Web音遊人(みゅーじん)

KOBUDO-古武道-

異ジャンルトリオ「KOBUDO―古武道―」のアコースティック・コンサート/チェリスト・古川展生×ピアニスト・妹尾武×尺八奏者・藤原道山

「KOBUDO―古武道―」は「クラシック×ポップス×邦楽」による新たな創造を追究する、唯一無二のトリオ。メンバーは、チェリスト・古川展生×ピアニスト・妹尾武×尺八奏者・藤原道山。

2023年2月27日に開催されたアコースティック・コンサートは、2022年に15周年の節目を記念して発売したアルバム『光』や、1st.『KOBUDO』、2nd.『風の都』、4th.『イツクシミ』、5th.『OTOTABI -音旅-』などからのクラシックやオリジナルを軸にしたプログラム。全般クラシックの難曲演奏が際立っていたが、なかでも特に印象深かった演奏をご紹介しよう。

ホルスト『ジュピター』で、パワフルにスタート。ピアノの高音アルペジオに誘われて、インパクトのある旋律をチェロの重低音が力強く歌い始める。尺八の中高音旋律が、天上を駆け巡り、空間が広がる。無限の宇宙に心が放たれていく爽快感。『光』の収録曲だ。

KOBUDO-古武道-

続く、エルガー『チェロ協奏曲』の第3楽章は美しいバラード。静かな夕景を連想するチェロの深い音やピアノの低音ベース進行に、フルートのような柔らかな音色の尺八が寄り添う、やがて「一条の光」を思わせるピッコロに似た明るい音に変化して……。アルバムのテーマ「光」が浮き立ってくる。

次いで、ギターの名曲ロドリーゴの『アランフェス協奏曲』第2楽章。3人の旋律のバトンタッチが見事だ。道山は、傍らの台に並べた長さの違う尺八7本から、音域に合ったものを手際よく持ち替えて演奏。一尺八寸の基本の長さのものだけでは補えないので、曲に合わせて複数用意しているのだ。音色のニュアンスも素晴らしい。チェロとピアノのハーモニーが哀愁をかきたて、圧巻である。2013年の『OTOTABI』収録曲だ。

各自のソロを経て、ショパンの『革命』ときた。ピアノの高速パッセージが爆音のようにうなり続けるなか、地をはうようにチェロの低音が前線を伺い、尺八が民衆の叫びをあげる。壮絶なコントラストで爆走する3人。和洋楽器トリオならではの迫力だ!

そして、妹尾が敬愛するラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』。『KOBUDO』に収録し、ライブでは第3楽章の終盤も盛り込んだ華やかなアレンジで演奏してきた十八番である。憂いをまとったロマンチックな世界が満ちていく。15年の積み重ねが輝きを発する演奏。『光』にも収録してある。

KOBUDO-古武道-

休憩をはさんで後半。ラヴェルの『亡き女王のためのパヴァーヌ』は、道山が繊細かつ優雅な高音の旋律を、持ち替えながら奏でる。チェロの深遠な響きがこれを支え、ピアノがラヴェルの色彩豊かな世界をさらに演出。古川のチェロは、共演者とのバランスが常に絶妙だが、この曲など俯瞰(ふかん)している感じがする。ノスタルジックな音空間が広がって、聴衆を包み込んでいく。

次いで、ガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』では、道山は持ち替えだけでなく、独自の「腿上げ奏法」も駆使。尺八は竹管の前面に孔が4つ、背面に1つあるだけのシンプルな楽器なので、孔を半分とか4分の1とか工夫して指で押さえ、息使いや首の振りと組み合わせて演奏する。だが、それでも出ない音は、片足の太腿を上げて、尺八の端に当てて調整して吹いているのだ。取材で初めて知ったときの驚きは、忘れられない。体幹をキープしての「神業」だ。

そして、フィナーレの『リベルタンゴ』。和音階で始まる独自の編曲で、ピアノが熱くリズムを刻み、尺八の枯れた音を生かした間奏などで「和の情念」を絞り出す。幸せの一歩手前で見失いそうな危うい恋を、チェロが低い声で切々と物語るかのよう……。息の合ったハイテンションの演奏と妹尾のアレンジに拍手喝采となる。

他に、個性的なオリジナル曲の演奏も複数あった。例えば、闇夜に点滅するホタルや水面のきらめきをアルペジオで表現した妹尾の『HOTARU』の繊細な情景美、道山が1メートル近くありそうな長い尺八を、大きな息使いでザアーッと鳴らして、瀧の瀑布やしぶきを表現する『瀧~Waterfall~』など、バリエーション豊かなプログラム。観客は大満足の様子だった。

KOBUDO-古武道-

 

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍は『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」など。新刊『絆の極み』~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~絶賛発売中!
Lucie 原納暢子

photo/ Ayumi Kakamu

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:家入レオさん「言葉に入りきらない気持ちを相手に伝えてくれるのが音楽です」

7696views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase15)ブルックナー生誕200年、「交響曲第3番」第1稿の怪物性、ワーグナーファンの受難

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase15)ブルックナー生誕200年、「交響曲第3番」第1稿の怪物性、ワーグナーファンの受難

1022views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

6104views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17069views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12311views

テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

オトノ仕事人

【サインCDプレゼント】テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

15149views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19068views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8594views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

19417views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

4830views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

5864views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25066views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15320views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10000views

音楽ライターの眼

連載23[ジャズ事始め]ジャズを“流行りもの”ととらえなかった者たちが選んだアメリカ行きに秘められた理由とは?

2102views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7211views

上海ブラスバンド日本支部

われら音遊人

われら音遊人:上海で生まれた縁が続く大家族のようなブラスバンド

2129views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

6104views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10336views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8114views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

18306views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6816views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9904views