今月の音遊人
今月の音遊人: 上野耕平さん「アクセルを踏み続けることが“音で遊ぶ”へとつながる」
12896views
「あがり」を克服し、最高のパフォーマンスをするためのバイブル/本番に強くなる!~演奏者の必勝メンタルトレーニング~
14910views
2016.4.13
tagged: ヤマハミュージックメディア, ブックレビュー, ドン・グリーン, 辻秀一, 本番に強くなる!~演奏者の必勝メンタルトレーニング~
準備万端で臨んだのに、本番では極度の緊張のためにボロボロ。これまで積み重ねてきた練習は一体何だったのだろうと悔やんでも悔やみきれない。そんな経験がトラウマになり、本番前の不安や恐怖心をさらに増大させてしまう。演奏者にとって「あがり」ほど厄介なものはないだろう。
「不安な気持ちに打ち勝つだけでなく、不安な気持ちをうまく活用する方法を学べば、プレッシャー下でも見事な演奏ができるようになる」と著者のドン・グリーン氏は語る。確かにその通りだろうが、果たしてそんなことが本当に可能なのだろうか。
著者はアメリカ有数のパフォーマンス・コーチで、スポーツ心理学をベースに、数々のオーケストラや音楽大学でメンタルトレーニングの指導を行っている。その手法を公開した本書は、そのものがメンタルコーチともいえる内容となっている。
一方、監訳の辻秀一氏は演奏者のためのメンタルトレーニングを提唱したスポーツドクター。本作は、話題を呼んだ前作『ジュリアードで実践している演奏者の必勝メンタルトレーニング』と同じコンビによる一冊となる。
さて、「あがり」の克服という難題に立ち向かうにも関わらず、本書を読み始めようとするときにはワクワクした気分になるから不思議だ。「必ず結果は出ますから。健闘を祈ります」。著者の序章の言葉に導かれ、スタートラインに立ってシートベルトを締め、未知の世界へ大冒険に出るような感覚になるからだろう。
ただし、これさえ読めばたちまちすべてが解決する魔法の本ではないことを最初に申し上げておきたい。メンタルを整えるスキルを得るためには、当然ながら地道なエクササイズが必要なのだ。本書のメソッドは、まず「パフォーマンス・アンケート」に回答して採点し、読者一人ひとりがそれぞれの強みと弱みを把握することから始まる。
プレッシャーがかかる状況では、どんな演奏でも「サブオプティマル・パフォーマンス(力をまるで発揮できない演奏)」「オプティマル・パフォーマンス(非常に良い演奏だが、潜在能力を完全に出しきっているわけではない状態)」「ピーク・パフォーマンス(究極の理想レベルに達した状態)」の3つに分けられるというが、本書では最高の演奏のカギとなる「オプティマル・パフォーマンス」に焦点を当てる。
そして、この「オプティマル・パフォーマンス」に必要な7つの基本スキルを紹介し、それぞれの「パフォーマンス・アンケート」のスコアに応じたメンタルトレーニングを積み上げていく。さらに、新しいスキルを試すための上級トレーニング、そして本番前へと難度を上げたエクササイズが続く。
興味深いのは、音楽家にとっては右脳と左脳を巧みに切り替えることが非常に大事だということ。さらに、訓練すれば劇的な効果が得られる「センタリング」という集中するための方法は画期的だ。
ストレスによって人は成功するか、つぶれるかのどちらかしかないという。「自分は本番できっと成功をつかむことができる!」。読み進め、きちんと実践していくことで、そんな勇気が湧いてくる。
『本番に強くなる!~演奏者の必勝メンタルトレーニング~』
著者:ドン・グリーン
監修:辻秀一
訳者:岩木貴子
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2016年1月21日
価格:1,600円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。