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クラシックとジャズの若き俊才サックス奏者、待望の初共演が実現!/齊藤健太 × 馬場智章 Special Saxophone Night
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2023.4.12
クラシックとジャズの垣根を越えたファンの夢は、この日、現実となった。それぞれの音楽界が注目する俊才、齊藤健太と馬場智章の豪華共演。当初は2022年12月3日に開催予定だったが、出演者の体調不良で延期。それから約2か月後の2023年1月29日、ついにヤマハホールの舞台が整った。
クラシックの齊藤は、2019年に難関アドルフ・サックス国際コンクール(第7回)で優勝を飾り、ソロ、室内楽、協奏曲と多忙を極める真っ只中。ジャズの馬場も、アメリカの名門バークリー音大に全額奨学生として留学後、多くの録音やイベントに引っ張りだこ。2022年には、大ヒット漫画を映画化した『BLUE GIANT』の主人公の演奏部分を、国内外の名手が集まったオーディションで満場一致で射止めたことでも話題になった。
そんな彼らは同年代でお互いに意識し合っていたが、楽器のメンテナンス担当者が同じという縁で昨年4月に邂逅。奏法や音楽の作り方の違いを知りたいという思いからやりとりが始まり、今回の共演に繋がったそうだ。 この夜の前半は、齊藤と馬場が各々ソロを披露した。
最初に登場した齊藤は、ピアノのAKIマツモトと共に、J.S.バッハの『フルートと通奏低音のためのソナタ(BWV.1035)』を演奏したが、ふくよかな桜のような原曲とは異なる、筋が通って情味も備えた梅のような音世界を聴かせてくれた。 続いては、馬場による5曲。まずは、無伴奏曲の棚田文紀『ミステリアス・モーニングⅢ』を圧巻の超絶技巧で一気に駆け抜けた後、ピアノの壷阪健登が加わり、陽気で洒脱なモンク『Four in One』と、淡くノスタルジックなグリーン『Body and Soul』、馬場の自作曲で、夜の高速道路のように研ぎ澄まされた『Low Altitude Flight』を披露。以上約25分の演奏時間で夜明けから深夜までの一日が走馬灯のように展開されていたのが圧巻だった。
冒頭の『Over The Hill』は、齊藤、馬場、壷阪に、ベースの小川晋平とドラムの小田桐和寛が加わった五重奏で、トリを飾った『UNTITLEÐ』は、さらにマツモトがピアノで加わり、壷阪がキーボードに弾き替えての六重奏。前半に比べて音色とリズムのパレットが格段に増加したこともあり、シャープな齊藤と天衣無縫な馬場の対照が際立ちつつ、時に絶妙なマリアージュも見せながら、まさに曲名通り「UNTITLEÐ=無題」の新たな地平がどんどん広がってゆく。そして同じく馬場の新作で、アンコールに置かれた『Journey to Home』の優美な歌と掛け合いの数々。以上3曲とも終演後に贈られた割れんばかりの大喝采は、その感動刷新に対する衝撃と感謝だけでなく、一日も早い再共演を願う聴き手たちの祈りの大合唱のようだった。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。