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【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase63)ヴィヴァルディとアイアン・メイデンの様式美、速弾きとゼクエンツ、短調下行形の和声進行

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase63)ヴィヴァルディとアイアン・メイデンの様式美、速弾きとゼクエンツ、短調下行形の和声進行

「四季」はバロック後期イタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741年)の代名詞といえるヴァイオリン協奏曲集だが、ロック好きには「冬」と「夏」の二季が人気だ。ゼクエンツ(反復進行)を多用し、短調下行形の和声進行で決める。速弾きの見せ場もある。エレキギターで演奏すればヘヴィメタルになる。ヴィヴァルディはアイアン・メイデンやブラック・サバス、レインボーの様式美に通じる。

ヴィヴァルディの「四季」といえば、かつてはイタリアのイ・ムジチ合奏団によるレコードが定番であり、日本でのバロック音楽ブームをリードしてきた。「四季」はヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試みOp.8」 第1~12番のうち第1~4番を成す「春」「夏」「秋」「冬」のこと。それぞれ急-緩―急の3楽章ずつある。爽やかで華やかな「第1番ホ長調RV 269《春》」、「第3番ヘ長調RV 293《秋》」がこれまで人気も認知度も高かったと思われる。

「四季」の「夏」「冬」二季化

ところがハードロックやヘヴィメタルが好きな人には「第2番ト短調RV 315《夏》」と「第4番ヘ短調RV 297《冬》」が向いているようだ。この短調の2作品、特に「夏」の第3楽章プレスト(夏の嵐)、「冬」の第1楽章アレグロ・ノン・モルトは、ロック好きの関心を引くらしく、エレキギターやロックバンドで度々演奏される傾向がある。地球温暖化による気候変動のように「四季」の二季化、それも夏冬の影響力が強まりつつあるか。

「冬」の第1楽章を聴いてみよう。曲は合奏と独奏を交互に繰り返すリトルネッロ形式。バロック期の協奏曲の速い楽章で盛んに用いられた形式だ。「リトルネッロ(ritornello)」とはイタリア語で「反復」を意味し、独奏をはさむ合奏の繰り返しを指す。3分余りの「冬」第1楽章の構成は、合奏①(リトルネッロ①)ヘ短調→独奏①ハ短調→合奏②ヘ短調→独奏②ヘ短調→合奏③変ホ長調→独奏③変ホ長調~ハ短調→合奏④ヘ短調。ヴァイオリン独奏も合奏も転調と変奏を重ねるが、冒頭と中間部、終結部は主調のヘ短調で固めている。


Four Seasons, A. Vivaldi – Winter: I. Allegro non molto – Anastasiya Petryshak

冒頭は8分音符とトリルによる寒さに震えるような合奏。同音連打が音高を変えて反復する。凍える冬を想起させるゼクエンツだ。続くヴァイオリン独奏は属調のハ短調で、技巧的な高速のフレーズを聴かせる。そして合奏を加えつつ、ドミナント(属和音、C)から一気に現れる主調のヘ短調(Fm)の合奏は聴き手に強い印象を与える。この合奏②の和声進行を分析すると「Fm→B♭m→E♭7→A♭M7→D♭M7→Gm7→C7→Fm」。セカンダリードミナント(後続和音の根音を仮の主音と見立てて挟む属和音)やツーファイブ(Gm7→C7などⅡm7→Ⅴ7進行)を含む下行する短調の和声進行だ。

ロック好きを惹きつける3要素

「冬」が聴き手を惹きつける要素は3つ。①ゼクエンツ②速弾き③短調下行形の和声進行。ヴィヴァルディの音楽が持つ典型的な魅力の3要素だ。「夏」の第3楽章プレストも聴いて確かめよう。やはりリトルネッロ形式で、冒頭のト短調(Gm)の合奏から16分音符の音型が音高を変えて反復する。夏の嵐を思わせる高速のゼクエンツだ。続くニ短調(Dm)のヴァイオリン独奏は、短いながらも技巧的な速いフレーズを鳴らす。そして導音の嬰ハ音(C♯)をじりじりと交えてから、最も印象深いニ短調の合奏が始まる。


ANNE-SOPHIE MUTTER – Vivaldi,The Four Seasons Summer Presto

この合奏の和声進行は「Dm→Gm→C7→F→B♭→E♭→A♭M7→G→Bm-5→Cm」。ニ短調の順次下行(Dm→C7→B♭)に加え、後半の「A♭M7(Cm/A♭)→G→Bm-5→Cm」ではト長調三和音(G)を属和音に用いてニ短調からハ短調(Cm)への転調も成し遂げる。次のハ短調の独奏を準備する経過的場面も兼ねているため、この印象深い9小節(10小節目でハ短調にたどり着く)の下行形の合奏は1回しか登場しない。4分の3拍子で8分音符の同じ音型の分散和音による合奏はそれ自体がゼクエンツ風でもある。繰り返し聴きたくなる魅力的な合奏だが、1回だけでも忘れ難い感動を呼び起こす。

ヴィヴァルディの魅力の3要素は、ほかの協奏曲の高速楽章でも聴ける。全12作品から成るヴァイオリン協奏曲集「調和の霊感Op.3」の「第6番イ短調RV356」と「2つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調RV522」の各第1楽章には、より分かりやすい形で短調下行形の和声進行が現れる。ヴィヴァルディの音楽の魅力は、「四季」での標題音楽を先取りしたような自然の描写性、親しみやすい旋律などほかにもあるが、「夏」「冬」の人気からしてロック好きにはこの3要素が重要なはずだ。ではヘヴィメタルやハードロックの名曲も同じ3要素を持っているだろうか。確かめてみよう。

劇的なアイアン・メイデン

まずは英国のヘヴィメタルを代表するアイアン・メイデンのアルバム第1作「アイアン・メイデン(邦訳:鋼鉄の処女)」(1980年)の1曲目「プローラー」(スティーブ・ハリス作詞作曲)。ロックとなればギターのリフ(音型の音高を変えない反復進行、オスティナート)が特徴だ。ホ短調(Em)の「プローラー」では冒頭からの速い8ビートに乗ってギターのリフが登場する。ボーカルはこのリフを旋律にして歌い始める。短3度の狭い音域やトリルを使うリフは異様だが、ここまではまだハードロックの領域といったところだ。


Prowler(2015 Remaster)

ハードロックをより重厚で過激で高速にし、ヘヴィメタルへの変容を実感させるのはギターソロの中間部だ。最初のリフを変形させた新たなリフが執拗に繰り返される。その後、突如として16分音符による3連符のような超高速リフがゼクエンツ風に登場する。このリフはツインギターで音高を変えて劇的に盛り上がる。その先が常軌を逸している。ついに出た、下行するホ短調の循環コード進行「Em→D→C→Bm→C→D→Em」。この循環コード進行に乗って繰り広がられる超高速で技巧的なギターソロ。バイクのエンジンがかかって爆音が響き渡り、猛スピードで疾走し始め、もう止まらないといったノリなのだ。カッコ良すぎる。

「プローラー」のような魅力の3要素は、アイアン・メイデンの「オペラ座の怪人」「ザ・トゥルーパー~明日なき戦い」など数多くの曲で聴ける。ではヘヴィメタルの起源の一つといわれる英国のロックバンド、ブラック・サバスのアルバム第2作「パラノイド」(1970年)のタイトル曲(オジー・オズボーン、トニー・アイオミ、ギーザー・バトラー、ビル・ワード共作)はどうか。ゼクエンツではなくリフ、「Em→C→D→Em」とそれほど下行しない和声進行、ギターソロもさほど高速ではない。悠長な下行形を切り詰めて反復させ、暗く重々しい響きを重視する。彫琢を加える前のヘヴィメタルの原型を創建したといったところか。

和声と多声の「歪んだ真珠」

一方で、ヴィヴァルディの短調の高速楽章に通じる3要素はハードロックでも聴ける。ディープ・パープルの「紫の炎(バーン)」は典型だ。ディープ・パープル出身のギタリストのリッチー・ブラックモア、ボーカルのロニー・ジェイムズ・ディオ、ドラムスのコージー・パウエルらがメンバーだったレインボーもヘヴィメタルの起源の一つだろう。レインボーのアルバム第3作「バビロンの城門」(1978年)の名曲「キル・ザ・キング」(ブラックモア、ディオ、パウエル共作)はヴィヴァルディを想起させる。


Kill The King

「キル・ザ・キング」で特徴的なのは、短・長調三和音の単純な分散和音によるリフ「Gm→F→Gm(Ⅰm→Ⅶ→Ⅰm)」の多用だ。このリフは転調して音高を変える。曲の調性は3つに分かれ、前半はト短調(Gm)、中間部の超高速のギターソロはイ短調(Am)、後半はさらにロ短調(Bm)。歌の旋律と和声進行は平板だが、後半に出てくる典型的な下行形「Bm→A→G→F♯」が曲の重く暗く速い様式美を体現している。

ヘヴィメタルの場合、歌は美旋律でないほうがいい。ヴィヴァルディも「夏」「冬」の高速楽章は美旋律で聴かせるわけではない。ボーカルや独奏ヴァイオリンがメロディアスに歌いすぎると、歌の旋律が曲全体を支配する単なるホモフォニー(和声音楽)に堕する。クイーンやオアシスはそれでもいい。だが「歪んだ真珠」を意味するバロックは、ホモフォニーとポリフォニー(多声音楽)が劇的にせめぎ合う歪曲した場であってこそスリリングな魅力を高める。ヘヴィメタルでは歌だけでなく、ギターやベースやドラムスのリフやソロ、リズムの多声的な進行に惹きつけられる。バロックとヘヴィメタルは相性が良い。

「クラシック名曲 ポップにシン・発見」全編 >

池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
音楽ライター。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー兼日経広告研究所研究員。早稲田大学商学部卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートの執筆も手掛ける。日経文化事業情報サイト「art NIKKEI」にて「聴きたくなる音楽いい話」を連載中。
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