今月の音遊人
今月の音遊人:児玉隼人さん「音ひとつで感動させられるプレーヤーになれるように日々練習しています」
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“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」
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2023.8.31
tagged: サイレントブラス, 楽器探訪AnotherTake, SBJシリーズ
音量をささやき声程度に抑えながら、いつもの吹奏感と、リアルな音色で演奏できる金管楽器専用の消音システム「サイレントブラス」。
さらに磨きがかかった音質と、利便性の高い機能で楽器演奏や音楽の楽しみ方を広げてくれる。
1995年に初代モデルを発売して以来、金管楽器奏者の自宅練習をサポートしてきたサイレントブラス。2023年5月、2013年のモデルチェンジからおよそ10年ぶりに、ミュートを装着しない楽器本来の音と響きを再現するパーソナルスタジオを一新。パーソナルスタジオの新モデル「STJ」と、ピックアップミュートをセットにした「SBJシリーズ」として生まれ変わった。その背景には、ここ数年のコロナ禍によるライフスタイルの変化があったという。
「外出がままならず自宅で金管楽器を吹く人が増え、音量を落とせるサイレントブラスの需要が高まりました。ただオンラインレッスンやYouTubeへの演奏動画の投稿をしようとすると、パソコンとつなぐための機器を別に用意し、ひと手間かける必要がありました。『USBケーブルでパソコンとつなげられたら便利だな』という発想が出発点となり、開発が進んでいきました」と語る、戦略企画の鰕原孝康さん。
パソコンとつなぐことを想定するにあたり、オンラインレッスンの先生や演奏動画の視聴者に聴かせるためのサウンドモードを新たに開発。用途に応じて、奏者が聴くための「プレイヤーモード※1」と、視聴者に聴かせるための「オーディエンスモード※2」を切り替えられるようになった。
※1 プレイヤーモード:楽器を構えたときのベルの位置、向きなどを含め、奏者が自然に感じる音を再現。練習に適したモード。
※2 オーディエンスモード:聴き手の左右の耳に音が届くタイミング、音量、音色の差を調整し、客席で聴いているかのような音を再現。演奏音をパソコンなどに取り込み、出力するのに適したモード。
音づくりの鍵を握るのは、2013年のモデルチェンジより採用されているヤマハ独自の音響技術「ブラス・レゾナンス・モデリング※3」。この技術を生み出し、今回の開発で音づくりのディレクションを担当した篠田亮さんが教えてくれた。
※3 ブラス・レゾナンス・モデリング:音のこもりを補正し、ミュートを付けていない状態の音色を再現する音響技術。今回の開発では、対応するさまざまな金管楽器の音響特性を改めて見直し、より自然な音色を実現している。
「ブラス・レゾナンス・モデリングは、あくまでも奏者自身に心地良い音を届けるための技術ですが、“奏者の耳に届く音”と“聴衆の耳に届く音”は異なります。オンラインレッスンや演奏動画の投稿をする際は、楽器から離れたところにいる人が聴く音が必要になりますので、視聴者用のサウンドモードを新たに開発し、搭載することになりました。なお、もともとあった奏者が聴く音(プレイヤーモード)にも磨きをかけていますが、ここ10年のデジタル技術の進化もあり、それぞれの楽器の音響特性を踏まえた音の表現力がさらに上がりました」(篠田さん)
サイレントブラスは、さまざまな金管楽器に対応している。ひとつの楽器につき「プレイヤーモード」と「オーディエンスモード」の2つを搭載するため、合計12種類の音づくりをする必要があった。
音づくりにおいては、ヤマハの金管楽器の設計者、レコーディングエンジニア、そして開発チームが集結。プロのアーティストの試奏評価を何回も得ながら音色を決めていったという。
「楽器によって異なるベルの位置や向き、管の長さ、テーパー(管の広がる角度)など、音響特性を踏まえた音づくりをしたつもりでも、なかなかリアルな音と響きが再現できず苦労しました。また今回の開発では音のリアルさ、生々しさを追求しましたが、プロのアーティストの評価は高くても、社内のアマチュア奏者からは『もう少しふくよかな音のほうが楽しく練習できる』といった意見があり、音のリアルさと、さまざまな奏者の聴き心地の良さのバランスをどう取るか試行錯誤を重ねました」と語るのは、楽器の音響特性測定や音の加工・調整を担当した秋山愛美さん。
また同じ金管楽器奏者でも、演奏する音楽ジャンルによって音の捉え方や音に対するイメージが違うことも重要な要素となった。
「私はジャズ系のバンドでトランペットを吹いていますが、クラシックや吹奏楽の奏者とは音に対するイメージが全く異なります。オーディエンスモードで聴衆が聴く音についても、ジャズ系の奏者はベルの前にマイクを置いた生々しい音、クラシックや吹奏楽の奏者はコンサートホールの客席で聴いているような柔らかい音をイメージします。今回の開発で、異なるふたつの音のイメージを共存させる際ポイントになったのは、無段階で調整できるよう改良したリバーブです。奏者自身で細かい響きの設定をすることで、自分の音のイメージにより近づけることが可能になりました」(篠田さん)
加えて、実は多くのこだわりが詰まっていると明かしてくれたのが、音の出口である付属のイヤホン。
「当初は音づくりの開発チームで試行錯誤していましたが、納得できる音質にならず、ヤマハのイヤホン・ヘッドホンの開発チームに監修を依頼しました。ヤマハのイヤホン・ヘッドホンの技術、知見が盛り込まれており、サイレントブラス専用のチューニングを施すことで、高音域を中心に、音の鳴りと響きが格段に良くなりました」(篠田さん)
さらに奏者にとっての心地良い響きを考え、耳を完全にふさがない形状(インナーイヤー型)を採用し、オンラインレッスンで便利なマイク機能も搭載。細部に至るまで、使い手のことが考えられている。
迫力ある輝かしい響きが金管楽器の魅力だが、防音設備のない自宅で吹くのは難しい。時間や場所を気にせず楽器を吹けるようになることは、全ての奏者の切なる願いだ。
「金管楽器は奏者の唇が発音源で、全身を使って音を出し、音楽を表現できるところが魅力だと思います。ただ、思い切り音を出したくても自宅では難しく、音量を加減しながら吹いても楽しくない……。そんな奏者のジレンマを解決するサイレントブラスは革新的な製品で、ミュートを付けていないかのような自然な吹奏感と、さらに良くなった音質で演奏することができます。ぜひ日々の練習、演奏に役立てていただきたいです」と、マーケティングを担当する堀場信明さん。
また新しい「SBJシリーズ」は、パソコンやスマホなどのデバイスとつなぐことで、練習用ミュートの枠を超えた楽しみ方ができる。
「自宅で、ひとりで楽器を吹いても、得られる楽しさには限界があると思います。パソコンと直接つなげられる『SBJシリーズ』は、遠方の先生のオンラインレッスンを受けたり、演奏動画をYouTubeにアップしたり、ほかの人の録音に自分の音を重ねたり、ケーブル1本で多くの人と音楽の楽しさを共有できます。サイレントブラスが、奏者と世界の人をつなぐハブのような存在になってくれたらうれしいです」(鰕原さん)
サイレントブラスは、金管楽器に触れる時間を増やしてくれるだけでなく、世界中の仲間とつながることで、楽器を演奏する楽しさを無限に広げてくれそうだ。
サイレントブラスとは、「ピックアップミュート」(消音器)と、「パーソナルスタジオ」(ヘッドホンアンプ)から構成される金管楽器専用の消音システム。音量を抑えながら、ミュートを付けていないかのような音と響きを実現する。
①ピックアップミュート
音の出口であるベルをふさぎ、音量をささやき声くらいに抑えるアイテム。管の中に入れた先端部の小型マイクが演奏音を拾い、パーソナルスタジオへ送る。
中央右下にある小さな穴が息の抜け道を作り、心地よい吹奏感を生む。
②パーソナルスタジオ「STJ」
ピックアップミュートで取り込んだ演奏音をリアルタイムでデジタル処理し、音質や音の聴こえ方を調整、イヤホンなどに出力する装置。
③外部機器とつなぐと楽しさが広がる
パーソナルスタジオ「STJ」は、付属のUSBケーブルでパソコンと接続できる。リモート会議アプリを使ってのオンラインレッスンや、無料アプリ「Rec’n’Share」での録音・録画、編集、SNSへの投稿などが手軽に楽しめる。
※スマホ、タブレットと接続する場合は別途アダプタが必要
※写真はトランペット用のサイレントブラス「SB7J」
さらに音質がアップし、USBケーブルの接続が可能になったパーソナルスタジオ「STJ」と、ピックアップミュートをセットにした新シリーズ。パーソナルスタジオ「STJ」は6種類の金管楽器共通のアイテムで、使用する楽器のミュートを接続するとその楽器のプログラムが自動選択されるようになっている。
文/ 武田京子
photo/ 坂本ようこ(1枚目)
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