Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:渡辺香津美さん「ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたい 」

2021年デビュー50周年を迎えたジャズギタリストの渡辺香津美さん。伺ったお話には、渡辺さんが今なおエネルギッシュな活動を続ける秘密が散りばめられていました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

いろいろあるので、一曲だけ選ぶとなるとかなり難しいのですが……。ジャズギタリストとしての私の礎となっている曲のひとつとして挙げたいのは、ウェス・モンゴメリーの『ノー・ブルース』という曲です。1965年に録音されたライブ盤『ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー・トリオ』というアルバムに入っています。ウェス・モンゴメリー(1923~68)は革新的な演奏法で一世を風靡したジャズギタリストなのですが、そんな彼のテクニックが全部入ってるといってもおかしくないほど豊かなソロが展開されているのがこの曲なんです。私はジャズギターを練習するのに、曲をまるごとコピーするというよりは、気になるフレーズを分析したりすることのほうが多いのですが、この曲だけは「全部覚えたほうがいいな」と思って、最初から最後まで、レコードを聴いては練習しました。いまでもそらで弾けますよ。以前、友人のマイク・スターンにこの話をしたとき、彼も「あの曲はギタリストのバイブルだ」と言っていましたよ。「オレも弾けるぞ」って(笑)。パット・メセニーとも同じことを話した記憶があります。
もうひとつ、パッと思い浮かんだのは、スティーヴィー・ワンダーが1973年に発表したアルバム『インナーヴィジョンズ』。曲もサウンドもアレンジもユニークで、スティーヴィーの宇宙が凝縮されている感じがします。懐かしくもあり未来的でもあり、都会的でもありアーシーでもあり。ジャズと共通する部分もたくさんあると同時に、ジャズとは違う音楽のあり方も教えてくれます。

Q2.渡辺さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽って、「時間と空間を超えた旅」だと思うんです。タイムマシンというか、タイムトラベルというか。この前、たまたまテレビで観たピアニストの演奏が素晴らしくて、アルバムも買ったのですが、その方が紡ぎ出す音を聴いていると、どこか懐かしくて、夢の中にいるような気分になれるんです。懐かしいといっても、子どもの頃や若い頃に流行った曲を聴くと当時のことを思い出す、というのとはまた違う感覚なんですよね。そんな不思議な体験をさせてもらえるのが音楽の魅力だと思います。
また、自分が音を出すときは、自分の感情とか考えを超えたところで、その音に自分が導かれているような感覚がするときがあるんです。まるで音が先生であるかのように。うまく言いあらわせないのですが、自分にとって音楽は旅であり、学校でもある。そんな気がします。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

どんな人だろうなぁ。え?自分だと言ってもいいの?そう言われてみれば、私はギターという楽器を使って音を遊んでいる人かもしれないですね。ギターって、自分で音を出すのがすごく楽しい楽器なんです。ひとつのメロディでも、アコギで弾いた場合と、エレキでがっつり歪ませてサステインを効かせて弾いてみた場合というように、違う発想で試し始めるともう止まらなくて。特にエレキの場合は弾いているうちにイメージがどんどん広がってきて、曲作りを始めたつもりが、いつの間にか音作りになってしまうこともしばしば(笑)。そこがまさにギターの魔力で、時間がいくらあっても足りないんだけど、こんな楽しいことを仕事としてやっていられてよかったな、と思います。私は今年でデビュー50年になるのですが、いまだに新しい発見がたくさんあるんですよ。最近はSNSで仲間のギタリストとやりとりする機会も増えたのですが、その中で新しい奏法を知ったり、弾き方のヒントをもらったりすることも多くて、本当に終わりのない世界だな、と思いますね。
ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたいと思っています。毎日、最初にギターに触れるときは「はじめまして」、音が出たときには「ありがとう」と心の中でつぶやくんです。その気持ちが表現となってお客さまに届いたら、自分の素直な音が出せた証なんじゃないかな、と思います。でも一方では、みんなが驚くようなことをやってやろう!なんて考えちゃう自分もいて。それもギターの魔力ですね。

渡辺香津美〔わたなべ・かずみ〕
名実ともに日本が世界に誇るジャズギタリスト。17歳で衝撃のアルバムデビューを果たし、驚異の天才ギタリスト出現と話題になった。以来、ソロ活動のほか、坂本龍一と結成した伝説のバンド〈KYLYN(キリン)〉をはじめ、国内外のトップミュージシャンと共演し、ジャズのフィールドにとどまることなくギターの可能性を探求し続けている。近年はクラシックギター界からの委嘱作品も好評を博している。
オフィシャルサイト

特集

今月の音遊人 押尾コータロー

今月の音遊人

今月の音遊人:押尾コータローさん「人は誰もが“音で遊ぶ人”、すなわち“音遊人”なんです」

19846views

ポール・ロジャース

音楽ライターの眼

ポール・ロジャース、大病を乗り越えて新作『Midnight Rose』で完全復活

4326views

楽器探訪 Anothertake

【モニター募集】37鍵ピアニカに30年ぶりの新モデルが登場!メロウな音色×おしゃれなデザインの「大人のピアニカ」

28116views

バイオリン

楽器のあれこれQ&A

アコースティックからサイレント、エレクトリックまで多彩なバイオリンを楽しもう!

935views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12105views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

19115views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

16424views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8770views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

37328views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

6947views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5301views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11857views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

12306views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15587views

音楽ライターの眼

メトロポリタン歌劇場の130年のドラマを詳細に描き出した著作が登場

3136views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

4789views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

12540views

楽器探訪 Anothertake

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

4645views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

11558views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

9667views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

9760views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8114views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11857views