今月の音遊人
今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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圧巻のパフォーマンスをみせてくれた、今注目の若手ジャズ奏者によるデュオ/Duet SHUTARO × KENTO
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2024.10.17
トランぺッターの松井秀太郎と、ピアニストの壷阪健登。いま最も注目を集める若手ジャズプレイヤーの2人が、2024年8月30日に銀座のヤマハホールでデュオライブを開催した。オリジナル曲もスタンダードも、瑞々しい感性と確かな演奏力で表現してみせる姿に、観客は息をのむばかり。そんな圧倒的なパフォーマンスの様子をお届けする。
ライブはステージの様子が確認できないほどの暗闇からスタート。まさに無と言える状態から、ピアノの音が眩い光のように鳴り出した。曲は壷阪のオリジナル『With Time』。叙情的なピアノの旋律に耳を奪われていると、新たな命が生まれてくるように松井のトランペット鳴りだし、ピアノとともに大河のようなうねりを作り出していく。曲が進むにつれ、ふたりの演奏はどんどんドラマチックに、ますますダイナミックになってゆき、聴くものを圧倒していった。
続く『こどもの樹』も壷阪の作品で、さきほどとは一転、軽快な演奏に緊張がほどける。岡本太郎のモニュメントから着想を得たそうで、元気に力強く音が跳ね響くさまは、まさに無邪気な子どものよう。ピアノが子どものかけまわる動き、トランペットが楽しげな声を模しているようで、楽しい気分にさせられたのだ。
壷阪のデビューアルバム『When I Sing』から2曲を演奏したところで、今度は松井の曲『If』をプレイ。2024年10月に発売される松井のセカンドアルバム『DANSE MACABLE』に収録されるナンバーで、枯れた味わいを放つトランペットのミュート音と、小気味よく鳴らされるピアノが心地よい、オールドタイムな雰囲気の曲だ。ステージのふたりが思い出話に花を咲かせている、そんな趣さえ感じる演奏に、心が温かい感覚で満たされた。
和やかな空気に癒されたところで、壷阪がオリジナルの『Departure』をソロで披露。メロディのドラマ性もさることながら、ピアノという楽器の響き、余韻が実に美しく感じられる。演奏前のMCで「昨年ヤマハホールで行ったソロ公演が、最新アルバムの制作に大きな影響を与えた」と語っていたが、まさにこのホールでの響きを意識したのだろう。
続く『Neapolitan Dance』では松井も加わりデュオで演奏。クラシカルなタッチで演奏したかと思えば、突然高速プレイを披露したり、今度はスウィングしてみせたりと、変化自在の演奏を披露。その確かな表現力に観客は熱烈な拍手をおくり、ライブ前半は終了したのだ。
休憩を挟んでの後半は、松井のソロでスタート。哀愁をまとったメロディをときにむせび泣くように、ときに荒ぶるようにトランペットで歌い上げる。その生々しい演奏に、観客一同心を鷲掴みにされる。終了後、これが即興だと知らされ会場にどよめきがおこったが、無理もないことだ。
そんな才能溢れる松井と壷阪は、ピアニストの小曽根真が主宰する若手アーティスト育成プロジェクト“From OZONE till Dawn”で研鑽を積む仲だが、デュオでライブをおこなうのはめずらしいとのこと。「ふたりならではの会話のようなおもしろさがデュオにはあるなって思います」と松井が真面目に語ると、壷阪が「間違ってもふたりでなんとかしなくちゃいけないからね」と返す。ジョークっぽいニュアンスで言ってはいたが、その“なんとかしなくちゃいけない”も、ふたりにとっては楽しいことなのだろう。
続けての演奏は、松井のアルバムのタイトルにもなっているサン=サーンスの『Danse Macabre』。壷阪が飛び跳ねるように体を動かしながらワルツのリズムを弾くうえで、松井のトランペットが猛々しく、どこか幻想的でもある響きを放つ。その躍動的なパフォーマンスは“死の舞踏”という題名とは裏腹に、溢れ出るような“生(せい)”のエネルギーが感じられたのだ。
続いての演奏は、スタンダードの『For Heaven’s Sake』。松井のフリューゲルホルンが醸し出す深みのある響きと、余白を持たせ語るように鳴らされるピアノが、曲のテーマである狂おしい愛の感情を観客の心の中にも沸き立たせてくれる。
しっとりした雰囲気に包まれたところで、ライブもいよいよ最終章に突入。壷阪が自作の『Prelude No.1 in E Major』をソロで演奏したのに続いて、『Kirari』では松井も加わり、思う存分音を乱舞させていく。トランペットとピアノが寄り添ったかと思えば、“自分の音”をぶつけあったりもする、その様子はスリリングであり、同時に頼もしさも感じたのだ。
熱烈な拍手に応えてのアンコール曲は『Foolin’ Myself』。本編で演奏された『For Heaven’s Sake』同様、ビリー・ホリデイの歌唱で有名なスタンダード曲だが、こちらは路地裏のナイトクラブで演奏しているような親しみのある音色が心地よく、思わず身体を揺らしながら聴き入ってしまった。そんな古き良き時代のジャズも、現在進行形の自分たちのジャズも、豊かな感性で表現してみせる彼らの姿は、ジャズの新時代を、そして聴くものの未来をも照らしてくれているようだった。
飯島健一〔いいじま・けんいち〕
音楽ライター、編集者。1970年埼玉県生まれ。書店勤務、レコード会社のアルバイトを経て、音楽雑誌『音楽と人』の編集に従事。フリーに転向してからは、Jポップを中心にジャズやクラシック、アニメ音楽のアーティストのインタビューやライヴレポートを執筆。映画や舞台、アートなどの分野の記事執筆も手掛けている。
文/ 飯島健一
photo/ Takako Miyachi
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tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, 松井秀太郎, 壷阪健登
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