今月の音遊人
今月の音遊人:城田優さん「音や音楽は生活の一部。悲しいときにはマイナーコードの音楽が、楽しいときにはハッピーなビートが頭のなかに流れる」
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クラシックをはじめとする多彩なジャンルの音楽を演奏し、様々なメディアへの登場や執筆など、幅広い活動を通してピアノの魅力を伝え続けるピアニストの大井健さん。2021年12月6日には、ビルボードライブ横浜にて、西川悟平と初のスペシャルライブを開催。マルチに活躍し続ける大井さんにとっての音楽をお聞きしました。
これまでの人生で一番多く聴いた曲は、ショパンの『バラード第4番』です。小学校6年生の夏休み、住んでいたドイツから一時帰国した際に、祖父が誕生日プレゼントでCDを買ってくれたのがはじまりです。3枚買ってくれたうちの1枚がヴラディーミル・アシュケナージの『ショパン:4つのバラード/4つのスケルツォ』だったんです。ただ、もともと『バラード第1番』を聴きたくて買ってもらったので、第4番はあまり聴いていなかったんです。この曲と衝撃的な出会いを果たしたのは中学1年生になってからでした。
当時僕はイギリスに住んでいたのですが、部活 の対外試合があってマイクロバスで移動していた帰り、買ってもらったCDを聴きながら眠ってしまったんです。はっと目が覚めたら、外はどしゃぶりの雨。その時聴こえてきたのが『バラード第4番』の第1主題でした。窓から見える風景と音楽があまりにもマッチしていたのと、曲の世界観の深さに圧倒されてしまい、一気に引き込まれてしまいました。もちろんそれから他にもたくさんいろいろな曲を聴いてきましたが、この曲については確実に“一番聴いた”といえる理由があります。実は高校生の時、音楽評論家になりたいと思った時期があり、ありとあらゆるピアニストの演奏で『バラード第4番』を聴き比べてレビューを書く、ということをしていたんです。少なくとも5、60種類の演奏を何度も聴きこみました。このときの経験は今の音楽人生において、とても重要なものになっています。
自分にとって、「音楽」は言葉や文字であらわせない感情表現のための大切な手段だと思っています。言葉を話すときにも“音”は発しているのですが、言葉を介する場合は、ある程度、対話する人たちの共通理解やロジックのもとで成り立つものですよね。でも音楽なら、感情を直接、何の前提や理屈もなしに語り掛けることができるんです。僕自身も演奏することで、曲に対する想いや自分の感情を伝えようとしています。もちろんそれは簡単なことではないけれど、だからこそ素晴らしいですし、演奏し続ける理由にもなっています。
音楽を愛する人はすべて「音で遊んでいる」のではないでしょうか。プロとかアマチュアということを抜きにして、音楽にはその人自身があらわれますよね。普段話しているときには見えてこない、違った一面も見えてきます。僕自身があまり厳格な音楽教育を受けずに育ってきたので、もともと演奏することは“戯れる”とか“楽しむ”ことだと思っているんです。だからその人らしい音楽が聴こえてくるととても幸せな気持ちになります。以前コンクールの審査をする機会があったのですが、演奏を聴いていると、本当にたくさんの人が音を楽しんでいるなと感じられ、とても嬉しかったです。
もし、具体的に誰かを挙げるとしたらジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーさんでしょうか。僕がジャズを好きになるきっかけを与えてくれた人なんです。たまたまレコード屋さんの視聴コーナーで彼の曲を聴いて、ハートを撃ち抜かれてしまいました(笑)。来日された際には必ずリサイタルに行きますし、お話をさせていただいたこともあります。メルドーさんがアレンジして演奏しているオアシスの『ワンダーウォール』は『バラード第4番』の次に多く聴いているかもしれません。
大井健&西川悟平 Merry Christmas For You
日時:2021年12月6日(月)
・1st ステージ 14:30開場/15:30開演
・2ndステージ 17:30開場 / 18:30開演
会場:ビルボードライブ横浜
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文/ 長井進之介
photo/ 坂本ようこ(2枚目)
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