Web音遊人(みゅーじん)

バーニー・トーメ

バーニー・トーメのCD4枚組アンソロジー発売。ハード・ロックとパンクの“カッコ良さ”を体現したギタリスト

バーニー・トーメの初期ソロ・キャリアを網羅したCD4枚組アンソロジー『Lightning Strikes – Volume One(1982-1983)』が2023年10月、海外でリリースされる。

トップ・ギタリストとしての評価

バーニーは、ハード・ロックとパンク・ロックのあらゆる“カッコ良さ”を体現するギタリストだった。ハードなリフや制御不能のワイルドなリード・プレイなど、ミュージシャン/ギタリストとして才能に溢れていた彼だが、それに加えてロックンロールのギター・ヒーローが持ち備えているべきあらゆる要素を持ち備えていた。スリムな体型のどこから出てくるのかというエネルギーを噴出しながら、白い1962年製ストラトを手にステージ狭しと駆け抜け、ギュイーンとかき鳴らしてポーズを決め、ジャンプを繰り返し、腕をグルグル回す“風車奏法”やギターぶっ壊しも披露する。海賊のようなアイパッチや顔面の稲妻ペイントなどのヴィジュアル・イメージも忘れられないインパクトを持っていた。

バーニー・トーメ

そんなバーニーは1970年代後半から1980年代にかけてハード・ロック界のトップ・ヴォーカリスト達と活動している。元ディープ・パープルのイアン・ギランが結成したギランでは『フューチャー・ショック』(1981)が全英チャート2位になったのを筆頭に、参加したアルバムがすべてトップ20入り。1982年には飛行機事故で亡くなったランディ・ローズの後任としてオジー・オズボーンのバンドに招かれている。1980年代中盤、アメリカ勢の猛攻により息絶え絶えだったイギリスのハード・ロック/ヘヴィ・メタル界が救世主として期待をかけたのがバーニーと元ガールのフィル・ルイスが合体したトーメだった。トゥイステッド・シスターで全米制覇を成し遂げたディー・スナイダーが1990年代に結成した新バンド、デスペラードでバーニーを起用している。

だが、バーニーが真のトップ・ギタリストとして評価されることはなかった。そのギター・プレイ、ステージ・アクション、ヴィジュアルいずれもがド派手だったのに対し、どこか二線級扱いを免れなかったのだ。その理由のひとつとして、あまりに個性的なヴォーカリストと組んできたことで、サイドマン的な扱いを受けたことがあった。主人公たりえる実力とアイデンティティを持ちながら、フロントマンの強すぎるキャラのせいで目立てなかったギタリストということで、デヴィッド・ボウイやイアン・ハンターと活動したミック・ロンソンに近いものがあったかも知れない。

もうひとつ、1980年代はギタリストの技術革新があり、テクニックが重視されたことがあった。1970年代後半にエディ・ヴァン・ヘイレンが起こした革命はエスカレート。イングヴェイ・マルムスティーンやスティーヴ・ヴァイ、一連の“シュラプネル”系の登場により、バーニーのようなロックンロール系ギタリストは時代遅れとなった。ギラン時代の『ノー・イージー・ウェイ』イントロの無伴奏ソロはテクニック的にはエディ・ヴァン・ヘイレンの『イラプション』やゲイリー・ムーアの『ホワイト・ナックルズ』にまったく敵わない。

バーニーが光り輝いていた瞬間を捉えたアンソロジー

そんな因果関係や時代性を取っ払って、ひたすらバーニーの“カッコ良さ”をCD4枚にパッケージしたのが2023年10月、海外でリリースされる『Lightning Strikes – Volume One (1982-1983)』だ。『ターン・アウト・ザ・ライツ』(1982)、『エレクトリック・ジプシーズ』(1983)、『ライヴ』(1984)そして発掘リリースされた『Live Sheffield 1983』(2002)という4枚のアルバムを軸に構成。ハードかつワイルドに弾くロックンロール・ギターが唸りまくり、決して技巧派とはいえないラフなヴォーカルも曲のムードを高めていく。

廉価盤コンピレーション『Back With The Boys』(1985)で初登場となったトラック、2枚組7インチ・シングル『Shoorah Shoorah』(1982)の全4曲、さらに今回が初登場となるトラックを追加して、公式アルバムだけでは感じ取ることの出来ない彼の魅力を捉えている本作。ベティ・ライトの1974年のR&Bヒット曲『Shoorah! Shoorah!(邦題:シューラ!シューラ!)』をカヴァー、当時テレビ番組にも出演するなど、メインストリーム市場での売り出しが図られていたことを窺わせて興味深い。

本作収録の音源を経て、バーニーは元ガールのヴォーカリスト、フィル・ルイスとトーメ名義でアルバム『バック・トゥ・バビロン』(1985)を発表。ソロで発表した『スター』の再レコーディングを含む同作でブリティッシュ・ハード低迷期(アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、デフ・レパードなど一握りの成功者を除く)のホープとして期待されるが、短命に終わっている。フィルが渡米してLAガンズを結成したことは有名な話だが、バーニーはイギリスを活動拠点にコンスタントに作品を発表、ライヴも行ってきた。『Dublin Cowboy』(2017)『Shadowlands』(2018)など後期の作品もハイテンションなハード・ロックンロールアルバムであり、ジンジャー・ワイルドハートの『ヨーニ』(2007)へのゲスト参加などで、より幅広い層のリスナーに聴かれるようになった。

2019年3月17日、66歳でウィルス性肺炎で亡くなった彼だが、最後までロックすることを止めない人生だった。そんな彼がソロ・アーティストとして本格始動、光り輝いていた瞬間を捉えたのが『Lightning Strikes – Volume One (1982-1983)』なのである。

■アルバム『Lightning Strikes – Volume One (1982-1983)』

Lightning Strikes – Volume One (1982-1983)

発売元:Cherry Red Records
発売日:2023年10月27日
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

古澤巌さん

今月の音遊人

今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」

15527views

音楽ライターの眼

ホールの空間を広げるピリオド楽器の“怪”と“快”/珠玉のリサイタル&室内楽 ベートーヴェン初期の室内楽 ~鈴木・小倉・岡本が創る新時代の幕開け~

4900views

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

楽器探訪 Anothertake

【動画】「楽しさ」をまるごと運ぼう!「ELC-02」の分解、組み立て手順

17590views

サクソフォンの選び方と扱い方について

楽器のあれこれQ&A

これからはじめる方必見!サクソフォンの選び方と扱い方について

54673views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16899views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

12566views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

18755views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13422views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8231views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

5398views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6601views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9680views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

9924views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29899views

音楽ライターの眼

煮詰まったジャズを毛虫から蝶へと変態させる可能性がAIには秘められているのか?

2713views

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

オトノ仕事人

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

14745views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6326views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

6416views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8113views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8332views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

40348views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6694views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29160views