Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:大石昌良さん「僕がアニソンと出会ったのは必然だったんだと思います」

シンガーソングライター、作曲家、さらにはバンドSound Scheduleのボーカリスト&ギタリストと、さまざまなスタイルでマルチに活躍する大石昌良さん。彼が大きく影響を受けたアーティストや音楽への向き合い方について伺いました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

アルバム単位になりますが、たまの『ひるね』だと思います。小学生の頃、家に『ひるね』のカセットテープがあって、それが大好きで、聴いて育ちました。今でも耳や心をリセットする時によく聴いています。
たまはコミックバンド扱いされたり正統派ではない感じで扱われたりもしていましたが、音楽センスがハンパなく高いし、そこはかとないビートルズ・イズムも源流として感じられて素晴らしいと思います。『ひるね』を若い人たちに紹介するとしたら「今、聴くべきアルバム」と言いたいですね。笑いの要素もあるけれど、一方で「なぜここにこのリズムがあるんだろう」とか「なぜ一発録りでこのボーカルのピッチが合うんだろう」とか、自分が音楽をやればやるほど隠れたすごさに気付くんです。
もう30年くらい聴き続けていますが全然飽きませんし、新たな発見があります。特にすべてが4ピースの生楽器で構成されているところに影響されていて、自分がアニソンを作る時も、極力全部の音を生音で仕上げています。それも『ひるね』を聴いていたおかげで、生音のマジックを信じているからだと感じています。

Q2.大石さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽には「自分のために奏でるか、誰かのために奏でるか」の二つのベクトルがあると思います。自分が気持ち良くなるために作るのも音楽の形ですが、僕は人を喜ばせたり心を動かしたりする音楽にもすごく興味があります。音楽で誰かが気持ち良くなったり心が晴れたりする姿を見て自分も達成感を得る。それも音楽の形だと思うんです。特にコロナ禍を体験した今は、余計にそういう気持ちが強いですね。
でも、ここに至るまでには僕自身も壁にぶつかるというか、音楽の在り方を考えさせられたんですけど、自分の心を深く掘り下げるいい機会でもあったと思いますし、自分の弾き語りをインターネット配信することで得た、たくさんの人との貴重な出会いもありました。
バンドを解散してシンガーソングライターになり、全部一人でやらなくてはいけなくなった時に「自分はこんなにも無力なんだ。音楽って一人でやるもんじゃなかったんだ」と初めて気付いて、そこからずいぶん変わりました。誰かのために曲を書いたり歌ったりする方が、もっと自分のフォーカスが合うんじゃないかと考えるようになって、エンタメ重視というか、来てくれたお客さん重視の音楽を作るようになりました。そんな頃にアニメソングに出会ったんです。アニソンは、まさに誰かのためにサービスする音楽の極致じゃないですか。だから僕がアニソンと出会ったのは必然だったんだと思います。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

ステージ上で解き放たれている人、歌唱している時に歌そのものになっている人。言い方を変えると、ゾーンに入っている人は完全に音で遊んでいる人だと思います。最近だと『竜とそばかすの姫』の中村佳穂さんはすごいと思いました。これほど歌そのものになれるんだなって。
でも、ゾーンに入るためのプロセスは、やはり努力しかないですよね。どこでパフォーマンスしても恥ずかしくないような自信をつけるための練習をしておかなければいけないし、そうしたプロセスがあってようやく解き放たれる。それこそがエンタメの境地だと思いますし、自分もそうありたい。時々、ステージで歌っている自分を僕自身が上から見ているように感じることがあるんですが、そうなった時はスタッフも含めてみんなに「良いライブだった」と言ってもらえたりするので、その確率をいかに上げるかが、これから僕がプロとしてやるべきことだと思っています。

大石昌良〔おおいし・まさよし〕
1980年1月5日生まれ。愛媛県宇和島市出身。2001年に「Sound Schedule」のボーカル&ギターとしてメジャーデビュー、数々の作品を残す。2008年に「大石昌良」としてソロデビュー。アコースティックギターの弾き語りスタイルで、全国のライブ会場のみならずインターネットでも話題を呼ぶ他、アニメ作品やアーティストへの楽曲提供を中心に音楽クリエイターとしても活躍。「オーイシマサヨシ」名義でアニメソングシンガーとしても活動している。
オフィシャルサイト

photo/ 小林大介

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

武田真治インタビュー

今月の音遊人

今月の音遊人:武田真治さん「人生を変えた、忌野清志郎さんとの出会い」

19550views

樫本大進、キリル・ゲルシュタイン

音楽ライターの眼

初共演にして、火花散るようにエキサイティングな一夜/樫本大進&キリル・ゲルシュタイン プレミアム・コンサート

5746views

CP88/73 Series

楽器探訪 Anothertake

ステージで際立つ音色とシンプルな操作性で奏者をサポート!最高のライブパフォーマンスをかなえるステージピアノ「CP88」「CP73」

19419views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

15448views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

13101views

小林洋平

オトノ仕事人

感情や事象を音楽で描写し、映画の世界へと観る人を引き込む/フィルムコンポーザーの仕事

5286views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

10397views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6511views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9636views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7949views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

6565views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28256views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9057views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15580views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#005 ジャズの“伝統”をリスペクトするための“基準点”~『グルーヴィー』編

2964views

江藤裕平

オトノ仕事人

音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事

13940views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2856views

Pacifica

楽器探訪 Anothertake

「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」

3832views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

8720views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

9668views

ギター

楽器のあれこれQ&A

ギター初心者のお悩みをズバリ解決!

1969views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7317views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11844views