今月の音遊人
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今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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2024.5.1
パラグアイで生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごし、ドイツ、ベルギーで音楽を学んだ上野通明さん。世界中で活躍するコスモポリタンであると同時に、日本の文化に根ざした邦人作曲家の作品を取り上げたリサイタルを開催するなど、多様な角度からチェロという楽器の魅力、可能性を探求している若き逸材に音楽への想いをうかがった。
バッハ『無伴奏チェロ組曲』でしょうか。4歳のときに、ヨーヨー・マ『インスパイアド・バイ・バッハ』のビデオを観て、チェロという楽器に魅せられました。ヨーヨー・マがバッハ『無伴奏チェロ組曲』全6曲を弾きながら、アイスダンスなど各界の6人のアーティストとコラボレーションした作品で、「かっこいいな」と憧れました。両親にチェロを弾きたいと何度も手紙を書き、5歳のクリスマスにやっと買ってもらいました。バルセロナで師事した先生に「バッハが弾きたい!」と言ったら、「弾きたいなら弾いてごらん」と、第1番から自由に弾かせてくださいました。2023年、バッハ『無伴奏チェロ組曲』のアルバムをリリースし、ガット弦を張って、温かい人間味のある音色で自分なりの表現を追求しました。バロック奏法にはとくにこだわりませんでしたが、繰り返しのフレーズでは装飾音に変化を加えるなど、ごく自然な優雅さと遊び心を大切にしました。小さいころから多くの名チェリストの録音を聴きましたが、自身の録音の前によく聴いたのは、ギターやバイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバで録音された演奏。様々な楽器の演奏からインスピレーションを得て、この作品の魅力に迫ってみたいと思ったのです。
言葉を使って自分の気持ちを伝えることがあまり得意ではないので、心の中にあるものを、チェロをとおして音楽で伝えられたらと思っています。生まれたときから、母や姉たちが奏でるピアノやバイオリンの音色に包まれて育ちました。音楽があるのが当たり前で、音楽がない人生というのは想像できないです。
「遊ぶ」というと、一生懸命学ぶというより、余裕を持って楽しむというイメージがありますが、プロの音楽家にとっても、そういう要素は必要だと思います。音色の表情を楽しみながら、自由に遊びながら弾く。それが音楽の本質ですよね。オーケストラや室内楽とのコラボレーションでは、相手に合わせてクリエイティブなインスピレーションを刺激されながら演奏しています。それが音楽の醍醐味ですね。
ステージで弾いているときが、とにかく幸せですね。気づいたら演奏が終わっていたというような集中力でコンサートが終わったときは、充実と喜びを感じます。音楽をやっているおかげで世界中の素敵な人々に出会い、たくさんの刺激を受けて自身の糧にしています。なかなかそう多くはないですが、コンサートが終わり、自分の演奏に満足でき、聴いてくださった方たちの反応もそれに呼応していただけたときの幸福感は最高です。
上野通明〔うえの・みちあき〕
パラグアイ生まれ。2009年、13歳のときに第6回若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクールで全部門を通じて日本人初の優勝。翌年2010年、第6回ルーマニア国際コンクール最年少第1位、ルーマニア大使館賞、ルーマニア・ラジオ文化局賞をあわせて受賞。その後も数々のコンクールで入賞し、ソリストとして国内外オーケストラとの共演を果たす。2021年には、ジュネーヴ国際コンクール・チェロ部門で日本人初の優勝およびYoung Audience Prize、Rose Marie Huguenin Prize、Concert de Jussy Prizeと3つの特別賞を受賞。現在は、ベルギーのエリザベート音楽院に在籍し、ゲーリー・ホフマンに師事。主にヨーロッパと日本で活発な演奏活動を行なっている。
文/ 森岡葉
photo/ 宮地たか子
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tagged: インタビュー, チェリスト, 今月の音遊人, 上野通明
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