今月の音遊人
今月の音遊人:世良公則さん「僕にとって音楽は、ロックに魅了された中学生時代から“引き続けている1本の線”なんです」
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あたたかみのある伸びやかな音色で聴衆を魅了するフリューゲルホルン。この度、個性の異なる2つのカスタムモデルが2人の世界的アーティストの監修によって生まれ変わり、表現の幅がさらに広がりそうだ。
金管楽器の一つで、一般に知られるものは多くのトランペットやコルネットと同じB♭(変ロ調)管のフリューゲルホルン。専門の奏者は少なく、トランペット、コルネットと持ち替えで吹かれることが多いが、柔らかく深い響きの音色は唯一無二の魅力がある。
幅広いジャンルで吹かれるヤマハのフリューゲルホルンのなかで、第一線で活躍するプロの奏者も愛用するカスタムモデルが、2022年、12年ぶりにモデルチェンジを実施。トランペット界の巨匠であるボビー・シュー氏が監修する「YFH-8310Z」と、ビッグバンドなど幅広いフィールドで活躍するウェイン・バージェロン氏が監修する「YFH-8315G」の2つのモデルが、ヤマハの最新技術と工法によって大きく進化を遂げた。
モデルチェンジの発端は、2018年にボビー氏監修のトランペットをモデルチェンジした際、開発担当だった和田幸平さんが新たに設計したバルブケーシングにある。「新設計のバルブケーシングを搭載したトランペットは、ボビーさん、ウェインさんをはじめとする多くの奏者から支持を得ることができました。そうした背景から『同じ技術、工法を使ってフリューゲルホルンのバルブケーシングもつくりたい』という声が上がり、今回のモデルチェンジにつながりました。なおフリューゲルホルンとトランペットではピストンの仕組みが異なりますが、バルブケーシングで吹奏感や音色の方向性を揃えることで、2 つの楽器の持ち替えがよりスムーズになることは重要と考えました」と語るのは、トランペットとともにフリューゲルホルンの開発を手がける和田さん。
新設計のバルブケーシングの優れた点は、剛性の高さ。奏者が吹き込む息を管体がしっかり支え、効率良く音に変換することで、粒立ちの良い音が鳴るという。
「フリューゲルホルンは柔らかい音色が特徴ですが、柔らかすぎると音の輪郭がぼやけてしまい、ピッチ(音の高さ)を合わせにくくなります。今回のモデルチェンジではバルブケーシングの剛性を上げることで、柔らかさのなかにも芯のある音を実現することができました」(和田さん)
開発の方向性を決めたポイントの一つが、バルブケーシングのトップキャップ・ボトムキャップの仕様の変更だ。
「バルブケーシングだけでなく、キャップの仕様も変えることで吹奏感や音色にどう影響するかは未知数でした。まずは試作品をつくってボビーさん、ウェインさんに試奏してもらい、判断を仰ぐしかないと思い、キャップの仕様を変えないもの、キャップをはめる管の部分のサイズ(直径)を広げたものなど1モデルにつき4種類(2つのモデルで8種類)つくり、評価がいちばん高かったものをベースに開発を進めました」(和田さん)
2つのモデルは同時に開発が行われ、発売も同日だが、音色や吹奏感などの特徴は大きく異なる。
2つのモデルの個性を分ける要素はいくつかあるが、見た目にわかりやすいのが、チューニングで抜き差しするリードパイプを固定するためのスクリュー(ネジ)。ボビー氏監修の「YFH-8310Z」は真鍮、ウェイン氏監修の「YFH-8315G」はフォスファーブロンズと異なる素材を使い、形状やサイズも異なる。
「実は開発の途中まで、どちらのモデルのネジにもフォスファーブロンズを採用する予定でした。ですが、ボビーさんからほかの選択肢も試してみたいというリクエストがあったため、素材・形状・重量・表面処理を変えた16種類の試作品をつくり、どれがベストか再評価してもらいました。一方ウェインさんは、最初に提示したフォスファーブロンズのネジを気に入ってくださり、形状違いのものも試してもらいましたが『やっぱり最初のものがいい』となりました。お二人の反応が対照的だったのが印象的でした」(和田さん)
管楽器は、小さなネジ一つで吹奏感や音色が変わってくる。だが逆にいえば、料理におけるスパイスのように、パーツによってその楽器の特性をより際立たせることもできると和田さんは教えてくれた。
今回の開発が始まったのは2020年の春、世界がコロナ禍に突入したタイミングだった。
「ボビーさん、ウェインさんがいるアメリカに渡航できないばかりか、自宅から出ることさえままならない状況でした。お二人とはそれぞれオンラインでやり取りし、試作品の評価もオンラインで行いました。試作品の音を生で聴くことが難しいなか、アメリカにいるスタッフがお二人の感想、要望をわかりやすい形で伝えてくれたり、オンラインで録った演奏の音源や詳細な評価レポートを送ってくれたりしたおかげで、開発をスムーズに進めることができました。アメリカのスタッフとのチームワークがあったからできた、今回のモデルチェンジだったと思います」(和田さん)
一般的な知名度は低いものの、トランペットにはない甘い音色にファンが多く、幅広い音楽で輝きを見せるフリューゲルホルン。最後に、開発者から見たフリューゲルホルンの魅力を聞いてみた。
「トランペット奏者がフリューゲルホルンに持ち替えたとき、トランペットのときにはない演奏表現が見られたり、同時に、楽器が変わっても共通する点を発見できたりするところが魅力だと思います。また、フリューゲルホルンの専任の奏者がいるのがブラスバンド(英国式金管バンド)です。ソロパートも多く、フリューゲルホルンにしか出せない美しい音色を堪能できますので、ぜひ一度演奏を聴いてみてほしいです」(和田さん)
2人の世界的アーティストとタッグを組み、多くの試作、試奏を経て完成した2つのカスタムモデル。世界のステージで奏者と一体となり、聴衆を魅了する音楽を聴かせてくれることだろう。
※脚注は下記参照
②バルブケーシング
楽器の心臓部といわれ、吹奏感や音色に大きく影響する重要なパーツ。素材、加工精度の改良を重ねた新設計のバルブケーシングは、剛性の向上により、息を吹き込んだときの心地よい抵抗感、レスポンス(反応)の良さを実現。ジャズにおいて重要なハイノート(高音域の音)も、芯のある粒立ちした音を鳴らすことができる。
③トップキャップ・ボトムキャップ
バルブオイルを差すときなど、日々の手入れで着脱するトップキャップとボトムキャップ。キャップの内側のネジの仕様を変更し、キャップをはめる管の部分の直径をわずかに広げることで、取り外し・取り付けがしやすくなっている。
ベルの加工法の違い
ベルの加工法は吹奏感や音色を左右し、楽器の個性を特徴づける重要な部分。2モデルはそれぞれ加工法が違うので、音色の特徴も異なる。
YFH-8310Z(1枚取り):1枚の金属板を筒状に丸め、職人が何度もたたいて成形する。ベルの厚みがフレア側(太い側)に向かって薄くなるため、息の抜けが良く、柔らかな音色になる。
YFH-8315G(2枚取り):ベル先端部分と胴部を別々につくり、溶接するベル。ベルの厚みがフレア側(太い側)で厚くなるため、吹き応えがあり、重厚感のある音色になる。
ボビー・シュー氏との密な連携により誕生したYFH-8310Zは、伝統的なフリューゲルホルンでありながら、輝きと軽快さを兼ね備え、大きく進化を遂げた楽器だ。安定した高音域と豊かな音色は、新たな音楽表現を可能にする。スタジオだけでなく、ジャズのライブ会場でもその独自のキャラクターが際立つモデルとなっている。
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ウェイン・バージェロン氏を開発協力者に迎えたYFH-8315Gは、新しいスタイルを追求する革新的なモデル。ヤマハフリューゲルホルン史上最も重量のあるリードパイプスクリュー(フォスファーブロンズ製)を採用するほか、ゴールドブラス二枚取りベルと、長めで剛性を増したリードパイプが、ふくよかで存在感のある音色を醸し出す。
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文/ 武田京子
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tagged: 楽器探訪AnotherTake, フリューゲルホルン
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