今月の音遊人
今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」
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ここ数年は元日にアルバム2作品を同時リリース、2021年1月1日には3タイトルを同時発売し、ビッグなお年玉を届け続けてきた神保彰。2022年の年明けを待たず2021年12月22日にリリースされたニューアルバム2作『SORA』『アメアガリ』は、ファンにとって最高のクリスマスプレゼントになったに違いない。
今回の2作で、神保は1年に合計5作のソロアルバムをリリースしたことになる。それだけでも偉業だが、加えて新作のたび魅力で魅力を塗り替えるのが神保だ。
「今回の作品は、シフトを変えてみようということになりました。そこで出てきたキーワードのひとつがAOR(Adult Oriented Rock)。これまでのアルバムはラテンやファンクがベースでしたが、自分が学生バンドからプロになる過渡期に大きな影響を受けたAORに焦点を当ててみようと思いました」
AORフィーリングにあふれた本作。タイトルチューンの『SORA』は、さわやかで気持ちが晴れ晴れとするような曲に仕上がった。
また、神保にとってAORを代表する一曲であるマイケル・フランクスの1977年の大ヒットチューン『アントニオの歌(Antonio’s Song)』も聴きどころのひとつ。世界最高峰のベーシスト、ネイザン・イーストがベースのみならず、ボーカルも担当している。
「オリジナルアルバムでカバー曲を取り上げるのは、実は今回が初めての試みです。これもシフトを変えてみた一環です」
もうひとつのカバー曲は、パトリース・ラッシェン『Forget Me Nots』(1982年)。
「昔の曲をやりたがらないアーティストも多いですし、ましてやセルフカバーではなく人のアルバムでやるわけです。オファーするのに勇気が要りましたが、快諾してもらえました」
ベースはオリジナルトラックでも弾き、ネイザンとともにロサンゼルスのスタジオシーンを代表するフレディ・ワシントン。ドラム以外は、オリジナルメンバーだ。
ほかにもジェフ・ローバー(ピアノ)ら豪華ミュージシャンがレコーディングに参加している。いずれも神保とは親交が厚い面々であり、長きにわたって最先端を走り続けてきた彼の音楽活動の幅広さと奥深さを、ここにも垣間見ることができる。
一方のアルバム『アメアガリ』は、自身のドラムとプログラミングによるソロアルバム。革新的チャレンジに満ちた書下ろし11曲が収録されている。“正しくずっこける”がマイブームだといい、本作にもその魅力が詰まっている。
「2000年代に入ってから、ヒップホップの世界では面白い試みがどんどんなされてきたんですね。そういったものは聴いていましたし、面白いと思ってはいたのですが、そのコンセプトを自分の演奏の中に取り入れようとは思っていなかったんです。ところが、ドラマーのレニー“ジ・オックス”リースの演奏動画を見て、衝撃を受けました。ハマらなさ加減が半端ないというか、見事にハマっていない。でも、トータルで見るとめちゃくちゃカッコイイ。それから、本格的に研究するようになりました。気ままにずらしているわけではないんです。必ず法則性があるんですけれど、どういう法則性でずれている感じを出すのか。そういうことがわかってくると非常に面白いんですよ」
“上手くずっこけられた”と1曲目に選んだのが表題曲の『アメアガリ』。デタラメなようでデタラメじゃないギリギリを狙った『シャボンダマ』。本作での推し曲を聞いてみると、「『イノリ』はリズムがヨレヨレで、聴き方によっては下手な人が叩いているみたいな感じなんですけれど。意図してつくった揺れを気持ちいいと感じてもらえたら嬉しいです。『カゼノウタ』は、アップテンポのドラムンベース的なリズムで、面白い感じに仕上がったかな。『カエリミチ』は、地軸が捻じ曲がったようなリズムの面白みを試してみた曲。『コモレビ』はバラードでゆったりした曲なのですが、実はドラムは3倍速でものすごく細かく叩いているんです。ただそういうふうに聞こえないと思うので、ドラマーにしかわからない持ち味がある曲です。あれ?推し曲が全部になってしまいますね(笑)」
お気づきの通り、アルバムタイトルから各曲名まですべてがカタカナ表記であり、これもシフトのひとつ。
「インストゥルメンタルの曲というと、タイトルは英語という刷り込みのようなものがあったんですけれども、シフトを変えてそういった概念を外してみようと。カタカナって世界的に人気があって目になじみのあるフォントだし、カッコイイと思って」
鬱々とした気分を払拭したい。そんなイメージでつくった『SORA』。早く日常が戻ってきてほしいという願いを込めた『アメアガリ』。
最後に、読者へのメッセージをお願いすると「今はトンネルの中にいますが、続けることで先が見えてくると思うので、みんなでがんばりましょう。それが僕からのメッセージでしょうか。でも、がんばろうと思ってもその気力が出てこないこともありますよね。このアルバムで、少しでも気持ちが軽くなると嬉しいですね。ぜひ聴いていただきたいです。あれ、これじゃあメッセージじゃなくて宣伝ですね(笑)」
停滞しがちな世の中にあって、チャレンジングで新しいサウンドが心を動かしてくれる。
アルバム『SORA』/『アメアガリ』
発売元:キングレコード
発売日:2021年12月22日
価格:各3,300円(税込)
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●ファンと一緒につくる。PYRAMIDアルバム制作プロジェクト
ギタリストの鳥山雄司、ドラマーの神保彰、ピアニストの和泉宏隆により結成されたユニット「PYRAMID」が、新たなアルバムの制作に向けてクラウドファンディングに挑戦。アルバム制作から世の中に届けるまでの過程を一緒に体験いただき、“ファンと共につくる”アルバムを制作します。(2022年3月18日締め切り)
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文/ 福田素子
photo/ 遠藤慶太郎
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