーベルを超えたベスト盤が編まれ、初期曲も収録されているため、まるっきり過去と決別したわけでもないようだが)。

最新アルバム『フレッシュ・アンド・ブラッド』を引っ提げて2020年3月にジャパン・ツアーが予定されていたホワイトスネイクだが、新型コロナウィルスの影響で中止に。そんな状況下で、ファンの渇きを癒やし、バンドの音楽を新たな光で照らすのが“レッド・ホワイト&ブルース”三部作だ。1951年生まれ、70歳へのカウントダウンが始まったデヴィッドのロック最終章を彩るベスト・アルバムは、その栄光の軌跡に相応しい充実した作品だ。

■インフォメーション

アルバム『The BLUES Album』

発売元:RHINO
発売日:2021年2月19日
価格:2,750円(税込)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

前橋汀子

今月の音遊人

今月の音遊人:前橋汀子さん「同じ曲を何千回、何万回演奏しても、つねに新しい発見や見え方があるのです」

2778views

音楽ライターの眼

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.1

3924views

楽器探訪 Anothertake

改めて考える エレクトーンってどんな楽器?

131875views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

15651views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4778views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

12313views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

22548views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3125views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

30817views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2138views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5834views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30143views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8684views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

14852views

伊藤亮太郎、横溝耕一、横坂源、辻本玲、大島亮、柳瀬省太

音楽ライターの眼

名手6人の個性も光る、アンサンブルの妙/伊藤亮太郎と名手たちによる弦楽アンサンブルの夕べ~弦と弓が紡ぐ馥郁たる響き~

5153views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11345views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

4970views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

見ているだけでわくわくする!弾きたい気持ちにさせるエレクトーン

7487views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

14361views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8157views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

4196views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8771views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10045views